第14話 アプリが戦う力になる

 そもそも武器って一般人が簡単に手に入れられるものなのか?

 日本だと武器なんて簡単に手に入らなかった。

 日本刀は買うことはできるんだっけ。

 銃はモデルガン止まりだし。

 ここはどうなんだろう。


「なあエイル、武器の携帯ってなんか罰せられる法律とかあるのか?」

「あるのよ。狩猟協会に登録してれば平気なのよ」

「なにその冒険者ギルドっぽいところは」

「狩猟道徳の向上、野生鳥獣の保護、有害鳥獣駆除及び狩猟の適正化といったことを、仕事にしてるのよ。獣肉や毛皮とかの買取もしてるのよ」

「めっちゃ冒険者ギルドっぽいじゃん。討伐クエ専門みたいな感じか」

「そう思っても構わないのよ」


 てことは、その狩猟協会に登録して、素材を売って生計を立てるしかないのか。


「俺でも登録できるのか」

「……技能試験で落ちるのよ」

「試験があるのか……」

「知識試験、適性試験、技能試験の3つがあるのよ。まずはうちの助手として経験を積むのよ。話はそれからなのよ」

「助手?」

「うちが免許持ってるのよ。研修を兼ねてうちの助手をすればいいのよ。そうすれば武器携帯もできるのよ」


 なるほど。エイルが保証人みたいなものか。

 となると、武器をどうやって手に入れるかだな。

 この世界の武器だと、俺は使えないだろう。


「でもその前に、肝心の武器がないからなー。武器があっても技術がないからなー。どうしようか」

「……ほんと使えないのよ」

「マスター」


 悩んでいると、タイムが声をかけてきた。


「なんだ?」

「アプリを使えば、戦う力が手に入るんだって」

「え? そうなの?」


 言われて携帯スマホのアプリストアを覗いてみる。

 ……検索ワードはなににすればいいんだろう。

 スキル? 魔法? 銃器?

 いやいや待て待て。この世界だって法律があるだろうから、その辺考慮しないと。

 ま、その辺は後でエイルに確認すればいいか。

 とりあえず、戦う力がないと話にすらならない。


「どのアプリを使うんだ?」

「えっとね……武器は、ゲントーキで出せばいいみたい」

「あれって映像だけで、物理的な質量は無いんじゃないか?」

「んと、片手剣くらいなら、今の処理能力でもなんとかなるって言ってる」


 おお、つまりただで武器が手に入るってことか?


「じゃあ試しに出してくれないか」

「ちょっと待って……えっと、ゲントーキを起動して」


 幻燈機ポップアップディスプレイを立ち上げればいいのか?

 携帯スマホを操作してアイコンをタップする。


「モデルストア? 人身売買はダメだよ! にゃあ?! 全然違うの? うにゅー、怒鳴んなくてもいいじゃん」


 そっちのモデルじゃないだろ。

 えーと、モデルストア……何処だ?

 サブメニューの中にあるのか。選択してっと。


「んにゃ? モデリングデータ? っていうのを、買えばいいの?」


 買わなきゃダメかー。お金を稼ぐために借金をする。自転車操業かな。

 種類は……武器かな。商品ツリーを手繰たぐって片手剣を表示させる。

 結構数があるな。

 長剣ロングソード短剣ショートソードの2種類か。

 価格的にもあまり高いものは無理だ。

 5千円くらいでないかな。


「近接戦闘をするのよ?」

「予算的に高いものは無理かなと。弓は矢代がかかるし」

「銃器はないのよ?」

「使ったこと無いし。いや、だからって剣も使ったこと無いけどさ。それに護衛なら前衛職だろ。余程の腕がないと後衛で護衛は無理があるよ。後ろから撃たれたくないだろ」

「大丈夫なのよ。後ろから撃つのはうちなのよ」

「怖いこと言うな!」


 でも武器を持ったからって、戦えるわけでもないんだが、そこはどうすればいいんだろう。

 アプリでなんとかならないかな。

 その前に武器を買わないと。

 1番安い奴だと……1980円か。安すぎない?

 本物の値段なんて知らないけど、原材料分もないだろこれ。

 モデリングデータだから安いのかな。

 とりあえずこれを購入する。


「タイム、買ったぞ」

「そしたら……んと、所持モデルから表示したい物を選べばいいんだって」


 サブメニューから所持モデルを選択。

 ん? 剣以外にもなにかあるな。

 名無しのフォルダ? でも鍵が掛かってて開けられない。

 なんだろう、気になる。

 今は置いておくとして、購入した剣のモデルを選択する。

 すると、目の前に線が走った。

 線が徐々に増えていく。ワイヤーフレームって奴だ。

 白く光って弾けると、購入した剣が浮いていた。

 つかを握って手に取る。

 すると急に重みがかかり、落としそうになった。


「おっとっと」

「危ないのよ」


 とりあえず武器は手にはいった……でいいのかな。

 剣自体はそこまで重いものじゃない。むしろ想像していたより軽い。

 だからといって、振り回せるほど軽いものでもなかった。

 多分振り回されるだろう。

 圧倒的に筋力が足りないんだ。

 実際どうなるか試してみたかったが、この狭い部屋でやるわけにもいかない。

 今日はもう遅いし、その辺は明日かな。


「んと、スキルは専用アプリがあるからそれを入れて、後は訓練すればいいって」

「訓練?」


 あれ、声はするけど姿が見えないな。どこ行った?

