第20話 魔王様のお宝に認定されました
「のう、ウロボロス? 頭をあげい。これは一体どういうことじゃ?」
「いや、コーネリア様に数日前に報告を差し上げた謎の農家の調査と……そしてコーネリア様の庭先での勝手な振る舞いに対する落とし前をつけさせようと……」
「ふむ? 昨日、おぬしのところに我が手紙を送ったろ? この家の主については、我が盟友が故に最高の待遇で応対せよとの。ひょっとして、手紙を見ておらんかったのか?」
「入れ違い……だったのやもしれません」
そこでコーネリアの表情から緩みが消え、瞳に冷酷な怒りの色が灯った。
「時にウロボロス?」
「何でございましょうかコーネリア様」
「徴税じゃと? 落とし前じゃと? お主――我の大事な盟友に何をするつもりじゃったのじゃ? 手紙を見ておらんのはお主の落ち度じゃ。これは……知らぬかったで済まされる問題ではないぞ?」
漫画で表現するのであれば、背景が黒塗りの中に一筋の稲妻が走った感じ。
で、コーネリアの目だけがキラーンと光り、肩をワナワナと震わせる感じだな。
んでもって、ご丁寧にゴゴゴゴゴゴゴッ――っとでも、背景に効果音がつきそうな感じだ。
ともかく恐ろしい形相でコーネリアはウロボロスを睨みつけていた。
「もっ……もっ……申し訳ありませんっ! コーネリア様っ!」
ウロボロスは半泣きの状態で何度も何度も――地面にヘッドバッド状態で、頭を叩きつけながら土下座をしている。
「申し訳ありませんっ! 申し訳ありませんっ! コーネリア様の大事な御仁だとは知るべくもなく――申し訳ありませんでしたっ!」
ゴンゴンと地面に頭を打ち付ける音が響き渡る。
おいおい、そこまでせんでも良いだろう……というくらいの勢いだ。
しかも、半泣きどころか全泣きとなっていて、見ているこっちが気の毒になってくるレベルだ。
そこでコーネリアは何やら考えて口を開いた。
「頭をあげいウロボロス」
その言葉では頭を上げずに、額を地面に擦り付けながらウロボロスは言った。
「……申し訳ありませんでした」
「頭をあげいと言っておる。それに――謝る相手が違うじゃろ?」
ウロボロスは頭を上げる。
そうして跪きながら、涙を浮かべて上目遣いで、俺に向けて慈悲を誘うような視線を送ってきた。
「知らぬこととは言え……誠に申し訳ございませんでした」
次にコーネリアが俺にペコリと頭を下げた。
「部下の不始末は上司の不始末じゃ。指示がうまく伝わっておらんかったようじゃ……言い訳にもなりゃあせんがな。ウロボロスの不始末、我も共に謝罪しよう。誠に……申し訳ない」
そこでマリアが大きく目を見開いて息を呑んだ。
「……コーネリア様が……魔王が……頭を……下げた?」
マリアだけではなく、ウロボロスもポカンとした表情をコーネリアに向ける。
こいつらの反応を察するに、魔王と言う人種は絶対に人に頭を下げないということなのだろう。
いや、まあ魔王なんだからそりゃそうか。
「で、お前様よ? 許してはもらえんか?」
いや、まあ、ここまでされて俺が大人げないことをする訳にもいかない。
「構わないぜ。まあ、確かに小屋を壊すとか畑を潰すとか言われたときは驚いたがな」
俺の言葉でビクっとウロボロスが再び平伏する。
「申し訳ありませんでしたっ!」
「はは、別に嫌味を言ってる訳じゃねえ。まあ、そんだけ謝ってくれたんだし、もう良いよ。頭をあげてくれ」
これ以上に土下座させると、なんだか俺がめっちゃ悪い奴みたいになっちまう。
「しかし、これは困ったのう……」
「困ったとは?」
「お前様は我の大事な大事な盟友じゃ。これから指示徹底の不足みたいなアホなことで、お前様に迷惑をかける訳にもいかんじゃろ?」
「まあ、そりゃあそうだな」
「むー……どうしようかの」
しばしコーネリアは何やら考えて、「うむ」と大きく頷いた。
「ウロボロスよ。我の愛用のステッキ……邪龍杖(ルビ:エビルドラゴンズロッド)をここにもて」
その言葉でウロボロスは呆気にとられ、そして恐る恐る……といった風にコーネリアに尋ねた。
「コーネリア様? まさかアレをするつもりなのでしょうか? それほどまでにこの御仁は……貴方様にとって大事……な?」
「うむ。なんせこやつはカツカレーを作れる人間なのじゃぞ? 我の体の一部と言っても良いほどに貴重な人材じゃ。故に――アレをするだけの価値はある」
「おい、アレって何なんだ?」
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