庭園

 私は血潮の流出を続けているやくざの下半身を敏捷に飛(跳)び越えると、通用口を通って、蝮屋敷の敷地内に足を踏み入れた。

「うわっ。キメラマンだっ」

 驚愕の叫びを上げたのは、まだ若い、二十代前半と思われるやくざであった。役者にしたいような美形だが、今の私には用がない。又、興味もない。むしろ邪魔だ。私の登場を他の連中に告げて回られるのも面倒である。次の瞬間、大蛇丸が閃いて、若造の首を宙に撥ね上げていた。頭部を喪失した胴体が、即席の噴泉と化して、一帯に無数の血滴をばら撒き始めた。

「……」

 そこは瀟洒な庭園であった。田舎ギャングにしては良い趣味だと云えるだろう。芸術の分野にはまったく疎い私だが、庭の隅々にまで、丹念な手入れが施されているのがわかった。雑草一本許さぬ厳しさが感じられた。

 蝮のカンキチという男、アート方面に進んでいれば、案外大成したのではあるまいか。無論、カンキチがどのような素質や可能性を秘めていようと、彼を殺すことに変更はない。


 私は血刀を片手下段に構えると、玉砂利を敷き詰めた歩道を歩き出した。それは緩やかな曲線を描きながら、屋敷の玄関に通じていた。

「きさまは誰だ?タロエモンに雇われた殺し屋か!」

 野太い声で云わなくてもいい台詞を云いながら、私に接近してくる者がいた。野武士風の格好をした大男で、酷い悪相だった。生まれて此の方、いいことはひとつもしたことがないという顔をしていた。

 大男の後ろに、同様の装備と同様の面相をした奴らが三人いた。全員が抜き身の蛮刀を利き腕(だろう)にさげていた。臨時の用心棒として、蝮屋敷に住み込んでいる旅の傭兵か何かだと思われた。

「生きて帰れると思うなよ、コブラ頭。八つ裂きにして、ピラニアの餌にしてやるぞ!」

 私はその言葉を無視し、猛然と斬りつけると見せかけて、右足の爪先で玉砂利の一部を蹴り上げた。石礫のひとつが、大男の顔面に命中し、さしもの悪党も苦鳴を迸らせた。次の瞬間、魔風のごとく馳せつけた私の剣が、大男の頸部を深々と抉っていた。

「ぐがっ」

 致命的に断ち割られた大男の首から、多量の血液が飛沫となって噴き出した。大男が地響きを立てて、道の上に崩れ落ちた時、私はもう一人の傭兵を殺戮していた。死骸の胸に突き刺さった大蛇丸を抜きざまに、第三の傭兵の首を刎ねた。恐れをなして、背を向けた四人目を私は無造作に斬り倒した。

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