第47話 魔王とタツヤはどちらが強いのだろう
本格的に砂糖ができた。
今までも試作品の砂糖を調味料として使用していたが、遂に大量生産に成功したんだよな。
テンサイって知ってるかな?
砂糖大根のことで、日本では北海道なんかで栽培されている。
俺の住んでいるこの地域は実はかなりの北方の地域と言うことで、甘味と言えばハチミツと相場が決まっているらしい。
厳密に言えば、砂糖は街でも流通しているらしいが、とにかくクソ高いということだ。
地球でも中世ヨーロッパではそうだったみたいだな。
嘘か誠かアレクサンダー大王の大遠征も、砂糖の生産地を手中に収めたかったとかいう話も聞いたことがある。
と、そんな小話はさておき――。
テンサイ畑から大量のテンサイを収穫し、カティア組のエルフから数人労働者を借りて、砂糖生産小屋がスタートしたのだ。
ちなみに、前回の誕生日から手乗りウサギ達はキャロットケーキにハマっているらしい。
街から取り寄せた小麦粉と、賽銭箱から取り寄せた卵と、畑でできたニンジンで日夜……より美味いキャロットケーキの研究に励んでいる。
っていうか、ソーニャはいつもソファーで賽銭箱のカタログを見ていて、最近では勝手に取り寄せをしていることもある。
神棚の豊穣の神にスキル所有者じゃなくても良いのかと聞いたところ、「身内っぽいからおk」との返答を受けた。
うーん……。
ってか、銭ゲバ神だからな。
ソーニャの金銭感覚がおかしいっぽいから、儲け時と判断して許可した気がする。
まあ、そんな感じでソーニャは料理本を取り寄せて、ケーキだけじゃなくてニンジンレシピを研究しているんだよな。
俺の知らぬ間に調味料もキッチンに充実し始めているし、そろそろキツく言っておかないといけないかもしれない。
――金欠だしな。
賽銭箱の貯金は千円を切っているという惨状なんだよな……。
「っていうことで、街まで砂糖を売りに行くぞ」
砂糖を満載に搭載した荷車の前で、俺は大声でそう言った。
俺にはアイテムボックスがあるから別に荷車は無くても良いんだが、それだと俺以外は運搬できなくなってしまう。
農作業は俺がやらないとスキルの関係で一気に非効率になっちゃうし、そこは手乗りウサギの狩りと並んで我が家の生命線でもある。
だから、行商的な仕事はエルフに任せたいんだよな。
「砂糖を売るのですよー♪」
「砂糖を売ってご褒美ニンジン貰うのですよー♪」
「隊長殿ー街まではどれくらいなのですかー?」
「肉・肉・ニンジン・肉・ニンジンー♪」
「街では買い食いはオッケーなのれすかー?」
一人だけ何故だか昼飯の弁当を食べていたが、そこを指摘しても意味がないだろう。
今回のメンバーは……。
・俺
・マリア
・アリサ
・エルフ×二名
・手乗りウサギ×五名
手順としては、とりあえず初回は俺とマリアとアリサが仕切って、商業ギルドと話を通す手はずになっている。
行商ルートを確定させたところで、今後はエルフ二人と護衛に手乗りウサギを五匹つける予定だ。
エルフの女王がウチに派遣してきているエルフは、実は集落でも精鋭とのことだが、それでも普通レベルでの精鋭ということで実力的にはアリサよりも低いらしい。
っていうことで、護衛の手乗りウサギって訳だな。
そうして森の道を行くこと二時間程度、俺達を先導していた手乗りウサギがこちらを振り向いた。
「隊長ー!」
「お? どうした?」
するとニコリと笑って、右斜め前方を手乗りウサギが指さした。
「カイザードラゴンなのですー」
エルフ達とアリサが表情を引きつらせる。
「カイザードラゴンやて……? 厄災級個体やないか……」
お、アレのことか。
何か物凄いデカいドラゴンだな。
ってか、厄災級個体って言ったらアレか?
この前、ソーニャとマリアと冒険王の三人で倒した巨大サイクロプスみたいなレベルってことか?
「森の精霊様の怒りを誰かが買ったのでしょうか? このようなありえないレベルの不幸が起きるなんて……」
とりあえず、アリサとエルフは表情的に青ざめていて……戦闘要員としては今回はアウト臭いな。
「隊長殿ー逃走の許可をー」
「逃げるのですー」
「ぴょんぴょんぴょん♪」
「逃げろや逃げろや……いっざ逃げろー」
あ、勝手に逃げ始めやがった。
本当にこいつらって自由だよな……。
いや、良く考えるとソーニャがいる時は勝手には逃げなかったし、一応はアレでも女王の威厳はあるのかな?
ともかく、これじゃあ護衛として機能しないので、帰ったらソーニャと協議せんといかんな。
と、そこでカイザードラゴンがこちらに向けて威嚇の咆哮をしてきた。
肺の奥まで響く重低音で――。
「きゃああっ!」
「あかんっ! コラアカンっ!」
エルフ二名とアリサは完全に戦意を喪失してその場でヘタりこんだ。
「タツヤ様。ここは私が――」
唯一の現状の戦闘要員のマリアの言葉を俺は手で制した。
「いや、良い」
そうして俺はクワをもってカイザードラゴンに向けて一歩だけ歩を進めた。
「ったく、本当に……どんだけイベント満載なんだよ」
と、俺はため息をついたのだった。
「しかしタツヤ様っ! カイザードラゴンといえば龍族の中でも最強の一角ですよっ!? 私も助力をっ!」
「最強っていうと、魔王コーネリアのレベルなのか?」
あいつは暗黒邪龍とか言ってたしな。
強さはイマイチ分からんが、あいつも含めて全員のリアクションを見ていると……どうにもあいつは俺とタメ張る感じだ。
と、すると、カイザードラゴンは龍族で最強の一角ってことはコーネリアとタメ張るってことか?
それはちょっと不味いんじゃねーの?
そこでマリアは首をブンブン振ってこう言った。
「いえ、コーネリア様は別格です。カイザードラゴンより三段階くらい進化したのがあの御方ですから。ドラゴンキッズとドラゴンくらいの違いがあります」
なら、普通に考えて問題ないな。
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