オマケにしては長いエピソード 海だ! 水着だ! イカの一夜干しだ! 魔王の妹だ! その4
――船。
大型のガレオン船の上で俺たちは釣りにいそしんでいた。
「ワカメ釣れたのですー♪」
「こっちは靴が釣れたのですー♪」
「ふはは。我ら手乗りウサギ……釣りをやらせても超一流……我らが才能が恐ろしい」
とりあえず、手乗りウサギ達はゴミを釣って大盛り上がりなご様子だ。
「ご主人様……申し訳ありませんがしばらくの間は身の回りの世話のお暇を……」
ウロボロスは船酔い気質みたいだな。
と、そんな感じで俺たちが船旅を満喫していると――。
「しかし国王も正気かよ? クラーケン退治に女子供を……」
船長のサムソンとか言う男が俺たちにそう声をかけてきた。
現在は冒険者ギルドの海の魔物担当とのことだが、元は海賊らしい。色々訳アリでギルドに属しているとの話だな。
「女子供って……お前は手乗りウサギを知らないのか?」
「ああ、知らん。陸の事は俺にはよーわからんからな」
なるほど。
そういうことであれば俺たちを見て不安になるのも分かるな。
「良いか? クラーケンってのはとんでもねえ化け物なんだぞ?」
「どれくらいの化け物なんだ?」
「まず、大体が足だが……体長が40メートルくらいあるんだ。船に取り付いて、足で船体を巻き込んで大蛇のごとくに締め付けてくる」
「ふむふむ」
「そうして船体を万力のように破壊して沈没させるんだ。そうして海に投げ出された溺れている人間を食うって恐ろしいバケモンだ」
そりゃあ確かに恐ろしいな。ほとんど怪獣みたいなもんじゃねーか。
「海の中の魔物だから……剣士系はほとんど役に立たず、魔術師系の遠距離魔法じゃねーと効果が薄い。そりゃあもう厄介な相手だ」
「まあ、大丈夫だから安心しろ。ところでクラーケンの素材ってのは高く売れるのか?」
話を聞く限り、今回は手乗りウサギは戦闘では使えそうにないな。
脳筋のソーニャも無理っぽい。
マリアとウロボロスは魔法も使えるので……っていうか、こっちにはコーネリアがいる。
――ぶっちゃけ楽勝も良いところだろう
「はは、本当におめでてえ連中だ。テメエ等みたいなので本気でクラーケンを退治できるとでも思ってんのか?」
「まあ、一応はな」
「国王から派遣されるくらいなんだから、まあそこそこ程度はできるんだろうよ。だが、陸と海は違うんだよ。あのな? この中にクラーケンに通用する魔法を使えるような奴がいるようには見えねえんだがな?」
「だから大丈夫って言ってんだろ」
「お前らがやられちまったら船が破壊される。俺まで一蓮托生なんだよ。そんでもって俺はお前らに命を預けるつもりはねーんだ」
「何が言いたいんだよ」
「クラーケンの海域に着いたら小型のボートをくれてやる」
「ハァ?」
「それに乗って勝手におっちんでろって事だ。俺はテメエ等とは運命共同体になりたくはねーんだ。こちとらガキのお守りやってる訳じゃねーんだぞ?」
そう言ってコーネリアとカティアとソーニャに視線を送り、その場で唾を吐いた。
っていうか、何か無茶苦茶言いだしたぞこいつ。
さて、どうするかと思っていたところで――。
「アニキ……任せてください」
「亜斗夢君?」
「ここは俺がガツンとやってやりますよ」
亜斗夢君は良い子だな。
俺たちが愚弄されたのを見て、いてもたってもいられなくなったらしい。
「おい、船長! お前な? ガキのお守りの何が悪いんだよっ! 最高じゃねーか! 俺はお前みたいな考えの奴が許せねえんだっ!」
そっちが理由でキレてたんかいっ!
ってか、こいつ……本当に筋金入りの変態紳士だな。
いや、そういう子は俺は大好きだけどね。
で、亜斗夢君は船長の胸倉を掴んで――
――あ、ボコられた
船長は元々は高ランク冒険者で対人の海賊もやっていた脳筋系。
亜斗夢君は見た目はガチムチだけど賢者だからな。殴り合いじゃあ分が悪かったってことだろう。
そうして亜斗夢君が涙目で帰ってきた。
「俺には無理でしたアニキ……すいません」
「まあ、亜斗夢君も喧嘩っ早過ぎるとは思うよ」
と、その時……コーネリアが不機嫌そうにこちらに声をかけてきた。
「おい、船長よ?」
「あ? なんだガキ?」
「おいおい、こんな喧嘩でコーネリアが出たらシャレにならんぞ」
「いや、喧嘩ではないのじゃお前様」
「ん?」
「時に船長? クラーケンの海域に着いたら小型のボート……じゃったのかの?」
「ああ、そうだ。お前らに付き合ってられるか」
「クラーケンの海域は……あの辺りで良いのじゃな?」
コーネリアは北の方角を指さし、そして船長は頷いた。
「ああ、そのとおりだ」
「丁度いい感じに20匹ほど1キロ四方に集まっておる。アレで全部じゃろうて」
そうしてコーネリアは念を込めて――北の方角に掌を突き出した。
そうしてコーネリアは念を込めて――北の方角に掌を突き出した。
「超極大魔法:レベル10雷神皇(エフタル)っ!」
――雷
北の水平線の近くから閃光と共に轟音が鳴り響いてきた。
っていうか、めっちゃ遠くなのに極太の雷がキッチリと視認できた。
いや、あれは雷と言うよりも……むしろ天から振ってきた半径100メートル規模の円柱みたいなもんだろうな。
「ま、こんなもんかの。海域に近づけば、そこら中に電流に焼かれたクラーケンの焼死体が浮いておろう。陸に戻った際、小型のボートのプレゼントを忘れるでないぞ?」
ウインクと共にそういうコーネリアに船長は腰を抜かして「あわわ……」と青ざめた表情を作っていた。
っていうか、マジで半端ないなこいつ。半径一キロメートルの全ての海域に雷で電流を流したってことだろ?
いや、でも俺もこいつと同格なんだよな……。
と、そこで船長は打ち上げられた魚のように口をパクパクと開閉させながらこ俺たちにこう尋ねてきた。
「お、お、お前らは……一体何者なんだ?」
「――農民ですが何か?」
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