第82話 そしてスローライフは続いていく その2


 ミヤモトをぶっ飛ばしたある日のこと。

 農作業を終えた俺は、樹木の切株に腰を落ち着けて物思いに耽っていた。



 ――良く考えれば、ミヤモトから全てが始まったんだよな




 ミヤモトに置き去りにされて、サバイバルが始まった。

 ヘビとか食って、水とかろ過して……最初は本当に大変だったな。


 で、手乗りウサギがやってきて、次から次に女が押し寄せて、俺に都合の良いことが起きて。



 ――挙句の果てにはスキル:夜の帝王だ




 いやはや、日本時代では逆立ちしたって相手にしてくれなさそうな娘たちが毎晩毎晩襲ってくるんだからな。


 人生ってのは不思議なもんだ。



「さて……」



 と、俺は立ち上がって家に向かった。


 すると、帰り道の途中で、カティアがエルフの女衆を率いて、資材と共に森の中に入っていく姿が見えた。


「ん? どうしたんだカティア?」


「いや、け……」


 と、そこでカティアは慌てた様子で自らの口を塞いでこう言った。


「な、な、何でもないよ!」


「え? 何でもないって……?」


「ともかく、お兄ちゃんはアッチにいってて!」


「え……?」


 まあ、何か良く分からんがここは従っておこう。


 で、俺は家に向かったんだが、その途中で軽トラから衣装ケースを積み下ろしているアリサと出くわした。


「わっ! タツヤ兄やんっ!」


「ん? お前、そのケースは何なんだ?」


「いや、これは……あの……その……アレや!」


「アレ?」




「何でもないんやっ!」




 やはり、アリサは慌てた様子だ。


 っていうか、確実に何かを隠してやがるなこいつら。


 と、そこで俺は「ん? このパターンは……?」と思ったんだ。

 

 こいつら、俺の誕生日の時にも隠し事してやがったからな。


 で、家に戻ってソーニャとウロボロスにも聞いてみた。すると――


『うふふー♪ 何のことか分からないですー♪』


『ご主人様、それは気のせいかと思われます』


 と、こんな感じで取り付く島がない。


 もうバレバレだってのに……。


 さて、どうしたもんかと思っていると、アトム君が目についた。


 で、小屋の外にアトム君を呼び出して、周囲に人がいないことを確認してから尋ねてみたんだ。



「いや、アニキにだけは、それを言うことは……」


 

 との回答だったので、俺はそこで詮索を辞めた。


 まあ、俺を良い意味で驚かせようと思ってやってくれてるんだし、これ以上は無粋だ。



 で、その日は俺は何も気づいていない風を装って、メシを食って風呂に入って寝たのだった。



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