第2話 いきなりチートスキル発動しました

 

・農家の文字化けスキル



 さて、大森林である。

 見渡す限りの大森林……っていうか、山々が見えるので山岳地帯か何かか?

 そんな訳の分からないところで、俺は一人ポツンと佇んでいた。

 ほとんど遭難状態っていうか魔物も出るらしいし、遭難よりも明らかにヤバい。


「まずは装備の確認……だな」 


 寝袋

 水筒

 ペットボトル

 ナイフ

 ライター

 片手鍋

 皿

 塩コショウ

 パン

 チョコレート

 レトルトカレー(固形ルー)


 主だったところはこんなもんか。

 とりあえず、山歩きを終えての家への帰りの装備そのままだ。

 食料は一日分ももたないが、何よりも水がヤバい。

 都合千五百ミリリットルだが、これから歩き回るだろうことを想定すると一日持たないだろう。


 ――水も無ければ飯もない。オマケに多分、魔物の危険までも心配しなければいけない。


 王様曰く、地図無しで人里は行ける距離ではないとのことで、その場所も方向も分からない。

 方向すらも分からない状態で闇雲に歩いても、すぐに水分と食糧不足で死んでしまうのは間違いない。

 とりあえずはこの近辺でサバイバル生活をしながら、少しずつ周辺地理の把握をしていかないといけないだろう。

 そうして俺は深いため息をついた。



 ☆★☆★☆★



 当面の優先順位としては


1 水の確保

2 住居の確保

3 食い物の確保


 以上となる。


 飯は一週間程度なら食わなくても死にはしないが、水は二~三日でアウトだ。

 で、住居の確保は既に終了している。

 と、いうのも置き去りにされた場所から少し歩いたところに洞窟があったんだよな。


 高さは二メートルほどで奥行きは七メートル程度。

 洞窟内を見渡して、とりあえずの寝床にしようと決めた俺は、まずは枯れ木と草をかき集めた。

 次に洞窟の中で枯草と枯れ枝を燃やした。

 これは先住の虫や小動物を燻りだすためで、これをやっていないと夜は虫が気になって眠れたもんじゃないだろう。


「さて、あとは水だな……」


 洞窟を発見する前にこの辺りを散策した時、川を確認している。

 とはいえ、若干濁っている水質で……そのまま飲んだらアウト臭い小汚い川だったんだよな。

 ろ過した上で沸騰消毒は必須だとは思うんだけど、俺はろ過の方法は知らないんだ。


「はたして飲めるのかこれは……」


 先ほどペットボトルに並々と汲んでおいた泥水を眺めながら、俺は小首を傾げる。

 とりあえず、しばらく置いておいて、不純物が重力に従ってペットボトルの底に沈殿するのを待つしかないんだろうが……。


「こういう時にネットが使えればな……」



【スキル:ネット検索レベル10が発動します】



「使えるんかいっ!」


 文字化けスキルの内の一つはこれだったみたいだな。


【なお、スキルレベルは5がマックスで、10は限界突破レベルとなります】


 俺はリュックサックから携帯を取り出して電源を入れてみる。


「スゲエ……電池残量∞ってなってる……。電波も良好みたいだ」


 スキルレベル10は限界突破だって神の声も言ってたし、まあ……チートってことなんだろう。

 とりあえず、これはありがたい。

 そうして俺はペットボトルを利用したろ過の方法を検索した。

 ハンカチかタオルがあれば、後は自然にある砂利とか土でどうにでもなりそうな感じで、実際にやってみたら奇麗な水が取れた。

 そうして、その水を片手鍋で沸かして飲んでみた。

 水は美味しかったし、その後に腹も痛くならなかった。


「やっぱりネット検索システムは最強だな」


 こうして俺は、とりあえずの水問題と住居地問題をクリアーしたのだった。



 ☆★☆★☆★



 さて、後は食料である。

 とりあえずは木の実の採取や動物を狩猟したり……なんだろうな。

 と、洞窟から抜け出て森に何か食えるものがないかと俺が散策をしていた時――。


「死体……か」


 森の中で白骨死体を見つけてしまった。

 正直、気分の良いものではないが、一応拝んでおく。


「しかし、どうして農具を?」


 近くを見ると、朽ちた小屋もあって荒れ果てた畑のようなものもある。

 どうやらこの人はこの近辺で農業なりをやっていた人なんだろう。

 で、農作業中に病気か何かでこの人は倒れたらしく、死体の傍らには錆びたクワがあった。


「いや、明日は我が身だよな」


 異世界っていうくらいだから魔物もいるだろうし、餓死の危険もある。

 朽ちた小屋を見ても、食料の備蓄はないようだ。で、使えそうな物資も食器類程度しか見当たらなかった。

 うーん……荒れた畑を耕しなおして作物を作れたりすると良いんだろうけど……。

 畑は雑草だらけで、耕したとしても種もない。


【スキル:種創造レベル10が発動しました。この場合は最速でモヤシと判断しました】


 どういうこっちゃ?

