ゆるふわ農家の文字化けスキル ~異世界で、ネット通販やってます~

白石新

頭を一ミリも使わないゆるゆるスローライフ爆誕!

第1話 勇者一行に置き去りにされました

 

・プロローグ ~異世界転移で農家召喚~



 俺の名前は平山達也二十九歳。ブラック企業に勤めるアラサーだ。

 で……どうやら俺は異世界転移という奴に巻き込まれたらしい。

 休みの日に趣味の山登りに行ったんだ。そして、帰りに街中を歩いていると突然地面に魔方陣が浮かび上がって、気が付けば――


「おお、よくぞ現れた伝説の勇者よ」


 お決まりのセリフと共に、気が付けば俺は玉座の間の王様の前にいた訳だ。

 毛の長いフカフカの赤絨毯に豪華な調度品が所狭しと並んでいて、甲冑を着込んだ兵士が壁際に何人も控えている。

 そして、周囲を見渡せば茶髪やら金髪の……高校生の不良グループっぽいブレザーを着崩したガラの悪い男女もいた。

 まあ、こいつらも俺と同じ境遇なんだろう。


「ここはどこなんだ?」


 不良グループのリーダーっぽい歯抜けの金髪が王様に尋ねる。


「ここはアイリス王国――我は王じゃ。実はこの世界は危機に瀕しておってな」


 王様が言うには、この異世界では百年に一度魔物が氾濫するらしい。

 で、その度に国や町は蹂躙されて扉の近隣は壊滅的な打撃を受けるらしい。

 氾濫する魔物は非常に強力とのことだ。

 この世界の騎士団やら冒険者ギルドやらの防衛手段では到底間に合わず、勇者召喚という手段で対抗するのが常だそうだ。

 地球からやってきた勇者は超強力なスキルの数々を所持していて、それはもうとんでもない力を発揮すると言う。


「これがスキルプレートじゃ。お主らが現在所持しておるスキルが書かれておる」


 王様から白銀に輝く縦五センチ×横十センチほどの板を貰う。

 俺と、そして不良グループの男女五名分で都合六枚だ。


「おおっ! 何か良くわからんが勇者の雷撃とか書いてるぞっ!」


 リーダーと思わしき金髪歯抜けが嬉しそうに叫んだ。


「ふむ。お主が……伝説の勇者のようじゃの。攻撃の全てに勇者の力である雷神の力が宿るチートスキルじゃ」


「俺は賢者の悟りって書いてあるぞっ!」


 今度は茶髪の長髪がそう叫んだ。


「攻撃魔法も回復魔法も最初から中級魔法までを使いこなせるスキルじゃ。訓練を積めば現存する全ての魔法……いや、オリジナルの極大魔法までを扱うことができるのじゃ」


「私は聖女の福音って書いてるっ!」


「俺は武神の拳って書いてるぜっ!」


 とりあえず、みんな本当にチート臭いスキルを口々にしている。

 で、俺のスキルプレートは……おいおいマジかよ。


「おい、そこのリュックサック背負ってるオッサン? オッサンのスキルプレートには何て書いてあるんだ?」


 オッサンって……何なんだよこの金髪歯抜けは。俺はお前よりも十歳は年上だぞ。

 と、そこで一同の視線が俺に集まってきた。


「ああ、俺のスキルは――農作物栽培って書いてるな」


 そうして、一同がフリーズした。


「……え? もう一回言ってもらっても良い?」


「俺のスキルは農作物栽培だ。他にも農具取扱とか書いている」


「……え?」


 一同のフリーズが続く。

 いや、そんな反応されても、農業系のスキルしか書いてないもんよ。

 他のスキルは【壹、縺包ヲ羅ィ縺縺縺ェ皀筌】とかで文字化けしてるし。

 そうして、しばしのフリーズの後――


「ふっははっ……ハハハハハハハっ! おいおいこのオッサン闘う為に異世界に呼ばれたのに職業が農家かよっ! ヤベエっ! マジでウケるっ!」


「ひゃっふっ……うはははははっ! おいおいマジかよっ!? 勇者召喚じゃなくて農家召喚ってっか? とんでもねえオチだな」


「マジでウケるんだけどーっ! 闘う農家って……はははっ!」


 不良グループ達は俺を指さしながら、晒し者のように笑った。

 本当にガラも頭も悪い奴らだな。

 初対面の年上にする態度じゃねえだろ。

