第22話 メイドさんはもちろん嫌じゃないです

「それじゃあまた来るからのっ! その時もカレーを頼むぞっ!」


「カレーばっかで飽きないのかお前は?」


「我は一日三食カレーでも一向に構わんっ!」


「おいおい……絶対飽きるだろ?」


「飽きんっ! 絶対に飽きんっ!」 


「じゃあ、カレーを何回か喰わせてやった後、頃合いを見計らった頃にカレー鍋を作ってやるよ。と、なると白菜とネギも作らんと駄目だな」


「ほう? カレー鍋じゃとっ!?」


 と、そんなやりとりの後、コーネリアが帰った後の夕暮れ――。

 小屋の掃除をウロボロスがしていた時に、サイクロプスが小屋を訪ねてきた。

 サイクロプスは喋ることができないんだが、持参していた手紙によるとコーネリアからの遣いらしい。

 そして手紙と一緒に小包が俺に差し出され、受け取るとサイクロプスは頭を下げて帰っていった。


 ――で、小包なんだが……メイド服が入っていた。


「コーネリア様からの届け物ですか?」


「ああ、そうなんだがメイド服なんだよ」


 コーネリアの意図を察したらしく、ウロボロスは小包を受け取って倉庫へと消えていった。

 そうして、すぐにメイド服に着替えたウロボロスは小屋へと戻ってきた。


「この服は……どうでしょうか? ご主人様?」


「まあ、サマにはなっているな」


 服装を変えたからか、先ほどの水商売系の感じがかなり消えている。

 っていうか、普通に美人で見惚れそうになってしまいそうな勢いだ。 

 そこで、ウロボロスはスカートを両手でチョコンと摘まんで軽くたくしあげる。


「それではこれからお世話になりますご主人様。不都合があれば何なりと申し下さいませ」


 そのまま頭を下げたウロボロス。

 おお、なんていうか物凄いメイドっぽいポーズだな。


「別に嫌ならそんなことしなくても良いんだぜ?」


「コーネリア様の言いつけですし……魔王の館では側近としてコーネリア様の身の回りの世話もしておりましたから。後生ですから私をここにおいてくださいまし」


「まあ、ここにいたいっていうなら止めはせんが……」


 そこでウロボロスは軽く頬を染めて尋ねてきた。


「私は普段はあんな恰好をしておりますが――」


 ああ、あの格好は胸元がはだけていて、完全に水商売の格好だな。


「――実は経験がございません」


「経験?」


 何を言っているんだこいつは?

 と、俺は小首を傾げる。


「いや、今夜は寝室を共にしなければなりませんので……そのことは最初に知っておいてもらわないと不都合が生じます」


「……それってどういうことだ?」


 そうしてウロボロスは顔を真っ赤にして、膝をモジモジとさせた。


「覚悟は既に決めております」


 おいおいマジかよ……。


「……コーネリアはそこまで命じてはないだろ?」


「いいえ」とウロボロスは首を左右に振った。


「私も女ですから例えコーネリア様とは言えども……命令ではそのようなことはいたしません」


「っつーと?」


「ご主人様はコーネリア様にそこまで……大事だと言われる御仁です。それに先ほどは気づきませんでしたがご主人様はとてつもない力を有しています。二人目の主君として、私の全てを捧げるに値すると……判断したということでございます」


「いや、でもさ……」


 そこでウロボロスは瞳をウルウルとさせて懇願するような上目遣いを向けてきた。


 ――っていうか、物凄い色っぽい。


 ソーニャみたいな可愛い系でもなく、マリアみたいなセクシーダイナマイトでもない。

 やや薄い胸で、どことなく影のある感じ……妖艶という言葉がこれほど似合う女はいないだろう。


「――私のことは……嫌でしょうか?」


 そこで俺は、素直な気持ちでこう言った。


「全然嫌じゃないです」


 と、まあそんなこんなで俺達の小屋にまた一人――新たな同居人が増えたのだった。

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