本当に路上ライブで稼げるの?
名無しの物書き
第1話 三年間は我慢して仕事しろ!
社会人として働き出す前、よくこんな事を言われた経験はないだろうか。
「どんな仕事も三年やってみないと自分に向いているかどうかなんてわからない、辛いことがあっても苦しくても、とりあえず三年続けてみろ」
一部の極端な意見を加味しなければ、話す人話す人みんながまことしやかに、言い回しは違っても似たようなニュアンスの旨で口を揃えるので、これはきっと素直に胸に響かせるべきなのだろうと思った。
それを誰が言い出したことなのかはよく知らないけど、三年という期間は極めて秀逸なチョイスに思える。
だって中学も高校も三年間だし、その前後には小学校の六年間と大学の四年間があって、長くも短くも感じず、なんというかストンと胸に落ちやすい(気がする)。
そして社会人の一年は早い。
一年を細分化して、明日まで、明後日まで、三日後まで、少し飛んで来週まで、来月まで、更に飛んで来年までのスケジュールやら目標やら計画が課せられる。
その一つ一つが訪れる度に日めくりに時間は過ぎて、それでも矢継ぎ早にまた予定は巡り来る。
三年なんて記憶も曖昧なままに過ぎ去ってしまう。
実際、僕はいつの間にか30歳になってしまった。
約八年間社会人をした事になる。
八年間過ごしたような実感ははっきり言って無い。
それでも八年も社会人をしていれば、普通に考えたらさぞかしそこそこ一人前になっている物だと思う。
実際たまに会う同級生はどこか恰幅が良くなっていたり、顔の深みが増したり、パパやママになっていたりして子供の頃見ていた大人の形に順調に当てはまって来ているように思える。
ところが僕と言えば、毎日毎日出勤前に「今日は休んでしまおうか」から始まって、そうは言いつつも歯を磨いて着替えをして、出社してはボロボロになって、束の間の休日に触れたら壊れてしまいそうなモチベーションを拾い上げる、そんな生活だ。
「お前な、仕事っていうのは三年やってみないと何も分かりはしないぞ。辞めるのは良いけど三年経つまでは我慢して続けろよ」
上司との飲みの席、何件目かに連れていかれた(付き合わされた)店で、僕と同じように、酔っ払ってめんどいモードの上司と部下
のそんな会話が聞こえてきた。
店のマスターはニコニコと笑みを浮かべながらもどちらに旗を上げるでもない絶妙なスタンスで会話の渦に佇んでいる。
そういえばそんなニュアンスの事を僕も言われたっけ。
すっかり忘れていたような気がするが、いざ考えてみると僕は社会人八年目だ。
何かを判断する三年はとっくに超過して、それどころか二週目を過ぎて3週目に入っている。
八年、八年、かぁ、仕事かぁ、向いてるかどうかかぁ。
僕ははっきり言って今の仕事は大嫌いだ。
好きになる要素がどこにあると言うのだろうか?
朝は早いし、夜は遅いし、給料は特別いい訳でもないない。
休みは不定期だし、今日みたいに遅くまで飲みに付き合わされるし、そもそも好きとか嫌いという概念で考えるのも変なような気がする。
というか、転職を考えたことが無いわけではない。
けど、その時に、僕が思ってる仕事が嫌な理由なんて転職したってまず社会人の責任や立場とやらに必ずぶら下がって来るもんだと気付いたんだった。
三年。
何かを判断する一つの区切り。
八年。
僕が社会人として費やした時間。
あぁ、そっか!
そもそも俺、仕事が向いてないんじゃね?
例えこれから十年、二十年と働いたところで自分が立派な社会人として自立しているようには思えないし、八年経って変わらなかった物がこの先何か激変するとは考えにくい。
何か成果を挙げた事が無いわけではないが、それに心から喜んだ事なんてあっただろうか?
思えばいつも何かが違う、何かがズレていると胸に抱えながら生きてきた。
それがもうこんなに経つんだし。
辞めてもいいよね?仕事。
本当に路上ライブで稼げるの? 名無しの物書き @nanashi0505
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。本当に路上ライブで稼げるの?の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
救いの手/篠宮
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます