第80話 イエスロリータ・ノータッチ
「さて、時に宮本よ?」
コーネリアは凄惨とも言えるような美しく――そして恐ろしい笑みを浮かべた。
「煉獄の炎に焼かれる覚悟はできておろうな?」
と、その時――亜斗夢(アトム)君はその場で土下座の姿勢を取った。
「す、す、す、スイマセンでしたああああっ!」
物凄い大音響だったので、俺たち全員が亜斗夢(アトム)君に視線を送る。
「死んだ父ちゃんに……食べ物だけは粗末にするなって――言われてたんです! スイマセンでしたっ!」
と、そこでウロボロスが冷酷な表情と共にこう言った。
「――悪党の命乞いほど無様なモノはありませんでございましてね」
「待て、ウロボロス」
「……コーネリア様?」
「アトムとやら…‥面をあげよ」
土下座で地面に額をこすりつけていた亜斗夢(アトム)君は頭を上げる。
すると――亜斗夢(アトム)君は泣いていたのだ。
それはもう本当に申し訳無そうに。
「お、お、俺……農家の人に悪いことを……皆さんの食事を……本当にスイマセンっしたあああああっ!」
あれ?
本当に反省している感じ?
「俺が食べますからっ! もちろん台無しにしちゃったカレーのお代も払いますからっ!」
亜斗夢アトム君は地面にぶちまけられたカレーを掬って口に入れ始めた。
涙を流しながら、それはもう……本当に悪いことをしちゃったみたいな感じで。
「ところで、このカレー……コーヒー入ってますね」
「ほう、貴様はカレーの作り方を知っている……と?」
「ウチは母子家庭でして……妹たちにカレーを作るのは俺の仕事で……俺自身も妹たちが喜ぶから……カレー作るの好きだったんですよ。ウチの家もカレーにはコーヒーを入れる派でしてね。あと……ウチの場合はトウガラシも追加で入れたりしますね」
「ほう……。トウガラシとな? 一度……味見をさせてもらっても構わんか?」
「あっ! もちろんです! 台無しにしちゃったんで、俺が作り直します……っ! いや、作り直させてくださいっ!」
「しかし、激辛は……我の口には合わぬぞ?」
「ヨーグルトを入れればマイルドになりますよっ!」
「ヨーグルト……とな? ほう……本格的みたいじゃのう」
何か話がどんどんおかしな方向に……。
コーネリアの頬もなんか緩んでいるし。
と、そこでミヤモトが半泣きになりながら叫んだ。
「先輩っ! アンタ……魔王に取り入って許してもらおうって思ってんだろっ!? 母子家庭で妹思いみたいなエピソードをねつ造しやがってっ!」
と、そこでマユが口を挟んだ。
「亜斗夢(アトム)先輩がカレー作ってるのは本当だよ。ウチのマンションのお隣さんで……ピンクのエプロン姿で良く……ウチにカレーのおすそ分け持ってきてくれてたもん」
まさかの衝撃の事実だ。
っていうか、亜斗夢アトム君……筋肉ムキムキな感じなのに料理作るのにピンクエプロンか。
「えっ!? っていうか先輩っ! アンタ本当に汚いなっ!?」
「どうしたんだよミヤモト?」
「暗黒堕胎拳(マジハラパン)とかで妊娠させた女を泣かせてきたんだろうにっ! ヤバくなったからって急に家庭的なところを見せて良い人アピールかよ?」
「いや、それってお前らが勝手に言ってるだけの噂だろ? っていうか俺……童貞だし。顔が怖いから色々と勘違いされやすくて、お前らみたいなのが周りによってきてたけど……趣味はギャルゲーだし」
「えっ!? マジでっ!?」
「ああ、マジだ」
「でも、鑑別所に入ってたって……」
「家に強盗が入ってな。妹が包丁で刺されそうになったからプッツンきちまって……で、俺はこのガタイだろ? 過剰防衛でやりすぎちまってな……」
おいおい、マジで話がおかしな方向になってきてるぞ。
「いや、でも先輩はこの世界で犯罪者ギルドに……」
「逃亡勇者の一味なんだから表の仕事がなくてな。だが、俺は基本的には犯罪性の高い仕事はしてないぞ? 護衛とか用心棒とかのそっち系だ」
「いや、でもアンタも逃亡勇者のクズで……」
「連中の都合で勝手にこっちに呼び出されて強制的に命をかけて戦えって……無茶苦茶だと思わないか? 別に逃げたってクズだとは俺は思わんぞ」
「でもアンタ……イエスロリータ・ノータッチって……」
「だから幼女は愛でるもんだ。実際に手を出しちゃダメだろ? 何言ってんだお前?」
うーん。
どうやら、亜斗夢(アトム)君は無罪のようだ。
ってか、さっきまで嬉々としてボコボコにしていたマリアが、気まずそうにまつ毛を伏せている。
そうしてコーネリアは亜斗夢アトム君に右手を差し出した。
「互いに色々と誤解があったようじゃな。仲直りの握手じゃ」
しかし、亜斗夢(アトム)君はコーネリアの手を握ろうとはしなかった。
「どうしたのじゃ?」
「イエスロリータ……ノータッチだから」
その言葉でコーネリアはクスリと笑った。
「安心せい。我は――ロリババアじゃ」
その言葉で亜斗夢君は少し驚いた表情を作って、そうして笑顔と共に二人は熱い握手を交わした。
「アトムよ。お前様のカレー……楽しみにしておるぞ」
そうしてコーネリアはミヤモトを睨みつけた。
「と、いうことでミヤモトよ……煉獄の炎に焼かれる覚悟はできておろうな?」
その言葉でミヤモトは本日一番の絶叫をあげたのだった
「お、お、お仕置きは――俺だけですかあああああっ!?」
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