第38話 N2地雷は使徒にもダメージ通るって知ってますですかー?
ウロボロスはめっちゃ笑ってる。底抜けの笑顔だが目の奥が笑っていないのでめっちゃ怖い。
っていうか、基本的にこいつらは人間というよりも魔物なので、本来はこういうノリなんだろうな。
運良く友好的な関係を築けて本当に良かったぜ。
ってことで、宮本の顔がフランケンシュタインも裸足で逃げ出すくらいに変形したところで俺は助け舟を出した。
「ウロボロス……そこらで辞めておけ」
「しかしご主人様……」
「良いからそこらで辞めておけ」
「私もそう思うですよー♪ いくら気持ち悪いとはいえ殺すまではしなくても良いですよー♪」
いくら何でも殺すのは不味いしな。
後は縄で縛って、アリサを経由して街の衛兵か何かに突き出して法の裁きを受けてもらおう。
勇者が訓練施設から逃亡してるんだし、おそらく重罪で酷い目にあうだろう。
そうしてウロボロスは納得しない顔をして宮本を放り投げた。
「あひっ……ひゃっ……あわわ……」
解放された宮本は怯えた様子で大きなテントに逃げようとして……ソーニャが床に置いていた背嚢を踏んでしまった。
そうしてメキっと、ニンジンが潰れる音がした。
あ……ソーニャの顔から血の気が引いてる。肩がワナワナと震えている。
――こいつ地雷踏んだ。
一番踏んじゃいけない地雷踏んだ。
手乗りウサギは理屈が通じないからマジでヤバいぞ?
続けざま、手乗りウサギ達がざわめき始めた。
彼女達の耳がピンと立って、瞬時に青色の瞳に激怒の朱色の炎が灯った。
「食べ物は粗末にするなってガキの自分にオカンから学ばんかったんかいなっ!」
「ってか、このド腐れ……ニンジン潰しよったぞっ!」
「ニンジンを台無しにしたら……後は命のやりとりしか残ってねーだろうがっ!」
「ここでやらんかったら手乗りウサギファミリーの末代までの恥やでしかしっ!」
「ウチら舐めとったらブチ殺すぞコラっ! ナマスに刻んだれコラっ!」
「姉アネさんっ! 闘争の許可をっ!」
「いてもうたらんかいっ! いてもうたらんかい! おうおうおうおう! いてもうたらんかいっ! もしかせんでもオラオラじゃコラッ!」
ソーニャは満面の笑みで右手を前方に突き出し、親指を上方に立たせた。
そしてくるりと右手を反転させて親指を下方に向ける。
「さあ、小ウサギちゃん達ー? やるからには徹底的ですよー!」
あ……これは死んだな。
絶対に死んだな。
――まあ、自業自得だからな。
俺は止めたからな。二度ほど止めたからな。これ以上止める義理もないだろう。
そうして宮本に飛び掛っていく手乗りウサギ達。
俺はゆっくりと瞼を閉じ、胸の前で十字を切ってこう言った。
「宮本……成仏しろよ」
そして――
「う……っ……ぅ……うっぎゃあああああああああっ!」
洞窟内に宮本の悲鳴が木霊する。
手りウサギ達って基本の装備は針みたいな小さな槍なんだよな。
そこから体中に張り付いてチクチクやるんだが……。
チクチク。
チクチク。
チクチクチクチクチクチクチクチク。
「うっぎゃあああああああああっ!」
阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
っていうか、手乗りウサギ達が発光し始めた。
お、こいつら魔法も使えるのか。
あ……。
――宮本燃えた。
そう、燃えた。
燃えたんだよ。
宮本が燃えてしまったんだ。
「ぎいいいいいっ――――」
いや、正確に言うと、ライターみたいな小さな小さな炎が数十か数百……宮本の体中の至るところに見える。
で、ジワワジワジワ焦がす感じで焼いている。
「エゲつねえ……」
何ていうか、全ての攻撃が小さく、そして鋭く……ジワジワ系でエゲつない。
本当にコイツ等と敵対関係にならなくて良かったと思う。
燃える宮本、刺される宮本――そして手乗りウサギ達の執拗な攻撃は二十分程度続いた。
「……生きてるか?」
何ていうかもう……見るも無残な状態になってうつ伏せになった宮本に問いかけるが返事はない。
全身が血達磨で体中から小さな煙が無数に上がっている。
で、近くに落ちていた棒でツンツンとしてみた。
あ、ピクリと動いた。
どうやら生きているみたいだな。
さすがに勇者の生命力は中々のようだ。
「運が良ければ生き残れるはずだ。後は自分で何とかしてくれよな」
せめてもの情けだとばかりに、俺は宮本の頭の近くにポーションの瓶を差し置いてやった。
で、危ない研究をしているという錬金術師の爺さんはと言えば……。
「あ、あ……あわわ……手乗……手乗りウサ……こんなにたくさん……それに女王まで……その上……魔界の貴族……何故……メイド姿……」
腰を抜かしてうわ言のようにさっきから何やら呟き続けている。
「さて、どうしましょうかご主人様」
「そうだな……」と俺は頷いた。
「とりあえず全員縄で縛って拘束だ。非合法なことをやってた連中みたいだし、冒険者ギルドなりに引き渡そう。もちろん宮本も含めてな」
まあ、宮本の場合はそもそも捕まる前に、生死の境からの生還が必要な訳なんだが。
「仰せのままにご主人様」
それだけ言うとウロボロスはペコリと頭を下げたのだった。
ちなみに、錬金術師達が集めていた大量の鉱石は俺達が有効活用させてもらうことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます