尋問

「うぎゃあーっ」

 ウツボバイオレンスの口から、苦悶の絶叫がほとばしった。大蛇丸に断ち割られた脇腹から、内臓類が先を争うようにして、ゴボゴボと湧き出していた。砂面にぶちまけられた臓物と血液が強烈な臭気を放っていた。

 ウツボバイオレンスの失敗(敗因)は、得手としている水中戦ではなく、私の得手である地上戦を挑んできたことである。

 功を焦っての決行であろうが、刺客にしては粘りが足りない。慎重な追尾を維持しつつ、チャンスを待つべきだった。もし、雌蛇ごとき、なんとでもなると、ウツボが考えていたのだとしたら、私も安く見積もられたものである。

「くわっ」

 ウツボバイオレンスは滝のような出血を左手でおさえながら、右手の銛を私に向かって繰り出してきた。顔面を狙った攻撃であったが、速さと鋭さを著しく欠いていた。私は最小限の動作でそれをかわすと、ウツボに肉迫し、踏み込みざまに斬りつけた。次の瞬間、斬断されたウツボの右腕が、得物を握った状態で砂上に落ちた。

「ぎょえーっ」

 再度の絶叫が朝の海岸に響き渡った。右手を喪失したウツボバイオレンスが、虚空に血潮を噴き上げながら、その場にくずおれた。

「……」

 私は無言で歩み寄り、ウツボバイオレンスの顔を無造作に蹴った。

「げはっ」

 無様に転倒したウツボバイオレンスに、私は質問を投げた。

「仲間はどこだ?どこに隠れている」

 返答はなかった。私はもう一度、ウツボバイオレンスを蹴った。今度は胸だった。手加減、ならぬ、足加減を怠ったので、ウツボは数メートルほど吹っ飛び、後方の岩に背中を打ちつけた。激痛に呻くウツボに、私は改めて質問した。

「答えろ。仲間はどこだ?」

 返事があった。

「知らん。仲間などおらん」

「いないだと?とぼけるな。おまえ一人で私を追ってきたと云うのか。あいつといっしょではないのか?」

「あいつって、誰だ」

「云わねばわからんのか」

「わからん」

「ならば良い」

 頷きざまに、私はウツボバイオレンスの首を刎ねた。薙ぎ落とされた魚頭が、血飛沫を撒き散らしながら、凄い勢いで浜辺を転がり、波にさらわれるみたいにして、海中に飲まれた。残された胴体が、即席の噴泉となって、血液と体液を一帯に飛び散らせていたが、やがて、嘘のように止まった。

「……」

 戦いは終わった。私は刀身に絡みついた血の糸を懐紙で拭うと、腰の鞘に大蛇丸をおさめた。

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