 声もなんかくぐもって聞こえる。


「スキルを覚えても身体が慣れなきゃ使えないし、筋力が足りなければスキル自体が不発になるから鍛えろ……だって」


 あー、そういえば最初にそんなことを言われたような気がする。

 確かにいくらかたを知ってても、筋力がついてこなけりゃ扱えないわな。

 まずは筋トレしろってことか。

 狩りができるのはかなり先になるんじゃ……

 携帯スマホ料金、払えるかなー。

 アプリってどんなのがあるんだろ。

 えーと、うわっ!

 携帯スマホの画面を見ると、隅っこにタイムがドット絵で表示されていた。デスクトップマスコット?


「……なにやってんの?」

「んとね、GPU性能っていうのが低いから、武器を出してるときはタイムを投影できないんだって」

「そこで携帯スマホの性能が関わってくるのかよ」


 なるほど、だからドット絵になったのか。1枚絵だと動けないしな。

 アニメーションパターンは少ないけど、それなりに動いている。

 声も携帯スマホのスピーカーから出ていたから、いつもと違って聞こえたのか。


「投影できなくもないけどって、できるならしようよ! え? コマオチするか、画質荒くするか選べ?」


 なんだその対策内容。


「じゃあコマオチで」


 あー、画質は落としたくないのね。

 画面上のタイムが消えて、いつものように肩に表れた。


「マスター、どうですか?」


 どうですかと言われても……


「物凄くカクついてるな。1fpsでてるか?」

「タイム、銃撃戦は苦手だよ」


 コマオチは理解しているのに、fpsは理解していないのか。


FPSファーストパーソンシューティングじゃなくてfpsフレームパーセカンドだよ」

「フレーム……にゅ?」

「1秒間に何回書き換わってるかって意味だ。1fpsは……いっぱいコマ落ちしているってことだよ」

「いっぱい……それ、ゲームにならなくない?」


 ゲームじゃないんだけど……。

 どっちにしても、フレームレートは重要かも知れない。

 持っている剣まで1fpsとか、意味が分からない。

 普通に振ることはできるんだけど、手の動きに表示が追従してこないんだよね。

 宙に浮いた剣が次の瞬間手の中に、そしてまた置いてけぼりって、訳分からん。

 完全に紙芝居だ。やってられない!


「タイム」

「イエス、マスター!」

「お前、携帯スマホの中に入ってろ」

「えー!? なんでですか? 可愛いタイムを愛でれなくてもいいんですか?」

「自分で可愛いとか言うな。それは分かってるから、とにかく中に入ってろ。タイムの言うとおり、ゲームにならないんだから」

「うゆ、わかった」


 傷心のイッヌは、携帯スマホの中で背中を見せてイジケていた。

 画面越しに頭をよしよししてやる。

 背中を見せたままイジケているのは変わらないが、尻尾は正直だった。

 ホント可愛いなあ、イッヌは。

 じゃ、改めて検索してみるか。


[検索:剣 スキル]


 うわ、結構あるな。

 フィルター掛けないと絞れないぞ。

 あ、でもその前に基礎スキル買った方がいいかも。

 〝筋力増強〟とか〝速度増加〟みたいなの、ないかな。

 そういうのがあれば、筋トレしなくてすむかも知れない。

 そういうチートスキルないかな。

 検索ワードはなににしよう。

 まあテキトーでいいか。検索エンジンが賢ければ、なんとかなるだろ。


[検索:基礎スキル]


 どれどれ、これも結構あるな。

 ん? なんか似たようなスキルも結構あるぞ。

 この〝筋力増強〟と〝筋肉増強〟ってなにが違うんだ?

 スキル概要でも見てみるか。

 ……アプリ制作者が違うだけかよ!

 価格も一緒だし、内容ほとんど同じじゃないかっ。

 いっぱいあるように見えて、こういう重複アプリも山ほどあるぞ。

 自分にあった物を探すだけでも大変だなこりゃ。

 どうしよう。

 アプリ評価でも参考にして買うか?

 ……多言語で書かれすぎてて読めねえぞ!

 なに、もしかして翻訳言語インストールさせるためにこんななのか?

 アプリ評価が全く役に立たないとなると、もう実際に入れて試すしかないのか。

 あーでも全部有料なんだよな。

 お、払い戻しポリシーとかあるぞ。

 なになに。


[購入後1ヶ月以内なら、全額返金対応できます]

[1度返金対応したアプリは、次回インストール時に返金対応できません]

[月額利用料の返金には対応していません]

[アプリ内購入は返金対象外です]


 ……か。

 お試しは1回までってことか。

 さて、どうしようかな。

 これだけあると見ているだけで時間が過ぎていく。

 いつの間にかエイルはノートPCに向かってなにやらやっているようだ。

 タイムはというと、デスクトップマスコットのくせに、寝てやがる。

 つついても起きやしない。

 よだれを垂らし、ご丁寧に[zzz]の吹き出しまで出している。意外と芸が細かい。

 剣はもうしまってあるから、外に出してやれるけど……

 よし、ほっとこう。

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