第12話 ギルド到着早々、厄災を狩ることになりました


「あの……こんな田舎のギルドの金庫にはそんなお金は無くて……今から近くのギルドの支部の数か所に使いを走らせて集めますので、用意できるのは最速で明日というところでしょうか」


「明日の何時くらいになるんだ?」


「午後一番……というところでしょうか」


 まあ、仕方ないな。っていうか、そこは文句を言う方がおかしいだろう。


「分かったよ。おい、ソーニャ? マリア? 今日は泊りだぞ?」


「それじゃあ、みんなで泊まれる部屋にするですー」


「ええ、それがよろしいかと思います」


「……色々と自重してくれよな。お前らうるさいから……」


 宿で苦情が出るレベルだな。

 どうやって最中の声を控えさせようか……と思っていると――


「帰らずの森で……厄災を確認したっ! ギルドマスターを呼んでくれっ!」


 ギルドのドアを破らんかと言う勢いで開いた屈強な冒険者は、青白い顔でそう叫んだ。


「厄災……だとっ!?」


「おいおいマジかよっ!」


「モンスターの名前はっ!?」


 カウンターまで走りながら屈強な冒険者は再度叫んだ。


「エビルサイクロプス……っ! 討伐難易度SSSだっ!」


 その言葉でギルド内はしばしの間――シンと静まり返った。

 そして、女魔術師の小さな悲鳴を皮切りに、ギルド内が騒然とざわめきたった。


「ありえねえだろっ!? ギルドマスターをすっとばして今すぐ国王のところに走れっ!」


「いや、国王でも対処不能だっ! 帝都まで――誰かっ!」


 先ほどまでのアークドラゴンの案件で、青白い表情を作っていた受付嬢の顔色から更に血の気が引いていく。


「あ……あ……あわわ……」


 青色を通り越して土気色に染まった表情で、彼女はギルドマスターの部屋と思わしき事務室の奥へと引っ込んでいった。


「おい、マリア? エビルサイクロプスってのはそんなにヤバいのか?」


「体長五十メートルありますからね。まあ、ヤバいですわ」


 そりゃあヤベえな。

 ほとんど怪獣じゃねえか。

 と、その時、ギルドの冒険者達の視線が、部屋の隅のテーブルで紅茶を飲んでいる五十代の剣士に集まった。


「――冒険王マルクス様っ!」


「Sランクオーバーの世界屈指の冒険者がこんな田舎のギルドにいてくれて助かった! エビルサイクロプスから俺達の街を守ってくれっ!」


 みんなの声を聞いて、マルクスと呼ばれた男は首を左右に振った。


「お前ら、俺に死ねって言うのか?」


「しかし、貴方はかつてエビルサイクロプスを討伐したことが――」


「あの時は仲間がいて安全マージンもとれたが……今の俺はソロだ。ソロで狩るとすれば、アレと俺の力量は互角。勝率は五十パーだ」


「しかし……っ!」


 そうして、ニヤリとマルクスは笑った。


「――俺と一緒にエビルサイクロプスの討伐をするような根性のある奴がいるなら……考えてやっても良い」


「いや、でも……」


「テメエの命を張る度胸もねえのに他人に命を張らせようとするなよな。俺だって命は惜しい。まあ、俺と同レベルの力量を持つ奴と組ませてもらえるなら……話は別だがな」


「しかし、貴方様と同レベル以上など……」


 と、そこでマリアはマルクスの所に歩を進めて――


「ご無沙汰しております」


「お前……マリアか? 魔界はどうなったんだ?」


「まあ、色々とございましたよ」


 感慨深い様子で、マリアは軽く頷いた。


「ここで再会できたのも何かの縁です。私も討伐にご一緒いたしましょう」


「いや、俺と同レベルの力量のお前が来るってんならやぶさかではないが……だが、二人でやっても……こちらに被害は出る可能性が……」


 そこでマリアはソーニャに視線を送った。


「手乗りウサギの女王です。アレも――ご一緒させます」


「手乗りウサギって……マジ……かよ? いや。でも……それなら……っ!」


 そうしてマルクスはヤリと笑った。


「報酬はキッチり三等分で行くぞっ!」


「はいなのですー」



 すげえ。

 ビックリするくらいに俺が蚊帳の外だ。

 と、まあ、そんなこんなで――


 ――ギルドにアリサのボッタクリ確認をしにきただけなのに……どうやらとんでもないことになったようだ。

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