ミックスマシン

「いかにも、ギンジを斬ったのは私だ。弁解をするつもりはないが、これだけは云っておく。仕掛けてきたのは彼の方だ。私はやむなく応戦した。手加減をできる相手ではなかった。殺さなければ、私が殺されていた」

 私の説明に納得したのか、栄螺小僧はフムフムと頷きつつ、

「そうか。やっぱり、あんただったのか……。強いんだねえ、姐さんは。ギンジはこれまでに他のキメラマンと何度も対戦している。でも、あいつをやっつけたのはあんたが初めてだよ。コブラの姐さん」

「まあ、それはそうだろう」

 と、私は思ったが、口には出さず、別のことを喋った。

「ところで、あんたは何故私を知っている?私のことを誰に聞いた?」

「煮売屋だよ。昨夜は姐さんの噂で持ち切りだったよ」

「私は話題に値するほどの大物ではない。一介の旅の剣士に過ぎぬ」

「またまた、姐さんも随分な謙遜屋だね!ともあれ、礼を云うよ。この界隈の者たちは、ギンジに散々泣かされてきたからね。あんたのおかげで、ここらも平和になるよ。本当にありがとう」

 栄螺小僧は私に向かって、深々と頭を下げた。これには困った。どう応じていいのかわからず、私は沈黙していた。私の態度が奥床しいものに映ったらしく、小僧はしきりに感心していた。こういう際、蛇頭は便利だ。


「ギンジが合成戦士(サソリマン)に成ったのはいつ頃の話だ?」

 私は栄螺小僧に質問した。心に引っかかることがあったのだ。

「ここ半年かなあ。あいつは札付きの悪党でね。博徒の世界では〔蠍のギンジ〕という綽名で呼ばれていた。で、あの馬鹿。本物の蠍に成りたいなんて云い出してさ。蠍といっしょに『あれ』に入り、サソリマンとして再誕したんだよ」

「半年だと?では、この土地には融合機械(ミックスマシン)が残っているということか?廃棄もされずに」

「あるある。正確な台数はわからないけど、相当あるよ。所有者の大半はギャングの親分だけどね。そんなもんだよ、姐さん。いくら中央でわあわあ騒いでも、田舎にはなかなか届かないし、守るやつも少ないよ」

「……」

「でも、ギンジが入ったミックスマシンは、どうやら欠陥品だったらしい。融合は成功したけど、その後、あいつは『人間としての意識』を失ってしまったからね。食欲と本能に任せて行動する『真の殺戮者』に成っちまった。あいつが最初に殺したのは、マシンを貸してくれたボスだったと云われているよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る