第21話 家にメイドさんがやってきました
「まあ見ておれ」
コーネリアが念を込めると、周囲に暴風が吹き荒れて地面に巨大な魔方陣が走った。
光り輝く幾何学文様は畑全体はもちろんのこと、更にその外――森の奥まで急速な勢いで伸びていく。
そこでマリアが「あっ」と息を呑んだ。
「これは……龍皇の加護……」
「うむっ! その通りじゃっ!」
「しかし、信じられないっ! 土地そのものを対象にしてしまうなど……そのようなことは前代未聞でございます!」
マリアは驚愕の表情でそう言った。
そして、ただただ茫然自失とばかりに地面に光り輝く幾何学文様を眺めているのだった。
「っていうか、龍皇の加護ってのは何なんだ?」
「龍は宝を集めるというのはご存知でしょうか?」
まあ、ファンタジーなんかの伝承だと定番の設定だよな。
英雄譚なんかでは龍を倒した後にその財宝を手に入れるような話も多いし。
「まあ、そりゃあ知ってるけどさ」
「この小屋とその周囲が――龍の宝物庫として認定されたということです」
「宝物庫?」
「ええ、タツヤ様そのものが……コーネリア様の宝として認定されたのです。この結界の範囲内であれば魔物に対する絶対防壁となりましょう」
そこでコーネリアはうんと頷いた。
「大体はマリアの説明で間違いはないの。まあ、我からも説明しようか。これは加護と言うかマーキングなのじゃ」
「マーキング?」
「うむ。これは我の宝物がこの場にあるという意味の印じゃ。下手にこの結界内で問題をおこせば……我に喧嘩を売ったと同義になると言う意味のな。魔獣系の魔物は我の魔力の残滓に恐れて近づきもせんし、人語を介する魔族であれば、範囲に入っただけで結界の意味を悟って問題はおこさんじゃろう。我の怒りを買いたいような馬鹿者であれば話は別じゃがな」
「要はこの範囲内での揉め事が起きなくなると?」
「平たく言えばそういうことじゃ。まあ、人間には効かんじゃろうが、高位の魔術使いであれば……警戒はするじゃろう」
「まあ、面倒なことが起きないようになるのは助かるよ。ありがとう」
そこでマリアが呆れたように言った。
「これはそういう軽くお礼を言うような問題ではありませんよ、タツヤ様」
「っていうと?」
「龍の宝物庫の結界は一つしか張れないのです。つまりコーネリア様は既に所有している宝物庫を廃棄して……この場所に結界を張ったのです」
おいおい、こいつは俺のことをどんだけ大事にするつもりなんだよ。
そう思いながらコーネリアに視線を送る。
「本当にそんな加護をもらっても良いのか?」
「うむっ! お前様は我の大切な盟友じゃからのっ! これから我が仲良くしたいと思っている相手に対して――どうして出し惜しみをする必要があるのじゃ? それに、部下の不始末の落とし前の意味もあるからの」
アホ毛を立たしながらニッコリ笑顔の、見た目十二歳くらいの魔王様。
うん、非常に可愛らしい笑顔だ。
ってか、固形ルーのレトルトカレーでここまでしてくれるって……。
まあ、とりあえず美少女に好かれると言うのは悪い気はしない。
「と、言う事で我は朝カレーを食したいのじゃが?」
「ああ、龍皇の加護のお礼も込めて……腕によりをかけて作ってやるぜっ!」
「やったのじゃっ! ふふ、お前様はほんに良い奴じゃのうっ!」
両手をあげて、コーネリアはその場で飛び上がってぴょんぴょんと飛び跳ねだした。
どうやらよほど嬉しいらしい。
「時にウロボロス?」
「何でございましょうかコーネリア様?」
「貴様の処遇じゃが……」
その言葉でウロボロスは恐れおののいて、地面に再度膝をついた。
「如何様な処罰でも受けましょう」
「いやいや、さっきあんだけ謝ってくれたんだし別に良いぞ?」
「いや、ケジメじゃ。ケジメは大事じゃ。こういうところをグズグズにしておいてはいかん」
そうしてウロボロスは頭を下げたまま、恐る恐る……といった風にコーネリアに尋ねた。
「私はどのように?」
「そうじゃの。この家でメイドとして家事全般の手伝いをするが良い」
「……了解しました」
「しばらくはそうして頭を冷やすのじゃ。それと……言うまでもないがこの男に精一杯誠心誠意を込めて尽くすのじゃぞ?」
「おおせのままに。コーネリア様」
おいおい勝手に決めるなよな。
まあ、言っても聞かなそうだしな……。
とりあえず、俺は苦笑しながらカレー作りを始めたのだった。
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