第30話 エルフの女王なのでくっころはある 


「武人って言われても……」


 農家なんだけどな。正直、スキルがエグいだけで後は普通の一般人だ。


「さあ、武器を取れっ!」


 いや……だから武器って言っても、俺の持ってるのただのクワなんだけどな。


「武器はクワしか無いがこれで……良いのか?」


 そこでエルフの女王はフっと笑った。


「貴様のクワは田を耕すものではなかろう? そう、貴様のクワは――敵の頭を耕すためにあるはずだっ!」


 何ていうか凄い字面だな。



 ――敵の頭を耕すって……。



「いや、ちょっと待てよ! 話を聞いてくれよ!」


「互いに攻撃を仕掛けた後だ。一度始まった戦争は血をもっての終結以外にはありえんっ!」


 そういやエルフは戦闘民族とか言ってったけ。

 ともあれ、どうにも一騎打ちをしないことには収まらない雰囲気みたいだ。


「しゃあねえな。だが、俺が勝ったら話を聞いてもらうぜ?」


「勝負の前に……負けた後のことを考える頭など持ち合わせてはおらんっ!」


 そうしてエルフの女王は俺に矢を射かけてきた。

 ってか……一回の弓の射撃で四本の矢かよ。

 こりゃあ相当な使い手だな。

 頭部に一本、胴体に二本、そして足に一本。

 的確な軌道で俺に矢が猛烈な速度で飛んできた。


 ――だが、甘いっ!


 クワを一閃……いや、四閃。

 空中で矢を迎撃し、俺は一気にエルフの女王に向けて駆け出して距離を詰める。


「これで終わりだっ! 飛び道具は距離を詰められれば終わりだろうっ!?」


 そうして大上段にクワを構えて――エルフの女王はニタリと笑った。


「甘いのは貴様だっ! 世界樹福音(ルビ:グリーンホーリーフレア)っ!」


 背後に気配を感じ、振り向くと――俺の後ろにいつの間にか半径二メートル程度の緑色の球体が発生していた。

 そして球体の発生源と思われる背後の地面を良く見ると、事前に仕込まれていたと思われる魔方陣が見える。


 最初から魔方陣に仕込まれていた魔法を発動させるために、この位置まで俺を誘導したってことか?


「数十年かけて組み上げられたエルフの拠点防衛儀式魔方陣だっ! 魔王ですらタダでは済まん――我が里の最大にして至高の奥義、その身で味わえっ!」


 俺の直感が語り掛けてくる。


 ――直撃すると不味いっ!


 だが、既に緑の球体は目と鼻の先の距離だ。ここからの回避は間に合わない。

 と、その時――



【スキル:農作業レベル10が発動しました】



 うおおおおおっ!


 ――体に力が溢れるのが分かるっ!


 そして、体中の全運動神経と反射神経が極限までに研ぎ澄まされているのが分かる。

 周囲の全てが停止したような――そんな感覚の中で、俺はアクロバティックにバック転をすることで緑の球体を避ける。


 そうして、態勢を立て直してたところでクワを一閃っ!

 緑の球体は一撃の下に消滅した。

 数瞬の間を置いて、その一部始終を見ていたエルフの女王は呆けた表情を浮かべた。


「……ありえんっ! 何だその動きは!? 何なのだ貴様はっ!?」


 いや、俺が聞きたいよ。

 何で農作業のスキルで超絶身体能力を得て、何で農具取扱スキルで魔法を掻き消すことができるのか。


 そうして女王はその場で肩をすくめて空を見上げた。


「――いや、全てを認める潔さ良さもまた……武人の嗜みか」


 そのまま彼女は弓と矢を地面に置いて、膝をついた。


「……私の負けだ……殺せ」


 そこで俺は首を左右に振った。


「俺達の目的は争いごとじゃない。いや、そもそも今日は友好を深めに来たんだ」


「友好だと? そのようなことを言って裏では何を考えているか分からんだろうに。私が物事を敵の甘言を簡単に信じる阿呆に見えたか?」


「ともかくだ……俺のニンジンを喰えば仲良くなれるぜ?」


 その言葉でエルフの女王は俺の股間を凝視する。

 そうして、顔を真っ赤にして、地面に視線を落としてこう言った。


「くっ……殺せ。貴様の辱め等……我は受けぬっ!」


 何だか良くわからんが、俺の言葉を違う風に勘違いしたらしい。

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