第24話 未来と過去
「どの口が……っ!」
かなたの周囲がバチバチと弾け、緑色の火花が散る。
イリスもイリスで、片手で槍を掴む。
なにも持っていなかったはずなのに一瞬で取り出し、
手の平に収めたのは魔法少女の力なのだろう。
空が曇る。
暗雲が真上にあった。
ぱらぱらと雨が降り始め、バリバリと暗雲の中で雷の音。
次第に強くなる雨と雷が、二人の感情をよく表している。
見なくとも二人の雰囲気で分かってしまうが、
これはこれで分かりやすい目安だ。
「俺たちがいるのに喧嘩するつもりか?」
そう水を差すと、二人から睨まれる。
が、このまま戦いが起これば本当に俺たちはひとたまりもない。
百歩譲って精神体ならまだしもだ。
ダメージによる廃人化を二人が止めてくれればいいが……、
俺とせいはにはそれができない。
ここで怪我をしたら、それを表まで持ち帰ることになる。
「なんだか……俺を守ってくれてるようだけど、ここで戦えば俺を巻き込む可能性もあるだろ。
そうなったら本末転倒なんじゃないか……?」
『それは……』
「喧嘩をさせるためにステイシアに呼んでもらったわけじゃないんだよ。喧嘩が悪いってわけじゃない。好きにやったらいいよ。一方的じゃないなら衝突は仕方ない。
でも、理由がな……。
お前らはちゃんとお互いに話し合ったのか? 勝手に決めつけて相手のことも理由も知ろうとしないで、ただ相手を排除しようとするのは、違うだろ」
「兄さんの言う通り、話し合ったわけじゃないけど……」
「せんぱいが知らないだけで、わたしたちには根拠があります。
話し合いなんて必要ないんですよっ」
ステイシアが言った、魔法少女が得られる報酬。
未来視……か。
かなたは過去を知り、イリスは未来を見ている。
結局、二人とも見ている地点は同じなんだろう。
「じゃあ、話し合いは別にいいよ。ただ、こうやって俺を巻き込むならちゃんと説明してくれないと俺はどっちにつけばいいのか分からないよ」
『せんぱい(兄さん)はこっちっ!!』
「だから、同時に言うな!」
傍で見ていたステイシアが溜息を吐いた。
平行線がこのまま続くと思われたが、
「……分かった」
先に折れたのはかなただった。
未来からきた分、イリスよりも妥協する余裕がある。
「ちゃんと話すよ」
かなたの譲歩に俺も頷き、腕を組んでいるイリスを見下ろす。
「イリスもいいか?」
「…………せんぱいがそう言うなら……あと、この腕は離しませんよ?」
バチっ、と火花が小さく爆ぜた。
「……かなた?」
「ううん、なんでもないよ、兄さん」
今にも嵐が起きそうな暗雲が消え、晴天が顔を出す。
しかし、暗雲をどかしたということは、すぐに戻すこともできるのだ。
一触即発なのは変わりない。
「お前が未来のかなたなのはもう分かってる」
「……さすが兄さん」
「気付いたのはせいはだけどな」
「そっか……。でも、もぐら兄さんもいずれ気付いてたと思う」
時間が経てばそりゃあな。
せいははその時間を一気に飛ばして答えを閃くことがある。
重要なことは特にだ。
普段はそんな閃きなんか一切見せないくせに。
「未来から、ね……」
とイリス。
「いま知ったみたいに。白々しい……」
かなたはそれだけを声に出して感情を押さえた。
「あ、イリスが未来視を持ってることも知ってるぞ。ステイシアから聞いた」
「え!?」
「そんなに驚くことか? 魔法少女として戦ってるなら、もらってもいいと思うけどな。
まさかと思うがそれでテストの時にカンニングなんてしていないだろうな?
その程度なら可愛いもんだけどさ」
「可愛い……? いや、じゃなくて、です! ……わたしのこと、避けませんよね?」
「? 避けないよ。実際、避けてないだろ? なんでそんなことを……――あー、未来視で他人のプライベートを覗いたことがあるとか? 確かにそれを聞いたらイリスのことを避けようとするのも分かるけど……俺は別に、かなあ」
見られても困らないし。
それに、悪いことばかりでもない。
「未来が見えるかどうかでイリスを嫌いになったりしないよ」
「えへへ……」
いつもの癖で頭を撫でると、まるでそれがスイッチの代わりのように、火花が爆ぜた。
「――それで、兄さん。イチャチャを見せつけるために仲裁したの?」
「違うわ! あとお前のそれ、火花を出すのやめろ、びっくりするから!」
「しーらない」
大人になったなと思ったが(実際、未来からきたのなら少なくとも今よりは大人だ)、
こういう態度は子供っぽい。
すぐに技をかけてこないあたりは成長したと言えるが。
……さて。
「じゃあ、かなた。教えてくれ。
未来でなにがあった? 俺の身になにが起きた?」
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