えい怪人

 空中に浮遊するエイ。自然界にそのような生物は存在しない。化物の正体はキメラマンに決まっている。それはいい。私にとって重要なのは、空飛ぶエイが、どこの団体に属しているのか?である。

 同キメラが、地元ギャングの組員なのか。あるいは、組織が派遣した刺客なのか。後者であろう。海岸で斬り殺したウツボバイオレンスの仲間と見て、まず間違いあるまい。

 私は不安げな表情をしている里長に視線を移し、そして、話しかけた。

「老人。この屋敷に飛び道具はないか?あれば所望したい。代価は払う」


 私が里長邸の庭に姿を現すと、上空のエイバイオレンスはいささか驚いた様子であった。登場の仕方があまりに唐突で、無造作だったからだろう。

 私の左手に年代物の大弓が握られていた。私は矢を番えざまに、頭上の標的に照準を定めた。

 私が発散させている猛烈な殺気を感知したらしい。エイバイオレンスは扁平な体躯を滑らかに翻すと、その場から飛び去ろうとした。次の瞬間、敵の移動と私の射撃がほぼ同時に行われた。

 狙い過たず、私の矢はエイバイオレンスの急所を見事に射抜いた…と云いたいところだが、実際はその左翼に掠り傷をつけた程度の成果であった。だが、それで良いのだ。浅い深いは関係ない。当たりさえすれば、私の勝ちだった。


 里長に弓を返しざまに、私は門を出て、エイバイオレンスの行き先を追った。どういうわけか、栄螺小僧が私の後についてきた。余程に暇らしい。私などに関わるとロクな目に遭わない。が、まあ、いい。好きにさせておこう。彼がどのような運命を辿ろうが、私の知ったことではない。

 エイバイオレンスの肉体に恐るべき異変が発生している筈だった。私が放った矢には、コブラの毒が塗り込まれている。毒の回りは極めて早い。それが一定水準に達すると、体表のあちこちに亀裂が走り抜け、肉と肉の間から、大量の血潮が噴き出すのだ。


 エイバイオレンスが血の花火を虚空に咲かせながら、地上に落下した。墜落地点は屋敷近傍の児童公園だった。園内には里の子供が数人いた。いずれも腕白そうな顔立ちをしているが、突然「空から、血まみれのエイが降ってきた」ので、さすがに仰天したみたいである。

「そいつにさわるな!死にたくなければ家に帰れ!」

 私は警告を発した。同時に、腰の愛剣、大蛇丸を抜き払った。血の海の中でもがいているエイバイオレンスに私は迫った。

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