第23話 お風呂ができました


 風呂ができた。


 っていっても、巨大な木材をくりぬいた感じの原始的な奴なんだけどな。

 で、それを地面に埋めて露天風呂にしてるって訳だ。

 立って入浴して五人くらいが入れる感じで、一人ならギリギリで座ることもできる。

 田舎の婆ちゃんの家で入ったことのある五右衛門風呂的な感じかな。


 当然、湯を沸かすのも一苦労だ。

 賽銭箱で取り寄せたラーメン屋なんかで使う業務用の巨大寸動鍋で湯を何回か沸かして、沸騰した湯を冷水で割るという感じだ。


 まあ、正直物凄い手間がかかるのは間違いない。

 この辺りは今後改善しないといけないんだが――


「あー……極楽だ」


 ため息と共に声が出た。

 ここに来てから汚れを落とすと言えば川での行水だったからな。

 当たり前のことだが毎日汚れは落としてはいたんだが、現代で生まれ育った俺がそんなので満足できる訳がない。


 やっぱり、疲れた体を癒すのは風呂に限るんだよな。

 まあ、疲れたと言っても農作業じゃなくてだいたいは三人の相手のせいなんだが。

 流石に代わる代わるに襲い掛かられるとスキル:夜の帝王を駆使してもどうにもならない。


 ――主に睡眠時間的な意味で。


 しかも、一週間に一回位は特別ゲストの狐耳も参戦するんだよ。

 で、狐耳が来たときは、ソーニャも彼女と一緒にアークドラゴンの肝臓を食べて……バーサーカーラビットになっちゃうんだよな。


 ぶっちゃけ、もう手を付けられない状態になる。

 どうやら、獣人族が発情する謎成分が入っていると言うのは本当らしい。

 んでもって、他にもおはようとおやすみのキスをソーニャがしてくるのを見て、残りの二人もするとか言い出して……まあ、とにかくめんどくさい。


 まあ、全然嫌じゃないから良いんだけどさ。

 と、そんなことをツラツラと考えながら空を見上げていると――


「あ、月が二つある」


 赤い月だったのは知っていたが、今日は普通の月もある。

 普通の色の月は自転とかの関係で、たまにしか見えない感じなのかな?


「ゆっくりと夜空なんて見上げたことなかったからな……」


 最初はヘビとか食っててカツカツの生活だったし、次から次に女が押し寄せ来るし、ボッタクリされるし……しまいには魔王だし。

 まあ、とにもかくにも、どうにかこうにかここでの生活も軌道にのってきた。

 食うものには困らないし、物資調達も狐耳のアリサに頼めば何とかなる。

 で、調味料が欲しければ賽銭箱だ。

 うん、やっぱり何とかここでやっていけそうだ。

 それになにより何だかんだでアイツ等……みんな可愛いしな

 そんなことを思いながら俺が風呂から上がって小屋に入ると、ソーニャが駆け寄ってきた。


「お風呂なんですー♪ 次は私が入るんですー♪」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねて、どうやらご機嫌がよろしいらしい。

 っていうか、この世界には風呂に入ると言う習慣がないらしく、それを聞いた時は軽くカルチャーショックだった。


「はじめてのお風呂なんですー♪」


 そうしてソーニャは服を脱いで、タオルもつけずに露天風呂へと走り去ろうとする。

 見た目が高校生か中学生ぐらいでそれが裸なので色々とどうかと思う。

 が、瑞々しい肌質は触っても見てもやはり良いものだ。


「おい、ちょっと待て」


「どうしたですかー?」


 そうして俺は賽銭箱で現代日本から取り出したブツをソーニャに手渡した。


「プレゼントだよ」


「プレゼントですかー?」


 コクリと俺は頷き、ソーニャは小首を傾げながらブツを受け取った。


「……ああ、多分……驚くぞ?」

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