旅路

 栄螺小僧の仲間たちが、各種の道具を携えて、どやどやと園内に足を進めてきた。無論、全員妖怪である。粘土の塊りみたいな奴。異様に首の長い奴。牛の体に人の顔がついている奴。外見は老人なのに、乳児の声で喋る奴。

 後日、図鑑で調べて判明したことだが、第一妖怪は、のっぺらぼう。第二は、ろくろ首。第三は、くだん。第四は、子泣き爺という名の妖怪であった。栄螺小僧を含めて、計五人(匹?)の地元妖怪が集結していた。小僧が腕白たちに駄賃を与え、それぞれの棲み処に呼びにやらせたのだ。

 どうやら、この地方では、妖怪と人間の共存関係が成立しているらしい。中央や大都市ではこうはゆかぬ。田舎ならではの特異な現象と云えた。


 のっぺらぼう、ろくろ首、くだん、子泣き爺の四人は、私を視野に捉えると、先を争うみたいにして、感謝の言葉を浴びせ始めた。感激の涙を流している奴もいた。いずれも、サソリマンこと、蠍のギンジに散々な目に遭わされた経験があるらしい。彼らには、私が「悪党討ちの英雄」に見えるようだった。

 実際は、我が身を守るために、ギンジと戦ったに過ぎないのだが、それに関する発言は控えた。私は適当に頷きながら、彼らの賛辞を浴び続けた。


 作業が始まった。私はろくろ首が差し出した大包丁を受け取ると、大俎板の上に載せたエイバイオレンスの死体を切り分け、栄螺小僧が担いできた巨鍋に放り込んだ。

 白状すると、私は料理が得手ではない。しかし、死体の切り分けだけは、私がやるしかなかった。エイの全身に蛇王の毒が回っているからである。私以外の者が迂闊に触れると、死んでしまうのだ。が、丹念に煮込めば毒性は消える。

 毒が消えた後は、彼らの好きなように調理すればいい。ろくろ首は「煮つけにします。煮凝りも楽しみです」などと、嬉しそうに云った。


 トビウオバイオレンスの担当は、のっぺらぼうとくだんと子泣き爺であった。左右の胸鰭は、一旦分解して、刀剣類に加工するそうである。相当な高値で売れるであろうというのが、技術と商才に長けた三妖怪の見立てであった。

 残された死肉は、軽く焙って、天日に数日さらすらしい。最高級の出汁がとれるのだそうだ。

 切り分けを終えた私は、栄螺小僧に頼んでおいた二冊の本を受け取ると、背負い袋に入れた。その後、公園を出て、街道に向かった。私の旅は続く。だが、この旅に目的地はなかった。

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