第23話 なにが起こる?
「は…………? なんで……?」
そんなこと、俺が聞きたいくらいだ。
「なんでって言われてもな……昨日の……昨日だけじゃないのか、二人の喧嘩を見ていたなら、お前は驚くことはないと思っていたけど」
「だってっ、あり得ないっ! 忘れたのか!? 魔法少女だって例外じゃない、表での争いごとの一つだって起こらないように、アタシが世界を変えたんだぞ!?」
……そうだった。
神(ステイシア)が決めたルール。
そのルールから外れている例外は、
今は表も裏もない(と言われている)俺とせいはしかいない。
しかし、かなたには表と裏がある。
なのに、どうしてイリスを傷つけようとした……?
思うことはあれど、行動なんてできないはずなのに、だ。
「単純に、かなたはおれたちとは違うんだよ、兄ちゃん」
なにか知っている口ぶりでせいはが言う。
「そりゃ、違うだろうけど……」
「魔法少女だからじゃないぞ。表でも裏でもなくて。ステイシアが決めたルールに縛られないなら、神酒下を傷つけることもできるんじゃないかって思う」
今のステイシアに縛られない……?
神が相手なんだぞ?
そんなやつが、いるのか……?
俺たちはあくまでもルールに則った上で、例外だ。
他のみんなと変わらず、表と裏の人格があれば敷かれたレールに乗るだろう。
だけどかなたは違うようだ。
ルールの範囲内にいながら、影響を受けず、独自に動くことができる存在――。
あれ?
ふと、思った。
いくら神でも、その力が効力を持つのは現在までだ。
神としてまだ未熟なステイシアには、明日のことを推測できても決定はできない。
「……『今』?」
「兄ちゃんも気付いてたか。
さっきのかなたは多分、『未来』のかなたなんだよ」
……未来、の。
かなた……妹?
だけど見た目は変わらない、十三歳だ……いや、成長していないからって否定するのは早計だろうし、肉体を基準にしてしまうと見落としが多くなる。
魔法少女は魔法を使うために、未来の力を引っ張ってきているとステイシアは言った。
その時に未来のかなたの人格を一緒に引っ張ってきてしまっていてもおかしくはない。
……これはあくまでも予測。
もしもその通りなら、なぜステイシアが気付かなかったのか、疑問が残る。
「……そんなの、わからないよ……未来なんだから成長してるとは言っても、基本的に悪感情を押し込まれた裏の人格なら、違いなんてわからない。だって、どっちもかなたなんだからっ!」
確かに未来と言うとイメージするのは数年、数十年後だ。
せいはが言う未来のかなたが何年後なのか明確に分からない以上は、たった数ヶ月先の人格である可能性もある。
数日後かもしれない。
肉体的な成長が見えないとなると、見破るのは難しいだろう。
それに、未来のかなた自身が身を隠したなら、未来の人格が今のかなたに入っているなんて思いもしなかったステイシアに、見破れるわけがない。
「未来のかなたが表の人格を乗っ取っている……いや、それ以前に今のかなたの裏の人格を乗っ取っていた……だから順序で言うと逆か。裏の人格を乗っ取った未来のかなたが、次に表のかなたの人格を侵食し始めた……」
今のかなたを塗り潰して自分色に染めるように、
未来のかなたがこの時代での居場所を構築しようとしていると考えればいいのか?
――未来、か。
俺たちにはまだ先のことは分からないが、未来のかなたにとっては違う。
今の時代もかなたにとっては過去になる。
つまり自分と身の回りについては知っているのだろう。
未来人からすれば今を乗っ取り、
やり直したいと思うのはおかしなことではない気がする……。
それがなぜ、イリスを刺すことに繋がるのか分からないが……。
未来でイリスがなにかをした、と考えればいいんだろうけど――。
だとしても刺すことはないだろう……。
しかし、警告をするにしても未来のことを教えるわけにはいかない、というのはなんとなく、事情を知らない俺でも分かる。
タイムパラドックス、だっけ?
