第58話 全国のミヤモトさんに謝れ 再び

「凄いですよー! これは凄いのですよー!」


 軽トラ導入日の翌日。

 とりあえず軽トラはみんなの玩具になった。


 ミッションでの運転になるんだが、基本はみんなは運動神経も良いので呑み込みが早い。


「お兄ちゃん! 本当にこれどうなってるのっ!?」


 ちなみに、ドワーフのカティアが一番呑み込みが早かったんだが、これは生産系の職人と言うことも大きいのだろう。

 動力に凄い興味を持っていて、その関係で運転にも並々ならぬ熱意と興味があるみたいだ。


「ご主人様。それでは私が……」


 ウロボロスはノロノロ運転で物凄い慎重だ。

 うん、顔と性格に似合わない。


「はははー! エンストですーっ!」


 ソーニャだけは呑み込みが悪すぎてエンストばかりでほとんど運転できてない。

 けれど、エンスト特有のガタンガタンする感じが楽しいらしくて、手乗りウサギ達にはそれがアトラクションっぽいから逆に好評みたいだ。



「――最速っ! 私の前には誰も走らせませんっ! はははーっ! 時速70キロに一番乗りですっ!」



 まともに整備されていない道で時速70キロ……。

 まあ、普通に考えて危なすぎだな。


 つまりは――まさかの問題児がマリアだったということだ。


 ハンドル持てば性格変わるってのを地で行っている感じで、見ていてあぶなかっしいことこの上無い。


「ところでカレーはまだかの?」


 コーネリアは軽トラに興味ないらしくて、さっきから「カレー作れ」とうるさい。

 聞いてみると、以前に日本に行ったことがあるらしく軽トラくらいじゃ驚かないらしい。

 更に詳しく聞くと、飛行機にも乗ったことがあるらしいな。



 昔、転生者が経営する飲食店で働いていた時に、戦車とか戦闘機とかも見たことがあるらしく、核兵器の元となる相対性理論もサワリだけ知っていた。


 っていうかE=MCの二乗っていう公式を、世界を亡びに導く神代の魔法式とか言っていた。


 「過去のコイツに何があったんだ」とツッコミを入れたくなったが……。

 と、それはさておき。


「それじゃあ、昼飯はみんなでカレーにすんぞ」


「うむっ!」


 俺の言葉でコーネリアを筆頭にみんながニコニコ笑顔になった。

 けれど……。


「タツヤ様! 私は――スピードの向こう側に行ってまいりますっ!」


 ヤンキー漫画のバイク編とかでありそうなセリフと共に、マリアは軽トラで道を疾走していったのだった。





 サイド;宮本



 俺は宮本正志。

 日本から異世界にやってきた勇者だ。

 色々と事情があって、今は森の中を歩いている。


 で、色々っていうと……話せば長くなる。

 まあ、俺は集団転移って奴の当事者で、友達と一緒にこの世界で戦闘訓練を受けることになった。

 最初の1か月くらいは真面目に戦闘訓練もして、才能があったからそこそこは強くなった。

 でも、この世界の人間ってマジなんだよな。

 死ぬほどしんどい訓練メニューだったから、俺はトンズラかましたわけよ。

 それから犯罪者ギルドに登録して、悪事の限りを尽くしてきた。


 ――すっごい楽しかった。


 いや、悪い事って本当に楽しいのよ。

 借金の取り立てとかで、土下座するジジイとかの頭を踏むのってマジで快感。

 と、それは良しとして……問題はタツヤとかいうオッサンだ。


 何か良くわからんが、めっちゃ強い美人さん達に囲まれて……あいつのせいで俺は表のギルドに捕まって、危うく晒し首になるところだった。

 まあ、俺様のことだから途中で余裕でトンズラかましたがな。



 そうして俺は、同じく戦闘訓練を途中で逃げ出した仲間と合流する為に森を歩いている訳だな。

 ちなみに、足が複雑骨折状態なので松葉杖だ。


 本当にあのオッサン……傷が癒えたら半殺しどころか、全殺しにしてやる。


 と、その時――遠くから、何故かエンジン音が聞こえた。


「何でこんなところに軽トラがっ!?」


 見ると、物凄い勢いで軽トラがこっちに向かって走ってきていた。

 時速100キロ近く出てんじゃねえかアレは?


 っていうか、何で異世界で軽トラなんだよ。



 ――意味わかんねーよ!



 呆気にとられた俺はその場でフリーズして……気が付けばトラックがすぐ近くに迫ってきていた。

 で、我に返って咄嗟に道の脇に逃げようとするけれど――


 ――いかん! 距離が近すぎて松葉杖のこの足じゃあ逃げられないっ!


「そこのトラック! 止まれっ! 止まれええええっ!」


 俺の叫びに少し遅れて、窓の開いているトラックの運転席から大声が聞こえてきた。


「あーーーっ! アクセルとブレーキを踏み間違えましたわっ! 運転不慣れですわーっ! 逃げてくださいましーっ!」


 物凄い説明口調での叫び声と同時に、俺の下半身がトラックのバンパーに激突した。


「ぷべらっ!」


 そうして俺は10メートルほど吹っ飛んで、宙を舞いながら思った。

 日本時代なら確実に死んでたけど、まあ今回は骨折程度で済むだろう。

 つまり、俺の思ったこととは――


 ――ちょっとの間だったけど、真面目に戦闘訓練やってて良かった……と。

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