第44話 確かにウチは戦闘では影薄い!
――翌日。
「あれ? 手乗りウサギ達は? 今日は一人も見かけないけど?」
昼を過ぎたあたりで、今日の分の農作業を終えた俺はソーニャに尋ねた。
「ふふふー。狩りにでかけてますですよー」
「え? 全員で?」
普段は手乗りウサギ達の半数は、女王の護衛という名目でソーニャの近くにいる。
いや、正確に言えばソーニャの近くで色々と雑用事で働いているんだけどな。
「マリアから聞きましたですよー。家計がピンチってことじゃないですかー♪」
リビングでソファーに寝転がり、賽銭箱のカタログを眺めながらソーニャはそう言った。
「ああ、ちょっと最近は無駄遣いが酷いからな。で、どうして全員で狩りに?」
「お金を稼ぐためですよー。獲物をたくさん狩ればタツヤにお金が入ってくるですからー」
え……?
俺はその場でフリーズした。
何だかんだでアイツら……めっちゃ良い奴らだな。
「ふふー。みんなで話し合って最終的には私が決めたんですよー」
ソーニャはそう言いながら頭を指さした。
どうやら「エライ」と撫でて誉めて欲しいみたいだが、基本的にソーニャは女王なので食っちゃね生活だ。
手乗りウサギ達はエライかもしれないが、別にこいつは偉くはない。
っていうか、浮世離れと言うか、ブルジョワ気質と言うか……こいつはいつかクーデター起こされるんじゃないかな。
エルフの女王とドンパチやった時も、ニンジン絡みの因縁がなければ連中逃げそうだったし、言うほどは女王の威厳もなさそうだ。
「え? 撫でてくれないんですかー?」
あ、いかん。涙目になってる。
夜もそうなんだが、こいつのおねだりを適当にあしらうと……後が面倒だ。
機嫌が悪くなって、常に頬を膨らませて話しかけても「私は今プンプンなんですっ!」しか言わなくなる。
いや、ほっとけば三日もすれば、こいつが飽きて普通に接してくるから別に良いっちゃ良いんだけどさ。
まあ、とりあえず無駄にスネさせても仕方ないので頭を撫でてやる。
「うふふー。ナデナデは気持ち良いですねー」
と、ソーニャがご満悦したところで玄関をノックする音が聞こえてきた。
「お? アリサか? 今日は素材を取りに来る日だったっけ?」
「ちゃうちゃう」
アリサは首を左右に振って、リビングまで入ってきた。そうして背負っていた荷物をテーブルの上に広げ始めた。
「解体小屋作ってくれるって話やさかいな。色々と道具を持ってきたで」
ノコギリや大小のナイフ、砥石に何のために使うか良く分からないピンセット。
それらをテーブルの上に敷いた布の上に広げていく。
「ウチの解体セットや。ウチはどっちかっていうとパーティーの補佐役やったさかいな。戦闘以外の雑用全般は一通りできるんや」
「あれ? お前って結構強いんじゃねーの?」
「はは」っとアリサは笑った。
「基本はウチは戦闘はノーサンキューや。今までいくつかパーティーには所属した経験もあるけど、ウチは一度も実力を誰にも見せたことはあらへん」
「だから、なんでだよ?」
「命より高いモンはないさかいなっ! 実力知られたら戦闘やらされるやないかいっ!」
続けざま、アリサは薄い胸を張って自慢げに言った。
「能ある鷹は爪を隠すってやつやっ! パーティーが危なった瞬間にトンズラが一番生還確率高いんやっ!」
「いや、それ全然自慢でもなんでもないからな」
とんでもない利己主義な女だな。
「でも、どうしてそれならエルフの里の時、普通に実力見せてたんだ?」
そこでアリサは頬を少し朱色の染めた。
「タツヤ兄やんにはウチの全部……もう晒してしもうとるやん。そんなん……今更やで?」
まあ、そりゃあそうか。
でも、他の誰にも知らせない色んなことを、俺にだから素直に見せてくれるってのは悪い気分はしないな。
「で、これがウチの解体セットな。どこに置いとけばええんや?」
「まだ解体小屋はできてねえからな。川に洗濯に行っているウロボロスが帰ってきたら、仮置きの場所を決めてもらおうか」
と、そこでアリサは俺にニカリと笑いかけてきた。
「タツヤ兄やんは今日と明日の夕暮れ時くらいまでは暇かいな?」
「ああ、今日は完全フリーで、明日は暇と言えば暇だな。まあ、忙しいと言えば忙しいが」
「どっちやねんな」
「差し迫ってやる農作業はないけど、将来的にやらなきゃいけないことは無限にあるってことだ」
「それじゃあ決定やな」
そう言うとアリサは俺の腕を両手で抱くように掴んで、腕組みの状態でヒジに胸を押し付けてきた。
「おい、どうしたんだよ?」
「タツヤ兄やん。ちょっと街まで繰り出して、ウチとデートせえへんか?」
「デート?」
「ボッタクリの件のお詫びでもさせてーな。もろもろと奢らさせてもらおうってこっちゃ」
まあ、飯くらいは奢って貰ってもバチはあたらんか。
そういえば生活物資も色々と切れてたっけ。
基本的には街の品物はアリサに買ってきてもらってるんだけど、一度に運べる量もあるし、そもそもとして俺も街の市場なんかは一度じっくりと見たかったんだよな。
賽銭箱を使えば何でも取り寄せできるけど、あんな金喰いスキルはボコスカ使って良いもんじゃねーし。
「良し、それじゃあ行くか。おい、ソーニャ? お前も来るか?」
そこでソファーで寝転がっていたソーニャは顔をこちらに向けて、意味深に笑った。
「うふふー。私はこれから仕事があるですよー」
ん? 仕事?
働いたら負けかなってのを地で行ってるソーニャが……仕事?
どういうことだろうと思っていると、その瞬間、アリサがソーニャを睨みつけた。
「馬鹿ッ!」
「あわわー。私……おバカな事言っちゃったですー」
何だか物凄い分かりやすい感じだが、何やらこいつらは俺に隠し事か何かがあるらしい。
まあ、別にどうでも良いけどさ。
「じゃあ、とりあえずウロボロスでも連れてくか。メイド服以外には魔界の衣装しか持ってないしな」
水商売系と言い換えてもいいような服装だ。
マリアに至ってはビキニアーマーみたいな完全露出系となっている。
魔族ってのは基本はそっち系を好むのかな? いや、コーネリアは全然違うか。
「ウロボロスさんも仕事があるですよー」
「ん? ウロボロスも?」
「マリアさんも仕事があるですー。カティアもですよー」
ニコニコとソーニャが笑っている。
っていうか、やっぱり絶対に何かあるなこれは。
「天然って恐ろしい世界やでしかし……」
アリサはソーニャの言葉で頭を抱えている。
もはや俺に隠し事があることを、隠す気すら無さそうな感じだが……。
「まあ、とりあえずそれじゃあ二人で街に繰り出すか」
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