3章 魔法少女vs魔法少女(救済こそ火種)
第16話 かなたとこなた
「なんだこれっ、まッず!!」
せいはが遠慮なく言った。
こなたも顔をしかめ、かなたもお茶で流し込む。
失敗のしようがないカレーだが、食卓を囲む三人の言う通り、俺の舌も受け付けない。
はっきり言って、不味い。
米はべちゃべちゃでルーの味も水っぽくて薄い。
というかもうほぼ色がついた水だ。
野菜は火が通っておらず、肉は生のものもある……、
腹を壊しそうな要素がてんこ盛りだ。
「かなた? 調子が悪いのか?」
「え、そんなことはないけど……いつも通りに作ったはずなんだけどなー」
今日の夕飯の当番はかなただ。
かなたの味覚がおかしいのかと思ったが、あいつもあいつで、食べてまずそうな顔をしていたし……味が分からないわけではなさそうだ。
味見をしなかったのは作り慣れているからこそなのだろうが、
それで失敗していたら本末転倒だろう。
「こんなの食えたもんじゃねえよっ、作り直せって!」
「……む。はっ、偉そうにさー。一回も作ったことがないくせに」
空腹でイライラしているせいはが、かなたに噛みついた。
気持ちは分からないでもないが……、
空腹なのに、さらに怒って労力を使ったらさらにお腹が空くだろう。
すると、全員の腹の虫が鳴いた……。
「……仕方ない、余った食材でとにかく食べられるものを作ろう」
キッチンに立つと、かなたが隣に並んだ。
「ごめんなさい……本当に、いつも通りに作っただけで……」
「いいよ別に。作り始めたばかりの頃はお互いこんなもんだったしな。
慣れた今でも失敗することくらいあるだろう」
冷蔵庫の中から使えそうな食材を取り出し……、季節はずれだけど鍋にでもするか。
これなら味付けに失敗することもないだろうし、二人を待たせることもないだろう。
「野菜を切っておいてくれ」
かなたに手渡す。
包丁を持ったかなたが野菜を切り――、
「かなた!?」
「え?」
慌ててかなたの手を掴む。
「……お前、猫手」
「え、あ。そうだったそうだった。こうだっけ?」
「…………合ってるよ、それで」
「でも、刃が中々入らないけど……」
「……貸してみろ」
かなたの代わりに野菜を切るが、特別、堅いわけではなかった。
かなたの包丁の使い方が、素人の頃まで戻っている……?
「ありがと兄ちゃん。じゃあ残りの野菜はあたしが――」
「いや、いい。野菜は俺が切る。かなたは鍋の準備をしてくれ」
本当はそれさえも不安だったが、包丁に比べたらまだマシだろう。
鍋を用意して火にかけるくらい、調子が悪いかなたでもできるはず……。
「兄ちゃん、鍋ってどこにあるんだっけ?」
「上の棚だ……下の棚と上の棚は中身を季節で入れ替えてるって、お前が言ったんだぞ」
「そうだっけ? そうだったかも……と。あっ、あったあった。これだよね?」
「おう」
鍋に火をかけるのはさすがにできていたが、
しかし、行動の一つ一つに自信がなさそうだった。
料理をやり始めたばかりのかなたを見ているようで……。
「あつっ!?」
……危なっかしくて、見ていられない。
ステイシアとこなたの関係を知ったその日から一週間が経っていた。
経った、が……なにかが劇的に変わったということはない。
こなたから、ステイシアを裏切った理由を聞き出し、
ステイシアが神であることを、せいはにも伝えたことくらいだ。
裏面に一緒に巻き込まれたせいはから、それからというもの何度もしつこく聞かれている内に俺が根負けした。
教えたところでステイシアに不利益はないだろうと思い、
実際に裏面にいき、ステイシアの口から言わせた。
すると、
「へー、神様なのか。じゃあ神頼みはしない方がいいか」
「するんじゃなくて? しない方がいいのか?」
「年下の女の子に頼っていられるかよ」
ステイシアは、その差別にも思える言い方に良くは思わなかったようだが、
それでも、せいはらしい言葉だ。
俺と似て、そこをすぐに見抜いた。
それこそが、真理だろう。
で、こなたの方は。
いじめたことに関しては、俺に言えるくらいには吹っ切れている様子だったが、こと裏切りについては居心地が悪そうにしていた。
どこで調べたのか、と気になっているのかもしれないが、まさか意識不明のステイシアから聞いてきたとは言えまい。
なのでカマをかけたらこなたが引っかかった、ということで誤魔化した。
こなたがそれで納得しているかは分からないが。
裏切った理由。
まあ、俺の予想通りというか、当たってほしくはなかったが、さすが兄妹と言うべきか、当たっていた。
ステイシアを抱え込んだことで自らの立場を奪われかねないと危機感を抱いたこなたが、ステイシアをいじめた、らしい。
誰が一番上なのかを見せつけるために。
ステイシアは見せしめに使われたわけだ。
擁護できない最悪な考えと行動だが、それでも擁護するならだ、あくまでも一時的なものであったらしい。
効果が出ればすぐにやめるつもりだった、と。
だが、主犯格であるこなたの手を離れたクラスメイトの独断専行によるいじめのエスカレートが、ステイシアを意識不明へ追い込んでしまった。
こなたは人の上に立ちたがるが、末端の方までは気が回らない。
隣にいる人間のことも、非常時においては駒と考えるような小学生だ。
兄を利用する妹なら、そういう保険もかけておくだろう。
しかし今回に限って、目の届かない場所で勝手に起きたことだ。
関与できなかった。
気付いたら問題が大きく膨らんでいたと言える。
末端とは言え、リーダーがいる以上は集団の手足だ。
主犯格がこなたと割れてしまっているのだから、末端の行動も責任はこなたに向かう。
逐一面倒を見られないなら切るべきだったが、くだらないプライドのために抱え込むだけ抱え込むからこういうことになる……。
まあ、これに懲りたら末端まできちんと目を向けるか、いっそのこと単独行動に徹するかを選ぶしかないな。
ともあれ、こなたの意思はステイシアに伝えている。
裏面から見て、聞いていたのかもしれないが一応、直接口頭で。
それを聞いたこなたは、一言だけ。
「だろうな」
と言った。
ステイシアも予想していたのだろう。
こなたを隣で見ていればそれくらいは分かるか。
だから、ステイシアに驚きの様子はなかった。
その時にこなたについて交わしたことはそれだけ。
仲直り云々についてはあとはもう、二人の問題だ。
兄が積極的に出しゃばることじゃない。
仲直りする気があってもなくても、今のステイシアの状況ではとても手が回らないだろうし……まだ先の話だ。
だが、それを延々と引き延ばすつもりはない。
一週間、考えて。
なんとなく、解決策っぽいものは見えてはいるのだが……ふむ。
障害が確実にある。
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