オマケにしては長いエピソード 海だ! 水着だ! イカの一夜干しだ! 魔王の妹だ! その8

 港町に戻った俺たちはクラーケンの討伐部位をギルドに引き渡した。

 そうして海運商会をまるごと買取る関係の事務仕事をアリサに任せ、家に戻ることになった。

 既に数日間も畑をほったらかし……っていっても留守番のエルフに任せているので良いっちゃあ良いんだがそれでもやっぱり心配だ。


 で、俺たちは軽トラで家に帰って――



「イカなのですー」


「一夜干しなのですー♪」


「うまうまなのですー♪」


 家に戻った俺はさっそくとばかりにイカの一夜干しを作成した。



「塩辛なのですー♪」


「見た目グロいのですー♪」


「でもー美味しいのですー♪」



 うんうん、塩辛も好評みたいだな。一晩しか漬けてないので、かなり浅い漬かり方だが、俺も塩辛を実食してみる。


「うんめえーっ!」


 旨味成分の塊とも言えるような驚異的な味わい深さだ。

 デカさがデカさなので大雑把な味を予想していたんだが、完全に間違いだった。

 で、一夜干しを焼いたやつを口に入れると――


「やっぱりうんめえーっ!」


 いやー、ヤバいわこれ。

 寿司屋とかだったらこれだけで数千円とられるんじゃねーか?


 ってか、こんな美味いイカを食ったことない。

 で、俺は再度イカの塩辛を口に含んで――ストックしておいた大吟醸の日本酒を飲み込む。


 ――美味すぎて引くレベルだ


 幸せ過ぎて死にそうだ。

 思わず口がゆるんじまうなコレは。


「しかしご主人様。イカの臭いが凄いでございますね」


「一夜干しだけじゃなくてスルメも作ってるからな」


 絶賛で干し物を作っている最中なので、小屋の周りは非常にイカ臭い。


 と、そこでソーニャがニコニコ笑顔を作った。



「私はイカの臭いは嫌いじゃないですよー? だって……タツヤの臭いと一緒なのですー♪」



 イカ臭いのがどうして俺の臭いに……?

 ん? マリアがなんかエロい目で俺を見て舌なめずりして喉をゴクリと鳴らしているな。


 あ、そういうことか。


「そういう話題は止めとこうな、ソーニャ」


「ふえ? どうしてなのですー?」


 なるほど。そもそもが下ネタという概念を認識していないようだな。

 ってか、これ以上はマジでいけない。生々しくなりすぎるのは良くないからな。

 ちなみに亜斗夢君は顔を真っ赤にして恥ずかしがりながら、イカの一夜干しの臭いを恐る恐るにクンクンと嗅いでいる。


 ってか、どうしてこの子が一番乙女な反応をしているのだろうか。


「……だからリヴィアたん言うな」


「くふふー! 本当にお主は愛いやつじゃのう……リヴィアたん」


 酔ったコーネリアが一升瓶片手にリヴィアに抱き着いていた。

 どうにもコーネリアは酔うと抱き着く癖があるみたいだな。この前もソーニャに抱き着いていたっけ。


「……だからリヴィアたん言うなーっ!」


「我が妹ながら本当に可愛いのう」


 あ、抱き着きながらほっぺにキス……。


「……ちゅ、ちゅ、ちゅーすんなーっ!」


 頬を膨らませてリヴィアはコーネリアを引きはがそうとする。


「ふははー! 良いではないか良いではないかっ! リヴィアたん!」


 どこの悪代官なんだよ……と、思っていると亜斗夢君が顔を真っ赤にして気まずそうにしている。

 抱き着いている辺りはニヤニヤと幸せそうだったのに、ほっぺにキスはちょっと亜斗夢君には刺激が強すぎたようだ。


 ――ってか、どうしてお前はそんなに乙女なんだよ。


「……だからリヴィアたん言うなーっ!」


「ふはは! 我に一度でも勝利をすれば考えてやらんこともないぞ?」


「……何故に私はお姉ちゃんには勝てない……今回で32450戦32450敗……」


 喧嘩しすぎだし、負けすぎだろっ!?


「くははっ! それはおぬしがお子様じゃからじゃよ!」


「お子様?」


「リヴァイアサンはサキュバスと同じく……異性の精気を喰らい力を高めると言う特殊能力がある。処女のリヴィアたんは本来のリヴァイアサン種の力を十分に扱えぬのじゃ。その状態で我に勝てる道理はなかろう?」


 おいおい、話の流れが……おかしくなってきたぞ?


