最終話 そして、スローライフは続いていく その3


 で、翌朝――。


 目を覚ますと、正装……っていうか、ドレスアップした手乗りウサギの姿が見えた。


 どうにも、俺が起きるのを待っていたらしい。


 女性陣はベッドには誰もおらず、いつものやかましさを考えると不思議な気分になる。


 で、俺は手乗りウサギに連れられて、昨日……カティアがエルフの女衆を引き連れていた場所まで誘導された。


 そして、草が生い茂る森の道を行くこと数分。俺はあっと息を呑んだ。



 ――これは本当に驚いた



 はたして、そこには純白のウェディングドレスに身を包んだ……俺の嫁たちがいたのだ。


 特設で結婚式場みたいなのも用意されてるし、ゲストのマルクスさんやコーネリアもニコニコとしている。


 あと、神父服姿のアトム君が強烈に似合っていなくて笑えるな。


「しかし、これは一体どういうことなんだマリア?」


「コーネリア様から、我々は説教を受けたのです」


「ん? 説教?」


 そして「うむ」と頷いてコーネリアがこちらにやってきた。


「ウロボロスに聞いたのじゃが、お主は無茶苦茶らしいのう?」


「無茶苦茶?」


「聞けば、毎晩毎晩……不特定多数と不純異性交遊をしておるらしいではないか」


「いや、それは俺のせいじゃないだろ。むしろ、襲いかかられている立場だし」


「ともかくじゃ。ケジメはキッチリとせねばならん」


「ケジメ?」


「日本と違い、この世界では重婚も珍しいことではない。結婚してしまえば不純ではなくなるじゃろ?」


「まあ……そりゃそうだな」


 と、そこでソーニャがコーネリアに向けて、純粋に不思議そうな顔をしてこう尋ねてきた。


「でも、どうしてコーネリアはタツヤと全然嫌じゃない展開にならなかったんですー?」


 それを聞いたウロボロスの顔は引きつり、そしてコーネリアも苦笑した。


「え? え? どうしたんですー?」


「ソーニャ。それだけは聞いちゃいけません」


「えー? どういうことなんですかー?」


 そうして、コーネリアは「やれやれ」という風に肩をすくめた。


「良い、ウロボロス」


「しかしコーネリア様……あの方のことは……」


 そうしてコーネリアは遠い目で空を見上げ、ポツリとこう言った。




「異世界ギルド飯じゃ……」




「コーネリア様!」



 何だかコーネリアはすっごい寂しそうだ。

 何で書籍名が出てくるのかは謎だが、まあそこはツッコミを入れても仕方ない。



「で、どういうことなんだよコーネリア?」


「うむ。我がその昔、とある料理店で働いていたのは知っておるな? そこの店主とちょっと色々あってな。ともかく、我は一度……操を立てた男以外とは寝るつもりはないのじゃ」


 なるほど。

 

 魔王様にも色々と歴史があったということなんだろう。


 しかし、俺には一つ気になることがあったんだ。


「で、でもよコーネリア? お前はアトム君にすらイエスロリータ・ノータッチって言われて……そんなお前に手を出した男がいるってことか?」


「じゃから、我はロリババアじゃ。っていうか、普通に結婚済みで子供もおるわ」


「マジでっ!?」


「マジじゃ。まあ、もう全ては昔の話じゃがな……子供と言うか子孫と先祖みたいになっておるし」


 と、しんみりとした表情のコーネリアだったが、ウェディングドレス姿のアリサが俺に駆け寄ってきた。



「ってことで、タツヤ兄やん! これを着てくれへんか!?」



 そうして差し出されたのは――タキシードだった。















 と、まあそんなこんなで――。


 結婚式は中々に賑やかなものだった。


 そもそも、アトム君は賢者適正だからそれっぽいってだけで神父役に選ばれたんだよな。


 誓いの儀式の進行は噛み噛みでグダグダだったし、誓いのキスも凄かった。

 なんせ――



 ――ソーニャ


 ――アリサ


 ――マリア


 ――ウロボロス


 ――カティア


 ――マユ



 以上の6人だからな。


 何かキス待ちの行列になってたし、俺の知ってる結婚式とは全然違う。


 で、誓いのキスが終わると同時に宴会が始まった。


 コーネリアはカレー食ってるし、みんなはメシ食ってグビグビ飲んでるし、まあ、服装だけは別にしていつもどおりだ。


 いつもどおりに楽しくて、いつもどおりに幸せで、いつもどおりにメシと酒が美味い。


 そうして、俺たちはその日の夜まで食って飲んでの大騒ぎだったのだ。













 そして夜――。


 酒を飲んでグデングデンの状態で家に戻ると、ソーニャがこんなことを言い出した。



「さあ、みんなで結婚初夜なんですー♪」



 おいおい、今日の宴会は凄かったんだぞ?

 いつもの何倍も飲んでて、全員酔いつぶれてる状況じゃねーか。


 と、みんなを見渡すと、全員が……ウェディングドレス姿で下着だけを脱いで、やる気満々のご様子だ。



「おいおい、こんだけ酔ってるのに、この人数をまとめて相手しろってのか?」


 正直、俺も飲み過ぎてクタクタだ。

 お願いだから明日以降で勘弁してくれと思っていると、みんなが悲しそうな顔で俺にこう尋ねてきた。



「タツヤー? 私のこと嫌なのですかー?」


「タツヤ様……嫌なのでしょうか?」


「ご主人様……嫌なら無理をなさらず」


「タツヤ兄やん……嫌やったら……ええんやで?」


「お兄ちゃん……嫌なの? 悲しいなあ……」


「タツヤさん……本当の本当に嫌なの?」


 で、仕方ないので――俺はこう切り返した。




「全然嫌じゃないです」




 そして襲い掛かってくるウェディングドレスの女たち。


 そして、いつものように、激しい夜が更けていく。






 と、まあそんなこんなで――



 ――俺の騒がしいスローライフは今後も幸せに続いていきそうなのである。







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