 と、そこでコホンと王様は咳ばらいをした。


「それでは、これからお主達には帝都に向かってもらう。そこで訓練を受け、次元の歪による魔物の大反乱に備えるのじゃ」





 ――翌日の夜。


 俺達は大森林で野営していた。

 帝都までは大森林をまっすぐ歩いて一日半とのことだ。

 方角については魔法の方位磁石を貰っていて、それの指し示す通りに歩いていけば良いと言う話だ。

 で、この森は実はダンジョンの一種で、超強力なモンスターの巣窟という話だ。

 帰らずの森とか呼ばれているヤバい場所らしいな。

 それで今、俺たちが普通に歩くことができているのは王国を出る前に、高名な聖職者が魔除けを施してくれたおかげだ。

 曰く、四十八時間はこちらから刺激しない限りは魔物と遭遇することはないって話だ。

 そんでもって、農業スキルしかもっていない俺はどうにも勇者様ご一行には嫌われたみたいで、誰も口をきいてくれない状態となっている。

 仕方がないから連中が野営している場所から、少しだけ離れたところで寝袋にくるまって……その日は眠りについた。



 ☆★☆★☆★



「オッサンは寝たようだな」


 歯抜けの少年が達也の様子を伺いながらそう言った。


「で、どうするのよ宮本? 支度金は一人金貨百枚って話でしょ?」


 金髪ミニスカ―トの少女がうんざりと肩をすくめる。


「ああ、役立たずのオッサンにどうして金を公平に分配しなきゃいけねえんだって話だし、訓練を終えてから俺達は勇者の装備を探さなければいけないって話だ」


「うん。転移者だったら誰でも装備できるって話だよね」


「とんでもない性能の装備揃いで、戦闘での生存率は跳ね上がるって話だよな。装備を発見すれば、ある程度はオッサンにも公平に分配もしなきゃいけねーだろう」


 そうして金髪ミニスカートの少女は寝ている達也の様子を伺いながら、ひそひそと声を小さくした。


「……オッサンって邪魔じゃね? 今までの転移者の中には死んだ人もたくさんいるって話だよね?」


「ああ」と金髪歯抜けは頷いた。


「これはゲームじゃねえ。生き死にはリアルみたいだ。そして、俺らは友達だから公平に色んなものを分配するのは当たり前だ。でも、オッサンは違う」


「しかも農家で役立たずだしね」


 良し……と、金髪歯抜けは頷いた。


「みんな――オッサンが寝ている間にここを離れるぞ?」


 と、そこで肩までの黒髪の少女が呟いた。


「いや、でも……そんなの……」


「お? どうしたんだよマユ?」


「ここって超高レベルの魔物の巣窟で、魔除けの効果も四十八時間なんでしょ? 方位磁石も一個しかないし、魔物に襲われなかったとしても……迷って野垂れ死にするのは確定だし……」


 金髪歯抜けはその言葉で「ハァ?」と呆けた表情を作った。


「だったらオッサンを連れてくのか? 俺達の物資をオッサンに恵んでやるのか? 俺達の生存率を下げてまで? そんなの冗談にしても笑えねえぞ?」


「いや、それはそうなんだけどさ……」


「だろ? さすがの俺でも邪魔だからって直接に殺っちまうのは後味が悪い。だから……置き去りだ」


「直に殺すのと……変わらないじゃん」


「そもそもあのオッサン……勇者じゃなくて農家だろ? 俺等とは違う人種のクソゴミなんだよ」


 その言葉で黒髪の少女は何かを考えて、そして達也の寝袋の方角に視線を向ける。


「……ごめんね……おじさん」


 そうして金髪の歯抜けは満足そうに頷いた。


「良し、水も食料も全て引き上げて……移動するぞ。オッサンに残しても仕方のないものだろうしな」



 ☆★☆★☆★



 翌朝。

 朝日と共に目を覚ました俺は絶句した。


「あいつら……やりやがった」


 高校生達が野営していた場所は引き払われていて、王様が用意してくれた水も食料も金も……全て消えていたのだ。

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