第76話 ミヤモト! テメエは俺を怒らせた!

 サイド:タツヤ




「こいつ……今までの宮本じゃねえ」




 俺の前に現れた宮本は今までの宮本とは違った。


 何と言うか、これまではヘラヘラした感じだったが、今は一流の冒険者特有の張り詰めた空気を纏っているのだ。




「タツヤ様……この者達は?」




 マリアの問いかけに俺は首を左右に振った。


 小屋の前には総数30名程度の武装集団。


 その一人一人が手乗りウサギと同レベル程度の力を持っていることは何となくわかる。




「マルクスさんが言っていた王都からの使いだろう」




 と、そこでミヤモトが――




「そのお姉さん……何というグラマラスボディ……うらやま……けしからんっ!」




 マリアを見ながら、今にも股間を抑えるんじゃないかという風な鼻息でミヤモトはそう言った。


 そしてミヤモトは引き続いてマユに視線を送る。




「何でマユがこんなところに?」




 そこでマユは頬を赤らめてこう言った。




「今は私は……タツヤさんと恋人同士だから」




 ってか、俺等って恋人だったの?


 いや、そういう解釈もある……かな? 一夫多妻制の家族的なもんだと思ってたんだが。


 で、マユの言葉でミヤモトはキョトンとした表情を作った。




「おいおい、俺がどんだけアタックかけても鉄壁だったマユが……? こんなオッサンと? ったく、何の冗談なんだよ?」




「……」




「おい、マユ? 服装も普通で黒髪。派手系じゃなくて地味系。家も貧乏で口数も少ないから友達もいない。そんなお前を……俺等みたいな学園カースト上位グループに入れてやったのは……顔が良かったからだぞ?」




「……」




「ったく、顔だけしか取り柄がねえのに……」




 元々の関係性もこんな感じだったんだろうな。


 マユはミヤモトに言われ放題で、ただただ唇をキュっと噛んでいる。




「……」




「おい、マユ? テメエはこの世界に来てから、魔物を殺せない使えねえグズだってハブにされてたけどよ? 実はテメエは日本でも役立たずって言われてたんだぜ?」



「……私達って日本にいる時からですら……友達じゃなかったんだね」



「はは、そういうことだ。お前とオッサンのカップル……まあ、役立たずのクズ同士でお似合いなんじゃねーか?」




「おだまりなさい……クソ虫が」




 そこで登場したのがウロボロスだ。


 彼女がミヤモトを見た瞬間に、ニヤリとサディスティックな笑みを浮かべていたことを俺は見逃してはいない。




 まあ、前回に北斗百烈ビンタをお見舞いして好き放題やってたもんな。




「ああ、ウロボロスのお姉さんじゃん――お久しぶりっ! 前回は好き放題やってくれたな?」




 余裕の笑みのミヤモトに、ウロボロスは微かに感嘆の表情を作った。




「ご主人様?」




「どうしたウロボロス?」




「奴は……腕を上げているようです」




「それは俺も分かるが、実際にはどれくらいなんだ?」




「恐らくは――手乗りウサギ一人分」




 ふーむ。


 アリサよりは上、ソーニャよりはめちゃくちゃ下、マリア・ウロボロスよりもかなり下ってところか。




「まあ、私なら――ワンパンでございます」




「ああ、そんなところだろうな」




 余裕っぽい俺たちの感じを見て、ミヤモトはワナワナと肩を震わせた。




「俺たちの力量が読めないと見えるな。ふふっ……まあ良い。ところでオッサンよ?」




「何だ?」




「エライ美人に囲まれてご満悦な様子だがテメエのハーレムもここまでだ。テメエの関係者は全員……まとめて縄で縛って……後で散々に玩具にしてやるからな」




 無茶苦茶言ってやがんな。


 まあ、こっちにはソーニャもいるし、俺やコーネリア抜きでも余裕で勝てそうな感じではあるけど……。




 と、その時――茂みから一人の手乗りウサギが飛び出してきた。




「はははー! ミヤモトなのですー♪ また遊んでくれるのですー?」




 ニコニコ笑顔で槍を片手にミヤモトに飛び掛かろうとする手乗りウサギ。




 だが、その時――




「手乗りウサギっ! テメエ等の弱点は分かっているっ!」




 空中でミヤモトの目玉目掛けて槍を繰りだそうとしてた手乗りウサギの動きが止まった。




 と、言うのも――ミヤモトは懐から取り出したニンジンを盾にしたのだ。




「はわわー! これじゃあ槍で攻撃できないのですーっ!」




 そうしてミヤモトは手乗りウサギの動きか止まったところで――




「手乗りウサギっ! 前回の礼をしてやるぜ! 唸れ雷神っ! 勇者怒槌撃(サンダーフォール)っ!」




 雷撃を帯びた大剣による鋭い突きだった。

 しかし、ニンジンを盾にするなんて……なんて卑劣な野郎なんだ。




「ぐわーっ! やられたのですーっ!」




 棒読みでそう叫びながら、こちらに手乗りウサギが吹き飛ばされてきた。




「おい、大丈夫か?」




 ってか、直撃を受けた首に……軽く血が滲んでるじゃねーか。


 髪の毛も雷で焼かれて……焦げてパーマっぽくなってしまっている。


 直毛の綺麗な髪が手乗りウサギのチャームポイントだと言うのに……。




「ふえぇ……大丈夫じゃないのですぅ……」




 ミヤモトごときにやられたのがショックだったのだろう。


 大粒の涙を手乗りウサギが流し始めた。




「……おいミヤモト?」




「あ? 何だよ?」



 俺は鍬(クワ)を手に取り、ミヤモトに向けて構えた。




「あ、農具なんて構えてどうしちゃったの? お? ひょっとして農具で俺とやるつもり? クハハっ! マジでウケるんですけどっ!」




 そのまま俺はミヤモトを睨みつけてこう言った。




「ミヤモト――テメエは俺を怒らせたっ!」

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