……そのせいでかなたは、イリスを物理的に奪うという手段を取らざるを得なかった。
他にやりようはなかったのか?
かなたのやり方はイリスを殺す勢いだった。
包丁を持っておいて殺す気がなかったとはとても言えないが、刃物でなければ殺さないまでも気絶に追い込むことができたはず……、
それでは意味がないとしたら。
短期的ではなく長期的に意識を奪う必要があったとすれば……。
望むのは表のステイシアのような、意識不明の状態。
これが最善だと未来のかなたが考えたのだとすれば、だ。
「かなたとイリスはこっちだと喧嘩ばっかりなのか? いつから?」
「顔を合わせた時は、二人とも仲は良かったはず……だけど、
アタシが気付いた時には、顔を合わせたら喧嘩するようになってたな……」
「そうか……、だからか……かなたにとって、表のイリスを始末しようとしたのは苦肉の策だったわけだ。あいつだってイリスを殺せば、自分がどうなるか分からないわけじゃない。イリスの意識を奪った上で立ち回るのが一番いい。
だけどそうもいかなくなった。裏面でイリスを傷つけることで、表のイリスの精神を壊そうと企んでいたんだ。寝たきりのステイシアのようにするために――」
ステイシアの場合はいじめという精神的なものだけど、裏面の精神体がダメージを負えばそのまま表の心にダメージが通る。
それを利用としたのだろう。
この方法なら、かなたは警察に捕まることもなく、加害者として疑われることもなく、表面で普通にかなたとして生活できる……。
しかしその予定は裏面のイリスの強さによって阻まれた。
だから苦肉の策。
たとえ表面での生活が絶望的になろうとも、せめてイリスの排除だけは望んだ。
……答え合わせは、かなたに聞かないと分からないが――、
これらを踏まえた上で。
なんで?
イリスがなにをした?
いや、イリスがこれからなにをする?
こればっかりは、俺たち三人で考えていても埒が明かない。
「……ステイシア、二人を呼んできてほしい」
「あの二人をいっぺんに……? 大丈夫かな……」
「喧嘩するなら、させないように奪えばいいよ。
魔法少女の力を取り上げることはできないのか?
そういう安全装置くらいは用意してるだろ?
全面的に信用していても、していなくても、つけておくべきものだし」
「まあ、できる、けど……理屈としてはな。未来から引っ張ってきた力を元の時代に返せばいい……はず。ただ、借りているだけで返す必要があるから、利子はなくても借りた分をいっきに返すにはいまの二人の力じゃ足りないと思う……。
最悪、存在そのものが消える危険性もある……分割して返せば問題はないけど、そうなると魔法少女の力を完全にいま奪うことは難しいと思う」
「それでいいよ。なにもしないよりはマシだ」
ステイシアが頷き、二人を呼びに屋上から飛び去った。
「そいつから離れてっ、兄さん!!」
ステイシアに連れられ、俺とせいはがいる学校の屋上へ合流したイリスとかなた。
正確に言うなら、イリスと未来のかなただ。
合流した途端、かなたが叫んだセリフがこれだった。
かなたが言う「そいつ」とは、もちろんイリスのことだ。
「離れてって言われても……がっしりとイリスに掴まれてるからなあ」
腕を組まれている。
男の俺でも力尽くでは解けない力だった。
相手はイリスだけど、魔法少女だから仕方ないが……。
「そいつは兄さんにとって危険なんだからっっ!」
すると、かなたが俺のことをイリスから遠ざけようと引っ張った。
「そっちだって……そんなこと言いながら、せんぱいに近づこうとしてるよね……!
せんぱいには近づけさせない……っ。奪わせて、たまるもんかっ」
……妙だ。
二人の意見は対立しているように見えて、実際は同じなんじゃないか?
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