第15話 お父様!

治療がすんでから1ヶ月がたった。

マイは俺のそばで楽しく笑っていたが、サユリさんが入って来た。


「マイ様、ノブヒデ陛下がお越しになられました。」

「お父様が?急ぎ参ります。」

「へっ?陛下?」

「あれ?伝えていませんでしたか?私の父は国王をしているのです。」

俺の背中を冷や汗が流れる。

俺は王女様を裸にして、あんなことを・・・


「えーと、マイさん、いや、マイ様はもしかして、王女様?」


「もう、様なんてつけなくていいですよ、いつも通りに話してください。」


「いや、不味いだろ?」


「いいんです。それより、タツマさんも紹介したいので、来てください。」

マイは俺の手を引っ張って連れていこうとする。

渋々、俺はマイに着いて行くと、応接室に髭の生えた立派な人が待っていた。


「お父様!!」

マイは髭の人に抱きつく。

やっぱりその人が王様なのですね。


「マイ、そんなにはしゃいではいけないよ、身体に悪いからね。」

「大丈夫です、もうすっかり良くなっているんです。」

王の御付きの人達が目頭を押さえる。

王も含めて、マイが久し振りに会った父に元気な姿を見せようと無理しているように見えていた。


そうか、あの持病はこの国だと不治の病だったっけ?

俺は遠くから眺めていると。


「お父様、此方のタツマさんに治していただいたのです。

全然平気なんですよ。」

「うん?その男は?」

「私を治してくれた命の恩人です。」

「初めまして、タツマと申します、死にかけている所をマイ様に助けていただき、感謝しかございません。」

俺は頭を下げ、礼をとるが・・・


「タツマさん、さっきも言いましたがマイって呼んでください!」

「いや、ちょっと、マイ様?今は不味いよね?」

「不味くありません!命の恩人なのですから全然問題ありませんから!」

「ほほう、娘と随分と仲が良いのだな?」

王のコメカミに血管が浮き出ている。


「いえ、そのような事は・・・」

俺は否定しようとするが・・・

「そうなの、私とタツマさんは裸の付き合いなの♪」


「・・・」

周囲の空気が固まる。


「あれ?どうしたの?お互いの裸を見たから裸の付き合いで間違いないよね?」

マイは無邪気に話しているが・・・


「タツマく~ん、ちょっと話し合おうじゃないか?」

王は俺の肩を掴み話し合いを求めている。

「ちょ、ちょっと痛い、陛下、俺が見られたのは事故ですし、マイ様の裸は・・・」

「見たんだな?」

「いや、それは治療の為でして。」

「我が国では、未婚の女性の裸を見たものは見られた男に嫁がなければならない伝統があってな・・・」


「ま、待ってください、治療ですから、それにまだ子供じゃないですか!」


「それを避けるには男が死ねば解除されるのだ・・・」


「ま、待ってください。」


「さあ、表に出ようか?剣で決めるぞ。」

王は木刀を持ち庭に俺を連れていく。


実際、王はタツマの実力を見ようと思っていた。

未来が見えなかったマイに婚約者はいない、結婚なんて出来るものではなかったのだ。

病を知ってからはマイが心から笑うことは無かった。

それがあんなに明るい表情をみせているのだ、マイが望むなら婿に迎えるのもいいかと思う気持ちもあったが・・・

娘を盗られた親としては一発ぐらい、しばいてやりたい気持ちと、男としての器量を見たいという気持ちとで、剣の腕前を見るという名文の元にしばこうと考えていた。


「さあ、構えよ。」

王が剣を構える。

思ったより出来る・・・

俺は気合いを入れ構える。

「ほう、なかなか出来るようだな、行くぞ!」

王は俺に斬りかかる。

上段斬り!

俺はかわして、懐に入り横凪!


王もかわして距離をとる。

「くっ、早い!」

俺は更に追撃をかける。

王は防戦一方になる。

「ま、まった!」

王はたまらず止める。


「タツマ、お前は医者じゃないのか?」

「どちらかというと剣士の方を名乗りたい、医術は修行の一環で覚えただけだ。」

「これはいい、マイよ、いい男を見つけたな。」

王は上機嫌で話していたが・・・


「お父様、私も手合わせお願いします。」

どうやらここ暫くの稽古のせいで、剣の腕を試したくなったのだろう、

父であるノブヒデに試合を申し込む。


「マイ?剣なんて持てるのかい?まあかかってきなさい、でも、無理はしちゃダメだよ。」

ノブヒデは顔を緩ませ、子供の相手をする親の姿であった。


「いきます!」

マイは気を巡らせ、一気に間合いを詰める!

「なっ!」

ノブヒデは驚愕する。

マイにこんな速さがあるとは想像もしていなかった。

油断しすぎていたノブヒデはあっさり一撃を喰らってしまった。


「お父様に勝てた?タツマさん勝てました。」

マイは嬉しそうに俺に飛びつき抱きついてくる。

「マイ様、ほら、王様もいるし、抱き付いたりは止めとこうか。」

「ぶぅーーー、また、様をつけてますよ、タツマさんこそ様は禁止です!」

マイは頬を膨らませ抗議をするが、そんな状況ではない。

ノブヒデの表情は鬼になる・・・と思っていたが、ふと見ると固まっているようだった。


「マイ様、少し離れてくれる?ちょっと王様の様子を見てくるよ。」

「また、様って言った!罰です、私は離れませんよ!」

仕方なく俺はマイを抱き抱えたまま、ノブヒデの近くに向かった・・・


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