第5話 手乗りウサギという種族 その1

 あれから三日が経った。

 で、俺は昨日からニンニクを栽培している。

 ん? どうしてニンニクかって?


 ――体が持たんからだ。


 とにかく、ウサギさんは絶倫だった。

 おやすみとおはようのキスは可愛いんだが……それ以外が悪魔的だ。

 まあ、ニンニクを喰ったところでどうこうできる問題でもないんだが、気休め程度の効果はあるだろう。

 それはそうと、種創造の使い方が分かってきた。

 ニンジンで分かったんだが、甘さ控えめとか繊維質多めとか、歯ごたえガッツリとか、そういう風にカスタマイズできるんだな。


 一応、女の人がいるのでニンニクは臭い控えめにしておいた。

 そうして今日の晩飯はイノシシ肉とニンジンとモヤシ炒めの予定なんだが……。


 遂に、塩コショウが尽きた。

 焼肉のタレに至ってはソーニャが来る前に、ヘビとか食ってる時代で既に尽きている。


 流石に味付け無しでは……味気が無さ過ぎて不味いんだよな。

 っていうか、手乗りウサギ達が狩猟してくるイノシシはめっちゃ美味いんだよな。

 そこらのブランド豚なんて目じゃないレベルだ。

 それだけに、味付けがないというのはメッチャ残念な気持ちになる。

 焼肉のタレで食べることができたら美味いんだろうなー。

 ああ、考えただけでヨダレが出てくる。

 倉庫の食材を見渡しながら、どうするか……と溜息をついた。


「……日本から調味料を取り寄せできればな……」



【スキル:異次元物流レベル10が発動しました】



 できるんかいっ!

 文字化けスキルって本当にチートっぽいのばっかりだな、オイ。

 と、謎の発光現象と共に倉庫に神棚とお賽銭箱が出てきた。


「これは一体? ってか、何故に和風チックな神棚が……?」


『ワシは豊穣――農作物栽培の神だ』


 頭の中に声が響いた。


「え……?」


『農業を極めしお前であるからワシと対話することができるのだぞ? これも縁だ。お前の農業ライフをより――幸多きものとしてやろう』


 すげえ。

 マジで意味わかんねえ。

 どうして物流のスキルで豊穣の神が出てくるんだ?


『その疑問は当然のことだな』


 心を読んだ? 神様ってのは伊達じゃねえってことか。


『だが、神としては最高品質の農作物が栽培される――ただそれだけで利があるのだ。そうであればお前により良き生活を営んでもらいたいと思うのも当然のことだ。農業辞められても困るからの』


 なんだか分からんが、俺の野菜ってそこまでヤバいのか。


「とりあえず、調味料が欲しいんだが」


『うむ。農作物を美味しく食べると言う範囲であれば、ワシの管轄内だ。元のお前がいた世界から取り寄せても構わん』


 おお、マジで異次元物流ってのはチートスキルみたいだな。


「で、どうすれば取り寄せてくれるんだ?」


『少し待っておれ……フンっ!』


 ……結婚式とかで貰うギフトカタログってあるよな?

 今、俺の前にそれが出た。


『カタログを開いてみろ』


 俺はカタログのページを開いてみた。

 そうして、調味料の項目の焼肉のタレを見てみる。


 ――お値段:二百七十八円と書かれている。


「金取るのかよっ!」


『そのための賽銭箱だ。最近では豊穣の神を祭る農家が……少なくなっての。ワシも金欠だ』


「まあ、神様も切実なんだな」


 で、よく見るとカタログの表紙の右下の部分には、残金〇円とかデジタルで表示されている。


『この世界の通貨を賽銭箱に放り込めば、日本円に自動的に換金してやろう』


 つっても、俺は金持ってないし。

 さて、どうしようと思いながら俺は母屋に向かった。



「ソーニャ? お前ってお金持ってる?」


 倉庫から出た俺は小屋の中でくつろいでいたソーニャに声をかけた。

 っていうかこいつは基本は働かない。仕事は全て手乗りウサギに押し付けるスタイルで、まさしく女王にふさわしい。


「はいです? 私達には交易や売買の文化はないですけど……人間の冒険者の死体からはぎ取った金貨袋ならいくつか持ってるですよ。キラキラしてて、とーっても綺麗だったですよ♪」


 ソーニャは自分の荷物の中から、大きな袋を取り出してこちらに手渡してきた。

 見ると、金貨がズッシリと百枚以上詰まっていて、力を物凄く入れないともっていられないレベルだった。


「ふふっ。ニンジン一本で手を打ちますですよ」


「お前の金銭感覚ってものスゲエんだな」


 まあ、森に住むウサギ族にとっては金貨なんて無価値なんだろうけどさ。



 そうして俺は倉庫に戻り、金貨を一枚取り出して、先ほどのお賽銭箱に放り投げた。

 もちろん、手を合わせてお辞儀することも忘れない。

 そしてカタログの表紙のデジタル表記を見ると、残金が一円になっていた。


「ボッタクリじゃねーのコレっ!?」


 良くわからんけど金貨って日本で換金したら数万円とかのシロモノなんじゃねーのか?


『仕様だ』


「いや、仕様って言われても……」


『だから言っておろう――ワシは金欠じゃ。商売の神とか安産祈願の神とか――奴らがうらやましくてたまらんわっ!』


 まあ、あの辺りの神様は祈祷代やらお賽銭で万札すら飛び交ってるもんな。


「でも、さすがにちょっとやりすぎなんじゃね?」


『せっかく見つけたカモで――稼がんとどうするというのだっ!』


「カモだったの俺っ!?」


『もっともらしい理屈で協力してやると言ったが、本命は賽銭目当てだ』


「せめてオブラートに包んで発言しようぜっ!?」


 どうやらこいつ銭ゲバみたいだな。

 まあ、ともかく調味料を輸送してくれるってのは値千金の神スキルだ。

 現代の常識で考えるとボッタクリ価格でも、その有用性を考えると異世界では適正価格ではあるんだろうな。


『それでは今後ともよろしく頼むぞ』


「はいはい分かりましたよ」


 とりあえず、ソーニャからニンジン一本で買い取った金貨三百二十五枚を入金して、残金は三百二十五円となった。

 そうして俺は――


「念願の焼肉のタレを手に入れたぞーーーっ!』 


 ちなみに、煙が急に目の前に沸いて……煙が晴れたら焼肉のタレが目の前にあった感じだ。

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