第27話 エルフの里で戦うことになりました その1

 で、その翌日――。


 ウロボロスをお留守番として、俺とアリサとソーニャとマリアはエルフの住むと言う森の一角に向かっていた。

 手土産に持ってきているのはニンジンとニンニク、そしてプチトマトとモヤシと大豆だ。


 特にエルフはトマトが好きとのことで「これ食わせたら一発やでっ!」というのはアリサの談だ。 


「お散歩なんですー♪」


「オヤツのニンジンはまだなんですかー?」


「隊長殿ー。イノシシを発見しましたですー。狩りますかー?」


 そこでソーニャがニコニコ笑顔を作った。


「今日は狩りはお休みですよー」


 手乗りウサギ達はいつもどおりの感じで和やかに騒がしいな。

 と、そんなこんなで俺達はエルフの集落に辿り着いたんだが……。


「何か……凄いな」


 イバラ付きの木柵で囲まれていて……っていうか、対馬用の杭や、落ちれば串刺し系の竹槍付きの堀なんかも見えるな。

 集落っていうか、エルフ独特の森林城塞っていうかそんな感じだ。


 で、延々とそんな感じの柵がどこまでも続いていたんだよな。


「まあ、エルフは戦闘民族やさかいな」


 おいおい、そんなの聞いてねえぞ。

 そうして集落の入り口付近の物見小屋と思われるところから、一人の金髪女性のエルフが出てきて――


「て、て、敵襲っ! 手乗りウサギが集団で攻めてきたぞーーーっ! 隠せっ! 隠せっ! ニンジンを隠せーっ! 同時に迎撃の用意だっ!」


 そうして物見と思われるエルフは集落の中に駆け出して行った。

 ん? これは一体どういう状況なんだ?


「うふふー。もうニンジンは盗まないですのに大げさなんですよー。タツヤのニンジンの方が美味しいですしー♪」


「えーっと……ちょっとソーニャさん?」


「何なんです?」


「君達……昔……エルフ相手に色々とやらかしてるの?」


「エルフのニンジンは美味しいんですよ? だから成人の儀で小ウサギちゃん達は命がけでエルフの集落に向かうんですー」


「えーっと……つまり、どういうことなんだ?」


「私達はエルフからは森のチビッコギャングと言われてるですよー?」


 しばらく俺はフリーズして、そして――


「……え?」


 と、声を発したのだった。


「でも本当に大げさなんですよねーエルフさん達は」


「いや、盗みを働いていたんだったらお前らが悪いんだろ?」


 しまった……。

 俺とは友好的な関係を築いていただけに、手乗りウサギを甘く見ていたのは失敗だった。

 基本的にゆるふわでほんわかなノリだが、虐殺の食いしん坊とかの異名があったんだけかコイツ等は。


 とにかくニンジン関係では手段を選ばないのは間違いなさそうだ。


「ってか、本格的にヤバいな」


 集落の出入口の門は固く閉ざされ、柵の向こう側には数百人の弓で武装したエルフ達が騒いでいる。


「マリア? アレは?」


 俺の指さす方向は門の上方に設置されている物見台のような場所だ。

 そこに数十人のローブを着たエルフが続々と立ち並んで行って、陣形を組んで方こちらに向けて一斉に杖を構えた。


「エルフの魔導士です――儀式攻撃魔法来ますっ!」


 うおおっ!

 何か良くわからんがファイアーボールって名前が良く似合いそうな……その相当に上位っぽい半径十メートルくらい巨大な火炎の球がこちらに飛んできた。

 更に言えば柵の向こう側のエルフ達も矢をこちらに向けて雨のように降らせてきた。


 ――クッソっ! どうすりゃ良いんだ?


 とりあえず俺は手に持ったクワを構えると――。


 スパパパパパパっ!


 クワが矢を物凄い勢いで叩き落していく。

 今まで俺は魔獣を『ちゅどーん』でやっつけてきた訳だが、今回は今までとはちょっと違う。


 体が勝手に動くような感覚……いや、違うな。


 確かに俺の意志の下に体を動かしているんだが、どう動けば良いのか分かるし、体もアホみたいに軽い。

 ソーニャとマリアも基本的にクソ強いので体術だけで矢を避け、あるいは空中で掴んで一撃も被弾していない。


 手乗りウサギについては基本の体が小さいのと、めっちゃ早えし動きも的確だ。

 高レベルの魔獣を狩猟してるってのは伊達じゃないみたいだな。


 っていうか……と俺は苦笑いした。


「お前も強かったんだな?」


「剥ぎ取り屋で基本は逃げ回ってるって言うても、そこそこ程度は戦闘もできへんと……あんな森をウロつけへんで? ここいらはまだ普通の森やけど、あそこに一歩足を踏み入れた瞬間に難易度エクストリームに変わるさかいな」


 護身用と思っていたアリサのダガーは良く使い込まれているようで、流れるような動きで矢を避け、そして切り落としていた。


「一番の問題はアレだな……」


 当然、先ほど放たれたファイアボールが俺達のところに飛んできている訳だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る