第32話 全員そろって狭いお風呂に入ります

「あー極楽だー」


 農作業の疲れを風呂で癒し、二つの月を眺めながら俺はため息をついた。

 やはり風呂は良いもんだよな。

 飯も美味いし美人にも囲まれて……ひょっとすると俺は日本での生活よりも良い生活をしているかもしれん。


 っていうか、普通にこの世界には奴隷制度とかもあって、俺は『ちゅどーん』で終わらせてしまうが実は一歩外に出れば魔物の巣窟だったりする。

 実は普通に暮らすには結構なハードモード生活だったりするらしいからな。


 そんなことを気にしなくても良いのは謎スキルの数々のおかげなんだが、これは本当に異世界転移特典に感謝しないといかんな。


 と、そこで――


「お風呂♪お風呂♪」


 ソーニャが風呂に入ってきた。


「やはりお風呂は良いものですね」


 マリアも風呂に入ってきた。


「ご主人様……私もお風呂で休息の時間を取らしていただきたく……」


 ウロボロスも入ってきた。


「素材の買取りに来たんやが、その前にひとっ風呂浴びさせてもらうで」


 アリサも入ってきた。


「野菜の交易の前の下見に来たのだが……風呂と言うものは物凄い良いものと聞いたぞ」


 エルフの女王まで入ってきた。

 っていうか、この風呂は簡易風呂で五右衛門風呂形式なので物凄い狭い。

 深さはあるので、基本は立って入るスタイルなんだが、全員が入ると満員電車状態のぎゅうぎゅう詰めとなる。


 肉体が密着しての状態になると……まあ、色々とある訳だ。

 つまりは基本は女性陣は肉食系ばかりということで……。


「アーーーッ!」


 と、まあそんなこんなで俺の叫び声は夜の闇に溶けていったのだった。





 で、翌日。


「風呂が壊れただって?」


「ええ、ご主人様……ソーニャが無茶をするものですから」


 ウロボロスがうんざりとしたように肩をすくめた。

 っていうか、全員が無茶をしていたような気がするか……と、それはさておき。


「人数も増えてきたし、そろそろ小屋もちゃんとしたモノを作りたいんだよな。で、風呂も簡易じゃなくてちゃんとしたものを作りたいんだよ」


「ふーむ……」


 ウロボロスが難しい顔をしたところで――


「話は聞かせてもらったで。しかしタツヤ兄やんも無茶苦茶言いよるな」


 例のようにアリサがドアから入ってきた。


「無茶苦茶?」


「ちゃんとしたものを作るなら人里から職人を呼ばなあかん訳や。他にも職人の小間使いの人夫も何人か必要になるわな」


「まあ、そりゃそうだろうな」


「人里から結構な人数を派遣する訳やろ? とんでもない出費になるで? ここって知っての通りに高難易度ダンジョンやからな。高ランク冒険者のダンジョンの護衛付きでの派遣っていう扱いになる訳や」


 そういえば前にもそんなことを言ってたよな。


「ダンジョン内での命がけの工事になるし、ボッタクリって言われてもおかしくないような金を正規の値段で取られる。しかも高ランク冒険者を数週間貼り付けにせなあかん訳や。総数十五人~三十人を数週間……しかも命がけの仕事をさせる訳や」


「どれくらいかかるんだ?」


「材料費抜きで金貨四千枚くらいはかかるんちゃうか? 高ランク冒険者は高級取りやし、ダンジョン内長期派遣とかなると……そりゃあもうそんな感じになるで」


 賽銭箱でアホみたいに金を吸われてるし、正直キッツイな。


「しかしそれは困ったな」


 と、そこでエルフの女王がポンと掌を叩いた。


「それならウチの若い衆を十人程度と、職人を派遣しようか? 給金は貴様らの思う適正な金額を与えてやってくれれば良いぞ」


「そりゃあありがたい提案やねんけど……根本的な問題としてエルフの建築技術は樹木を利用するのが基本やろ? タツヤ兄やんはそれで良いんかいな?」


 まあ、エルフの住居はこの前行ったが、樹木をくりぬいた感じだったりで物凄いファンタジーだった。


 大樹をマンションと見立てて改造してると言うか、そんな感じだな。

 まあ、ぶっちゃけ凄い落ち着かない。

 一泊とかなら物珍しいし、アミューズメント的なホテルとしてはウェルカムなんだが、住むってなるとなァ……。


「ふーむ。それではドワーフ族に口を聞いてやろうか?」


 と、その言葉で俺は苦笑した。

 本当に次から次にファンタジーな連中とお近づきになれるようだ……と。

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