始まりの日 4
「あなた、も……?」
ピッと魔女キタカゼが父の方に指を向けた。
「お父さ……」
声を上げるのも、時すでに遅く、父が倒れていくのが目の端で見えた。
腕をぐっと掴まれる。泣きそうな顔で母の方を向いたが、腕を離してはくれなかった。
人だかりができる。
お父様は無事なんだろうか。誰かお父様を助けてくれている人はいるだろうか。
「こっちだ!」
ダン……!っと廊下へ続く大扉が開き、何人もの人が扉に走る。
「あッらァ……?ど・こ・に・い・く・の?」
バタバタと、人間が倒れていく。
震える身体を止めようとして自分を抑えるけれど、震えが止まらない。
「フフッ。あのお邪魔さんほどめんどゥくさい子は、ここにはいないみたい、ねェ」
魔女キタカゼが何かを言いながら人々に指を差し、その度に誰かが倒れていった。
床を……凝視するように見つめる。その間にも、遠く、近くで誰かが呻き、倒れる音がした。
ドン、と衝撃が起こり、隣で誰かが倒れる気配がする。
「お母様……!」
母が倒れた。周りを見渡すと、たくさんの人々が、倒れ伏し、折り重なっている。
「お母様!お母様!?」
……息はあるようだけれど、目を開ける気配がない。
トーマス……エミル……。倒れている人達に、親しい人の顔がある。
この現実味のない部屋で……それでも、自分の身体が、動けなくなっていくのがわかる。
近くで、静かに、金属の音がした。
エルリックが、携えた剣を、抜き放つ音だった。
「エルリッ……」
魔女キタカゼを見据えたまま、何か合図をするように少しだけ、動いた。
「あッらァ……?その剣……。見たことあるわァ」
魔女キタカゼが、ゆっくりとエルリックの方を見る。
「聖剣……。あなた、王子様なのねェ……」
それは確かに聖剣だった。どんな剣よりも銀色に輝き、魔を切るという伝説の剣。王家に伝わる、唯一の剣。
掛け声をあげ、エルリックが魔女キタカゼに飛びかかる。
空中に浮いているにも関わらず、エルリックが飛び上がり、剣は魔女キタカゼの胸の上へ。
「で、もォ。いくら剣が強くても、本人が弱かったら、どうなるでしょうねェ……?」
スッとエルリックの剣を避け、エルリックを追いかけるように地上へ降りると、魔女キタカゼはエルリックの額に、指を置く。
「や……!やめ……て!」
思わず声を上げると、魔女キタカゼはマリィの方を向いた。
「小さなお嬢さん……まずはあ・な・た?」
空いている方の手を上げ、その指が、マリィの方を向いた。
「マリィ……!」
耳と目を塞ぎ、うずくまる。
すると、ガン……ッと、マリィの目の前で、大きな音がした。それはまるで何かが金属に当たるような音で、とても耳に響く。
え……?
マリィは、無事だった。
何かが……透明の何かが、マリィを守ったように、見えた。
魔女キタカゼですら、面食らったような顔をしている。
ふふん、という顔でマリィとエルリックの顔を交互に見た。
「あッらァ……。そういうこと、なの?あのねんねちゃんったら、こんなお嬢さんにご執心なのねェ。で、も。ふふッ」
魔女キタカゼは、とても面白そうな顔をした。こんな面白いことはないと、そう言っているように瞳が黒く光った。
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