第35話 勝負

中庭についた二人は木刀を構える。

「せんせいに教わった剣技を思い知るがよい。」

木刀を構えた瞬間ローラの気配が変わる。

さっきまではどことなくノンビリしていたのだが、構えた瞬間空気がピリつく。


「それがあなたの本性ですか。」

マイもさっきまで怒っているだけだったが、ローラの気配が変わった事に合わせて、警戒を強め、気を練りだす。


「それじゃ、二人とも準備はいいか?」

二人とも俺を見ること無くうなずく。

集中出来ているいい感じだ。


「それでは、はじめ!!」


開始の合図と共にマイがローラに斬りかかる。

気を練り向上した身体能力を使い、一気に間合いを詰め瞬殺を狙ったようだった。


「早い!でも。」

ローラはマイの速度に驚きつつも最小限の動きでマイの木刀に合わせて受け流す。


最小限の動きのために速度の早い動きに間に合わせる事が出来ているようだった。


「なっ!なんで追いつけるんですか!」

マイの速度は一流剣士でも追いつく事が出来ないぐらいに昇華していた、しかし、ローラは最小限でしかも俺が教えた剣技と本に書いておいた剣技を自分の物としたようだ。

気こそ練れていないが単純な力押しでは破る事は出来ないだろう。


「これがせんせいの剣技、あなたの早さは驚いたけど、せんせいの剣が負けるわけない。」

「私だって、タツマさんに教えてもらってます!」

「私はせんせいの一番弟子、簡単に負けるわけにはいかないの!」

一番弟子という言葉にマイは動揺したようだ、気が乱れた。

俺は即座に二人に割って入る。


ローラの木刀がマイに当たる直前で俺はローラの木刀を受け止める。

「勝者ローラ!」

俺の声にマイは座り込み、ローラは嬉しそうな表情を浮かべる。


「ローラ、強くなったね。

俺が教えた剣技を自分の物にしているね。」

「うん、ローラ頑張ったよ。

せんせいに近づきたい為に何度も何度も練習して・・・」

ローラは瞳に涙を浮かべていた。


1年程の短期間でこれ程剣技を覚えるのは並大抵の努力では無かっただろう。

俺はその苦労を理解しローラの頭を撫でた。

「せんせい、ローラね、せんせいに恥ずかしくない弟子になれたかな?」

ローラは俺に抱きつき泣き出した。

「ローラは恥ずかしくない弟子だよ。

充分なほどの腕前だ。」

「せんせい・・・」

ローラは号泣してしまう。


一方負けたマイは地面に座り込んだままだった。

俺は号泣するローラを抱え、マイに声をかける。


「マイ、まずは謝罪しておくよ。

君は身体の弱さもあったから気の使い方を重視して、剣技の方はあまり教えていなかった。

今日負けたのは俺の教え方が悪かったせいだと思う。」

「タツマさんは悪くありません。

タツマさんの横にいられることに自惚れて、剣の稽古をおろそかにしたせいです。」

マイは自分を反省するものの、稽古自体は充分やっている、ただ、ローラはそれ以上にやっていたのだろう。


「マイは充分やっているよ、あまり増やすと逆効果だからね、今は身体を作る時だ。」

「でも、ローラさんは・・・」

「ローラは身体が出来ていたし、それにロレンス将軍の子供なだけあって才能もずば抜けている。

俺の剣技が無くても世界に轟く武勇をいずれ身につけたと思う。」

「タツマさんがそれ程いう才能ですか・・・」

「せんせい、違う。ローラが強くなれたのはせんせいの教えがあったから。

ローラが得た名声はせんせいの物だよ。」

腕にしがみつき泣きながらもローラは訴えてくる。

「ありがとう、師匠としては嬉しい限りだよ。」

「だからね、せんせい。

お家に帰ろ?」

「ゴメンな、俺はこのマイに命を救われたんだ。受けた恩義を忘れるわけにはいかない。

それにこの国も愛着ができたしな。」

「・・・せんせいはローラと一緒に来てくれないの?」

「そうだよ、俺の居場所はこのダオ王国だ。」

「・・・せんせいが此処にいるならローラも此処に住む。」

「いや、ロレンス様がローラ帰りを待っているだろ?」

「大丈夫、お父様なら倒した。

強くなるためにせんせいの元にいるのは許してくれる。」

「ダメです!」

マイは反対するものの・・・

「敗者は黙るもの、マイあなたは負けたの。」

ローラにはっきり言われてマイも黙ってしまう。

「はぁ、仕方ない、ローラが勝った事に違いないからね、滞在を許します。

だけど、ロレンス様に許可を取るように手紙を出すように。」

「わかった、せんせいありがとう。」

ローラは俺の頬にキスをした。


「あーーー!!なんでキスするんですか!

離れてください!」

マイは気の力を使い強引にローラを引き離す。

「敗者は黙るもの。キスの1つや2つ問題ない、せんせいが望むならローラは全てを・・・」

「いりません!タツマさんは私のものです!

剣で負けても譲れないものはあるんですぅ!」


二人が言い争うのを見ながら俺は賑やかになりそうだなとぼんやり眺めていた。

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