「……処女ではお姉ちゃんに勝てない」


「お? ここに人類最強の男がおるではないか。精気を吸い取る先としては完璧じゃ」


 そうしてリヴィアは俺に視線を向けて――。


 プイっとした感じで頬を膨らませながら、明後日の方向を向いたのだった。


「くははっ! ウブな反応じゃのうっ!」


 そうして何が面白いのか上機嫌にコーネリアは高らかに笑い続けたのだった。





 ――その日の夜。


 みんなが酔いつぶれてリビングで寝てしまった。

 久しぶりに静かな夜を過ごせるとベッドで横になっていると、ドアがギィと開かれた。


 見ると、薄暗闇の中に見た目……中2か中1くらいの青髪の女の子が立っていた。

 スケスケのネグリジェに、露出度の高い下着が良く映える。


「……初めてなので……優しくして欲しい」


 あー、うん。予想はしてたけど――




 ――やっぱり来たのね……リヴィアたん






 で、翌朝。


 雀のさえずりと共に俺とリヴィアは目を覚ました。


 で、雀のさえずりのようにリヴィアはちゅんちゅんと俺におはようのキスを何度もしてきた。


「意外に積極的なんだな」


 そういうとリヴィアは頬を赤らめる。


「……ともかく私はこれでお姉ちゃんを超えることができたはず」


 まあ、精力を吸引する前段階でほとんど互角っぽかったからな。

 パワーアップするというのであれば、本当にコーネリアを超えているだろう。


 と、そこでリヴィアは鼻をスンスンと鳴らして、腹をさすりはじめた。


「……この匂い……何?」


 猛烈に食欲を刺激するスパイスの香り。

 まあ、コーネリアがいるから亜斗夢君かマユが作ったんだろうな。


「多分だけどお前も大好きだと思うぞ?」


 ウィンクと共にそう言うと、リヴィアは「はてな?」と小首を傾げたのだった。








「……カレー。何という……これは天上でのみ許された食べ物……」


 バクバクバクと猛烈な勢いでリヴィアは皿を平らげていく。


「おかわりっ!」


「おかわりっ!」


 と、ほぼ同時に姉妹がカレーをフィニッシュして、皿を亜斗夢君に差し出した。


「急いで食べなくても、いくらでもありますからー」


 今日のカレー当番は亜斗夢君だったらしい。

 自分のカレーを美味しいと言われて、めっちゃ喜んでいるみたいだな。


 そうして、何度かのおかわりの後、ようやく胃袋を満たされたコーネリアがリヴィアに視線を送る。


「ほう、リヴィア……お主……」


 ニヤリと笑い、言葉を続ける。


「――女になったようじゃの?」


 そこでリヴィアもまたニヤリと笑う。


「これでお姉ちゃんには負けない」


 コーネリアは立ち上がり、そして小さく頷いた。


「……食後の運動とするか」


 と、そんなこんなでリヴィアのリベンジ戦が始まったのだった。





 ☆★☆★☆★



 1時間後。


 ヘロヘロパンチとヘロヘロキックの応酬の後、今回も決まり手:髪の毛引っ張りでコーネリアの勝利となった。


「我に勝つには30年早かったようじゃのっ!」


「……どうしてお姉ちゃんに勝てない? パワーアップはしているけど、少ししかしていない……」


 そこでコーネリアは薄い胸を張って高らかに笑った。


「リヴァイアサン種は精気を吸収するがサキュバスではないのじゃっ! 力の吸収は……非常になだらかにゆっくりと行われていくのじゃっ!」


「……どういうことお姉ちゃん?」


「まあ、1万回くらい精気を吸引すれば我にも勝てるようになるかもの」


 そうしてリヴィアはヨロヨロと立ち上がり、俺に向けてフラついた足取りで歩いてきた。


「……タツヤくん?」


「ん?」


「……毎日頑張ろう」


 ああ、やっぱりそうなるのね。


「お……おう。けどさ、1万回というと……30年だぞ? で、その頃だと俺も結構な年齢で……その頃まで毎日なんてできないからもっと時間かかるぞ?」


「なら――」


 リヴィアは押し黙った。

 そして大きく大きく息を吸い込んで彼女はこう言った。


「……毎日……複数回頑張ろう。可能な時に回数を稼ごう」



 と、そんなこんなで俺たちの小屋に新たな住人が増えたのだった。



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