第55話 異世界軽トラはエルフと共に
さて、軽トラである。
カタログ通販でも屈指の値段を誇る……まさかの100万円。
賽銭箱貯金が一瞬でほとんど無くなったが、その価値はあった。
と、いうのもソーラー電力での自走可能とかいう訳の分からない軽トラなんだよな。
こんなワケの分からない商品を作っている企業なんてないと思うが――
『異世界仕様ということじゃ。使えもしない役立たずなもんはカタログにはのっけておらん。ただし太陽光発電なので馬力はそこまで出んぞ』
というのが我らがゼニゲバ神の回答だった。
ガソリンを燃料にしても当然動くが、燃料を取り寄せるにも金がかかる。
その場合は街までの商品の運搬にしてはコスト的には無理がありすぎるんだよな。
しかもゼニゲバ神にしては珍しく、故障対応はタダで面倒を見てくれるという正に神対応らしい。
『常連のカモ……ゲフンっ! お客さんだからそれくらいはしてやるぞい』
と、まあそういうことらしい。
ちなみに軽トラの太陽光発電はかなりの蓄電もできる。
とはいえ途中で電気切れになっても不味いので、荷台に非常用のポリタンクを一つだけは積むようにしようと思った。
『別に構わんがポリタンクは危ないぞい。無駄に故障対応に追われるわけにもいかんし、神様パワーで危なくないようにしとくからな』
何だよこのゼニゲバ神。良いところあるじゃないか。
まあガソリンも可燃性の危険な物質であることは間違いないし、ここは素直に感謝しておこう。
――で、俺たちは今……砂糖袋を満載にした軽トラの前で集まっている。
「馬鹿を言ってはいけませんよタツヤ様? このような巨大な鉄の塊が太陽の力で動くなどと……」
マリアはガチで冗談だと思っているらしく、クスクスと笑っている。
手乗りウサギ達は興味深げに荷台やら車内やらを走り回っていて、ハンドルに4人くらいがぶら下がっていた。
ちなみに車内のマスコット人形よろしく……ヒモでぶら下がっている手乗りウサギもいて、それを見たときは俺は思わず吹き出してしまった。
「いや、しかしマリア……ご主人様はいつだって私達を驚かせてきました。ご主人様であれば不可能を可能にすることも……」
「ですがウロボロス? さすがにタツヤ様でもそれはありえないでしょう? 恐らくは古代魔法文明のオーパーツか何かで動力は魔石と見ました」
そこでウロボロスが掌をポンと叩いた。
「それでも相当にトンデモな魔法器具ですが……まあ、確かに特殊な魔石を動力とする古代魔法文明のオーパーツであれば……」
しかし、とマリアは首を左右に振った。
「魔石はドラゴン等の魔物から稀に取れる高級素材です。魔法エネルギーとして動力源にするにはあまりにも高価……砂糖の運搬としてはコストがかかりすぎてしまいます」
なるほど。
古代魔法文明とやらで似たような運搬方法はあったようだな。しかも軽油やガソリン的な問題まで一緒らしい。
そこで俺はフフンと笑った。
「魔石とやらは使ってねーよ」
「確かに魔石特有の魔力反応は感じられませんが……」
俺は軽トラのキーを片手に運転席に乗り込む。
そしてキーを差し込んでグルリと捻った。
「音が鳴ったっ!?」
エンジンがかかった音で、周囲のみんながざわめき始めた。
そうしてアクセルをゆっくりと踏み込むと――
「動いたですってっ!? 鉄の塊がっ!? 魔石もなしでっ!?」
「タツヤは凄いのですー! 鉄の馬車は凄いのですー!」
「お兄ちゃんは本当にすごいなー。ドワーフでも絶対にこんなのは作れないよ」
みんながキラキラした瞳で不思議そうに軽トラに視線を送っている。
いや、そりゃあまあ凄いだろうな。
せいぜいが運搬手段が馬車の所に軽トラが登場したらちょっとした流通革命のレベルだろう。
とはいえ、所詮は軽トラは軽トラな上に太陽光なので馬力は心もとないんだろうけれど、人力や馬で荷台を引くよりかは桁違いにマシだ。
そして何よりも速度が違う。
「まあ、俺が凄いんじゃなくてメイドイン・ジャパンが凄いだけなんだけどな」
苦笑しながら俺はそう呟いて……。
「あと、ソーラー発電対応にしてくれたゼニゲバ神な」
この時に限ってだが、俺は素直にゼニゲバ神に感謝したのだった。
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