第31話 エルフはエロフだったという酷いオチでした

 さて、大宴会である。


「お酒美味しいでのですー♪」


 ソーニャがグイグイとエルフの酒を飲んでいる。

 イモを発酵させた系の蒸留酒で……まあ、焼酎っぽいな。


「しかし、タツヤ殿も人が悪い。野菜の交易に来たのであれば最初からそう言えば……」


 エルフの女王が焼酎を煽りながら俺を睨んできた。


「いや、攻撃仕掛けてきたのお前らじゃん……」


 まあ、ここでまた話を蒸し返してもケンカになるだけなのでこれ以上は言わねーけどさ。

 それはさておき、アリサの話通りにニンジンを食べさせた瞬間に女王の態度は一気に軟化した。


 元々エルフ族は魔法属性付与の武具やら工芸品やらを輸出する仕事が忙しく、農作業までは中々に手が回らないそうだ。

 各国から魔法属性付与製品の需要が高く、儲かる方に流れるのは世の常とのこと。

 そしてここは帰らずの森に近く、新鮮な野菜を運ぶのにも一苦労と言う背景があるらしい。

 まあ、食糧問題を輸入に頼っている訳で、安定した食糧確保は集落としての弱点の一つだったらしいんだよな。


 で、そんなところに手乗りウサギ達までが絡んできていて、ソーニャ達には臨戦態勢だったという訳だ。


「まあ、過去のことは水に流して、今日はこの極上の野菜と酒を楽しもうではないか」


 女王はご満悦だが、俺的にはちょっと野菜で酒を飲むって言うのはアレだ。

 実は小屋から酒のツマミの燻製肉を持ってきているので、それでチビチビと焼酎を流し込む。


「しかし、どのようにしてこのような野菜の数々を作っているのだ?」


「それは企業秘密だ」


 マリアに確認したが、この世界で農民系スキルを持っているのはどうにも俺だけっぽいんだよな。

 さっきまで戦争状態だったし、手の内を明かす必要はないだろう。


「まあ、この味を知ってしまえば――秘密にしたいというのも頷けるがな」


 女王はプチトマトがお気に入りのようで、先ほどからバクバクと食べている。

 そして焼酎をガブガブと飲んでいる。

 イチゴみたいに甘いプチトマトなんだが、本当に酒に合うのか……と不安になってくる感じだ。


「ところで女王さん? 野菜スティックにこれをつけて食べてみな?」


「それは何だ?」


 良いから良いからと俺は小皿にマヨネーズを盛ってみた。

 それにニンジンとキュウリの野菜スティックを添えて差し出した。


「……ふむ?」


 小首を傾げながら、エルフの女王はマヨネーズをスティックの先端に突き刺して、そして口に運んでいく。


「……何じゃこりゃ?」


 バクバクバクバク――猛烈な勢いで女王はスティックを口に運び、そして焼酎で流し込んでいく。


「森の精霊の御業としか思えん……何なのだこの味は? このような美味なるものがこの世に存在しても良いのか?」


 次に来るときは野菜ドレッシングも持参してこようかな。

 多分だけどめっちゃ食いついてくれるはずだ。


「大げさなんだよ」


 笑いながら答えると、真顔で女王は首を左右に振った。


「これだけの味を……およそ人間の所業とは思えぬ」


 そうして女王はソーニャ達に視線を移した。


「確かにこのニンジンであればこやつ等も懐く……か」


「あと、もう盗みはしないようにキツく言っとくよ」


 そこで女王はクスりと笑った。


「いや、その必要はないだろう」


「っつーと?」


「一度……この味を知ってしまえば……もう、我々のニンジン等を食べる気にはならんだろうし……な」


 まあ、ここまで褒められると悪い気はしねえな。


「しかし本当にこの野菜は美味いな」


 何杯目か分からないような感じの焼酎を飲み干しながら、女王はマヨキュウリを食べている。

 ってか、酒臭いなコイツ。


「それじゃあそろそろ俺達は帰る……」


 時刻も夕暮れで、とりあえずの今日の目的は親睦を深めることだ。

 後の細かい取引の値段なんかはアリサに任せることとして……このままじゃ夜になって帰れなくなっちまうからな。


「帰ると言っても……みんな寝ているぞ?」


 ソーニャと手乗りウサギはベロベロに酔っぱらって寝ている。

 まあ、チビッコギャング達は良いとして、マリアとアリサもベロベロ状態で寝ているのだ。


「うわっちゃァ……」


 俺の言葉を聞いて、女王はクスリと笑った。


「時にタツヤ殿?」


「何だよ?」


「貴様は強いな?」


「ああ、何故だかそうなっているらしい」


 そうして、酒気を混ぜた艶めかしい吐息と共に女王は言った。


「アッチの方も強いと……三人から聞いたぞ?」


 おいおい、酔ってるからってどんだけぶっちゃけ話してんだよあいつら……。

 ゲンナリとしているところで、俺の周囲を十人のエルフが囲んでいることに気が付いた。


「おい、酔いつぶれたところを襲うってことなのか?」


 まさかの戦闘再開かよ……と俺はクワを掴んだ。

 そこで、女王は首を左右に振った。


「エルフ族には男性がいないということは知っているか?」


「え? そうなの?」


「他の種族から種を貰うことによって我々は命をつなぐのだ」

 そうして、俺の周囲の十人のエルフと、そして酒で頬が朱色に染まった女王が俺をエロい目つきで眺めている。


 ――おいおい、このパターンは……まさか?


「優秀な男の種を我々は求めている――今日は泊って行けっ!」


 やっぱりかいっ!

 と、俺はゲンナリと肩をすくめる。


「いや、でもさ……今日がみんなとは初対面な訳だろ?」


「エルフのキレイどころが十人だぞ? 貴様はそれが嫌だというのか?」


 全員が悲し気に瞳をウルウルとさせて、今にも泣きだしそうな表情になっている。

 と、そこで――俺は素直な気持ちでこう言った。



「いや、全然嫌じゃないです」



 で、そこから色々……本当に色々あった。

 人数の問題でビビってた部分もあるんだが、でも、それ以上に色々と問題があったんだよな。

 スキル:夜の帝王が無ければ下手すれば殺されていたかもしれん。

 いや、ただの数の暴力じゃなくて、純粋にアイツ等の個々人の戦闘力も本当に強かったんだよ。

 まあ、ギリギリで勝ったけどな。


 ――結論から言うと、エルフはエロフでした。

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