うつぼ怪人

 まことに興味深い話であった。全てのミックスマシンを破壊せよ!というネオ幕府の「金剛通達」が発布されたのにも関わらず、この地方には、かなりの数のマシンが残存しているのだ。私は同情報を脳髄に刻み込んだ。


「さて、コブラの姐さん。御足労なんだけどさ。おいらといっしょに里長の屋敷まで来てもらえないかね」

「里長の屋敷?何のために?」

「賞金の受け取りだよ。姐さんはギンジをやっつけてくれたからね。当然、その資格がある。有志のカンパだから、大した額じゃないよ。でも、路銀や酒代の足しぐらいにはなるんじゃないかな」

「そうか。ギンジの首には賞金が懸けられていたのか……」

「どうするね。そんな端金は要らないとでも云うのかね」

「そんなことはない。ありがたく頂戴する。だがその前に、片づけるべき面倒ができたようだ……」

「えっ」

「離れていろ、妖怪。巻き添えを食ってはつまらんぞ」

 栄螺小僧は「ひえっ」と叫びざまに、その場から飛び退いた。次の瞬間、海面を切り裂いて、異形の存在が虚空に躍り上がった。魚頭人身のキメラマンの登場であった。魚頭は右手に銛状の凶器を握っていた。なめらかな刃面が陽射しを浴びて、十文字に輝いていた。

 こいつのことは記憶している。殺し屋チームの一員、ウツボバイオレンスだ。組織では、動物名の後ろに「バイオレンス」をくっつける習わしのようなものがあった。たまに例外もあるが。私みたいに。

「ぬはははは。随分探したぞ、コブラガール!」

 ウツボバイオレンスはまったく必要がない笑いと台詞を吐きながら、私に襲いかかってきた。

 コブラガール。それが私の名前だ。無論実名ではない。上層部が勝手につけたものだ。近年では「反逆者の代名詞」のように使われているそうである。


「きさまの蛇頭をボスがお望みだ。裏切り者の雌コブラめ!これまで散々手こずらせたが、覚悟しろ。今日がきさまの命日、この浜がきさまの墓場になるのだ!ぬはははははははは」

「……」

 私は事務的とさえ云える動作で、腰の愛剣、大蛇丸を抜き放った。襲撃者がこの馬鹿で本当に助かった。私が怖いのは、あいつと首領ぐらいである。

 一対一の勝負ならば、誰であろうが、おさおさ引けは取らぬ。私は「蛇界の帝王」たるキングコブラと融合した最強の女戦士なのだ。魚類ずれとは格が違う。私はウツボバイオレンスの銛をよけざまに、敵の脇腹を剣で薙いだ。

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