襲撃
私は「次の次の停留所」で下車した。これから、蝮の親分こと、カンキチの屋敷に向かう。彼に怨みがあるわけではないが、会いざまに斬り殺すつもりであった。蝮の首を、蟷螂の親分こと、タロエモンとの交渉材料に使うのだ。彼が所有している「正常に動くミックスマシン」が、私にはどうしても必要なのである。
私はあかなめに教えてもらった道順に従って、蝮屋敷を目指した。雨はやみ、日差しが差し始めていた。その他の打ち合わせもバスの中で済ませてある。私の手紙を携えたあかなめを、タロエモンの屋敷に向かわせた。
本来ならば、私自身が行くべきなのだが、その時間がなかった。タロエモンが雇い入れたという刺客たちよりも先にカンキチを仕留めなければ意味がなかった。ゆえにあかなめに使者を任せたのだ。相応の礼金を渡してあるので、よもや裏切ることはあるまいが、絶対に安心とは云い切れぬ。もし、裏切ったら、視野に捉え次第、問答無用で首を刎ねると脅しておいた。
蝮屋敷の正門が見えてきた。こういう際は、裏口ではなく、表から堂々と入った方が成功率が高いことを経験的に知っていた。門の前に番人風の男が二人いた。どちらも力士級の肉体を有している。蝮一家の博徒に違いない。まだ昼間だと云うのに、門は閉じられていた。殺し屋どもの奇襲が余程に怖いらしい。
「カンキチ親分に至急会いたい」
門番やくざの一人に私はそう話しかけた。やくざは困惑の表情で、当然の質問をした。
「失礼ですが、どちらさんで?」
「わからんのか。見ての通りのキメラマンさ。早くしろ。急ぎの用なのだ。愚図愚図していると親分の命に関わるぞ」
「御用件ならば、まず、あっしがうかがいます」
「おまえに話す理由はない。親分に直接伝えたい」
「では、こちらでしばらくお待ちを。親分に取り次いでまいります」
「よかろう」
私が頷くと、門番やくざは正門の脇に設けられた通用口に近づき、扉を開けた。私は魔影のごとく、やくざの背後に近づくと、腰の大蛇丸を抜きざまに胴体を薙ぎ払った。大量の血潮を飛び散らせながら、上半身が路面に転がり、やくざは絶命した。
「てめえっ。何をしやがる」
などと喚きながら、もう一人のやくざが抜き身の短刀を構えて私に突進を仕掛けてきた。次の瞬間、かわしざまに放った大蛇丸がやくざの頭を貫いていた。私が刃を引き抜くと、やくざはガラクタ同然にその場に崩れ落ちた。
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