第36話 全国のミヤモトさんに謝れ その2


 そうして俺達は鉱山の最下層まで辿り着いた。

 ちなみにソーニャと手乗りウサギ達はレア食材としても有名らしい、謎のイノシシを発見したので後から追いかけるとの言葉と共に洞窟の闇の中に消えていった。




 で、最下層は結構な広さの空間だった。

 地方都市の市民体育館くらいはありそうな大きさだな。

 登山のベースキャンプみたいな状況になっていて、大小の色んなテントが見える。

 壁際では奴隷っぽい感じの、みすぼらしい服装の連中がツルハシを振るっている。どうやら鉱石採掘に勤しんでいるらしい。


 俺達は一番大きなテントまで進んで声をかけてみた。

 すると、初老の錬金術師っぽい格好の男と金髪の歯抜け……宮本が出てきた。


「あ? オッサンじゃん? 生きてたんだ?」


 ニタニタしながら宮本は俺に向けてあっけらかんとそう言った。

 いやいや、「久しぶりっ!」みたいな感じになってるが、こっちは死にかけたんだぞ?


「お前……帝都かどっかに行って勇者としての戦闘訓練を受けるんじゃなかったのか?」


「ああ、それな。何か……連中マジでさ?」


 っていうかなんでタメ口なんだよこいつは……。


「マジっつーと?」


「とにかく訓練がマジなんだよ。血のションベンが出るまで追い込まれた奴もいるしさ。で、俺はそこそこ強くなったから途中でバックレ決め込んだんだ」


「バックレ……だと?」


「努力って言う言葉――俺、大嫌いだからそこんとこヨロシクな! まあ、Bランク級冒険者程度には強くなって、ある程度好き勝手できる力を身に着けたのを確信したからなんだけどな」


 満面の笑顔の宮本だ。

 っていうか本当にコイツ……カス中のカスだな。


「で、俺は街に出たんだが、逃亡勇者なんて冒険者ギルドでも雇ってくれねーし、困ってたところで裏ギルドの存在を知ったんだよ」


「裏ギルド?」


「ああ、まあ犯罪者ギルドだな。で、ここにいるアルドヘイムっていう錬金術師の爺さんが非合法な研究をしてるみたいで……雇われたんだよ。要は今回は特殊鉱石の採掘の護衛が任務ってワケ」


 なるほど。

 とりあえず、こいつらが犯罪者集団ってのは確定ってことだな。


「ああ、オッサンは知らねーだろうけど、良い事教えてやるよ」


 そこで宮本は採掘中の奴隷を手招きした。

 そうして、やってきた奴隷に蹴りを入れる。


「ぎゃっ!」


 ゴロゴロと転がる奴隷を見て、宮本はケタケタと笑った。


「はは、おもしれーだろ? この世界じゃ金と力が正義なんだ。こいつらは奴隷紋をつけられているから、不満があっても絶対に逆らわない。どれだけ殴ろうが蹴ろうが……暇つぶしにはちょうど良いんだ。指とかを折ったらおもしれー反応するんだぜ?」


「お前……」


「いやー、金をもっと稼いで奴隷をたくさん買わないとな。男も女も全員が俺の言いなりだ。こんなに楽しいことはねーぜ?」


 カス中のカスってのは訂正しておくか。

 こいつは鬼畜だな。人間じゃねえ。


 と、そこで宮本はウロボロスに視線を移して……絶句した。


「おい、おっさん……こちらのメイドの超絶美女は何者なんだ?」


「ああ、色々とあって今は俺と一緒に住んでるよ」


 俺とウロボロスを何度何度も交互に見返して、そして宮本は「あっちゃあ……」とばかりに頭を抱えた。


「そこの美人のお姉さん? どんな事情があるかは知らんが、そこのオッサンはダメだ」


「と、おっしゃいますと?」


「見た目もオッサン、顔もオッサン」


 いや、いちおう俺は二十九才なんだけどな。アラサーでオッサンではあるけど、そこまでのオッサンって訳でもないぞ?


「それにこのオッサンはオマケに農業スキルしかない。はっきり言えばゴミ中のゴミだ。選ぶなら絶対強者の――俺みたいな勇者を選んだ方が良い。とりあえずお近づきの印にテントの中でコーヒーでもどうだ?」


 そこでウロボロスは俺に耳打ちしてきた。


「ご主人様……この人気持ち悪いのですが……殺しても構わないでしょうか?」

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