 ……あ、モヤシの種っぽいのが出てきた。

 掌が光り輝いたと思ったら、気が付けば俺は大量のモヤシの種っぽいのを持っていた訳だ。

 どういう理屈か分からんし、ある意味怖い。とりあえず、これも俺が貰ったチートスキルってことか?

 えーっと……モヤシってのは日光当てずに作るんだよな。

 薄暗いところに置いとけば一週間くらいでプランターでできるって聞いたことがある。

 まあ、すぐにできる野菜の種であれば、僥倖だと思ってこの状況を受け入れよう。

 そして俺は落ちていたクワを持ってみると――。


【スキル:農具取扱レベル10が発動しました】


「おおっ! 物凄いサクサク行くぞっ!」


 どうやらこれもチートスキルらしい。

 羽でも振り回しているかのように重さを感じない。

 瞬く間に俺は周囲を耕して、モヤシの種を撒いていく。で、最後に小屋にあった木材を組み立てて日陰にしておいた。

 そうして最後に神の声が聞こえた。


【スキル:農作物栽レベル10が発動しました】


 ん? なんだこのスキルは?

 作物の成長が早くなるとかそういうことか?

 が、そんな疑問には神の声は反応してくれない。


「……ってか、モヤシだけじゃ芸がないな」


 モヤシの次は、栄養素の中で一番大事な糖分……っていうか炭水化物だな。

 短期間で育てることのできる炭水化物を多量に含んだ野菜と言えば、根野菜だ。

 意外に思うかもしれないが、レンコンやニンジンってのは糖分っていうか、炭水化物がたくさん含まれているんだな。

 とりあえず、米や小麦の穀物類の代用として問題なく使えるのは間違いないだろう。


【スキル:種創造レベル10が発動しました】


「よしよし、ニンジンの種っぽいのが出てきた」


 小麦や米も将来的には栽培していきたいが、それはちょっと時間がかかりそうなので一旦保留だ。

 と、そんなことを考えていると、俺の背中に冷や汗が流れた。


「あ……ヤバい」


 と、いうのも本当にヤバいモノが樹木の陰に見えたのだ。

 そう、俺の前方三十メートルほど先に見えるのは――巨大な狼だ。

 シベリアンハスキーを五倍くらいにデカくした感じの狼で、シルバーファングとかいう名前が似合いそうな見た目だな。

 っていうか、どう見ても魔物だろ……魔除けの効果はもう切れたのか?

 おいおいどうすんだよこれ。


 とりあえず俺がクワを構えた時――


 ――目が合った。


 動物園の虎とかよりもデカいのと、鉄格子無しで目があったのだ。

 当然、俺の心臓は止まりそうになる。

 背中から冷や汗がドバっとでてきて、腰が抜けてしまいそうになる。

 しばらくのお見合いの後、狼はヨダレをボトボトと垂らしながらこちらに駆け出して来た。


「うわァっ! 来るなっ! こっち来るなっ!」


 俺は威嚇のためにやたらめったにクワを振り回す。

 が、巨大狼にそんな威嚇は通用せずに大口が俺の眼前に迫ってくる。


【スキル:農具取扱レベル10が発動しました】


 ん? スキル発動?

 ヒュインっ!

 風斬り音と共に狼の脳天にクワが突き刺さった。

 と、同時に心臓から熱い何か――直観的にそれは魔力的な何かだと分かったが――が、クワ……そして狼の体内に向けて流れていくのが分かる。


 ――ちゅどーん。


 爆発音が鳴った。

 狼の体内で魔法攻撃的な何かが炸裂したということだろう。


「農具取り扱いってレベルじゃねーぞ……」


 爆裂四散した狼の肉片が周囲に飛び散っていく。

 炭化した肉片を眺めながら、しばし俺はその場で茫然とした。

 そうしてしばらく経って、俺は魔物の肉とかも食えるんじゃないかと思い至った。

 が、狼の肉片を拾ってみると、完全に炭化していて、とても食えたもんじゃない。


「とりあえず、魔物系で食料を得るのは難しそうだな」


 と、俺は深いため息をついたのだった。

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