第8話 ロレンス邸

俺達はロレンスの屋敷に暫く滞在する事になる。

ロレンスとしても一度国にお伺いを立てる話であり、その間、俺達は休養をとる。

俺のケガも屋敷に着いた時に医者を呼んでくれて手当てをしてくれた。


「マリア、ロレンス様は信用出来るのか?」


「はい、あの方は曲がった事が嫌いと伺っております。

そして、ルーマ国とトリスタン王国は長年の友誼がありますので、きっと大丈夫でしょう。」


その言葉通り、貴賓として扱われ、なに不自由なく暮らせていた。


ある日、ロレンスの子供、ロランより手合わせを申し込まれる。


「タツマ殿、父ロレンスよりタツマ殿は比類無き勇者と聞き及んでおります。

どうか手合わせを願えませんか?」

「いいですよ、ロラン様。宜しくお願いいたします。」

俺とロランは訓練場に行き、手合わせをする。

マリアは横でハラハラした表情で見ている。


「行きますよ。」

ロランは突きを繰り出してくる。

俺はそれをさばきながら動きを確認していたが、ロランはどうやらレイピア等の刺突武器が得意なようだ。

まあ、中々の腕ではあるが突きばかりで些か単調であった。

「ロラン様、もう少し幅広く攻撃をなさって下さい、フェイントも混ぜないと隙が出来ませんよ。」

「なっ!何を言う!」

ロランは俺の言うことは聞かんとばかりに突きの速さを上げてくる。

「それはそれでいいのですが・・・」

俺はロランの剣を絡めとり、上に弾き飛ばす。

「ま、まいりました・・・」

ロランはあっさり負けた事にショックなのか膝をついていた。


「見事なものだな。」

どうやら試合を見ていたロレンスが声をかけてくる。

「これはロレンス様、拙い技をお見せ致しました。」

「いや、見事なものだ、どうだ、私とも手合わせしてくれんか?」

「世話になっているのです、御希望とあらば、何時でも。」

「おお、それは良い。ならば、今からやろう。」

ロレンスは兵に木刀を持ってこらせた。


「さあ、かかってまいられよ。」

ロレンスが構えると俺に打ち込んで来るようにいう。

「では、行きます!」

俺は一気に間合いを詰め横凪の一閃を放つ。

「なっ!ぐっ!」

ロレンスは何とかギリギリ反応して防ぐが、俺は続けて振り抜いた剣を下から顎を狙い振り上げる。

ロレンスはかわそうとするが微かに顎に当たり、軽い脳震盪を起こし、膝をつく、其処に振り上げた剣を今度は振り下げ、頭に・・・

当たる前に止めた。

「え、えーと、私の勝ちでいいでしょうか?」

俺はやり過ぎた事に冷や汗が流れた。

するとロレンスは立ち上がり・・・


「見事だ!何処でその剣を覚えたのだ!」

嬉しそうに語りかけてくる。

「この剣は村に来た旅人に教わったのです。」

「なんと!してその御仁は?」

「俺に剣を教えたら、また旅に出ました。今何処で何をしていることやら。」

「何とその様な御仁が野にいるとはな。」

「ええ、もう一度会いたいとは思っていますけどね。」


「タツマ殿、どうだろう、滞在中だけでも良いのだ、ワシに稽古をつけてくれんか?」

「ロレンス様にですか?」

「うむ、ワシもまだまだ未熟とわかったからな、精進せねばならん。」

ロレンスは嬉しそうに頼んで来るが、ロランは不満そうにロレンスの前に立つ。


「父上、其処は若い僕の指導を頼むべきでは?タツマ殿、僕に修行をつけて下さい。父上等老い先が短いのですから放置したらいいのです。」


「ロラン、何を言うか!強くありたいと願うは、漢のサガではないか!」


「既にルーマの盾と異名を持つのですからよろしいではないですか!

此処は可愛い息子に譲って下さい!」


「何を言うか、未熟者のお前だとタツマ殿の手を借りるまでも無いであろう。

もっと強くなってからでよいではないか。」


「こうなれば力付くでも!」

ロランとロレンスは互いに木刀を握り、

何故か親子喧嘩を始めてしまっていた。


「タツマさん、お怪我は大丈夫なのですか?」

マリアが心配そうに駆け寄ってくる。

「あれぐらいなら、まだ大丈夫かな?」

「無理はなさらないで下さい。私は・・・」

ふとマリアはタツマを掴んでいる小さい手に気付く。

其処には十歳ぐらいの女の子がタツマの服を掴んでいた。


「えーと、あなたは?」

マリアが優しく問いかけると。

「ローラ」

「何をしてるのかな?」

「タツマに剣を教えてもらうの。教えてくれる?」

「でもね、タツマさんは・・・」

「マリアさん、いいよ、此処に長くはいないけどその間でいいなら教えてあげるよ。」

「うん、すぐに剣を取ってくる。」

ローラは満面の笑みを見せて走っていく。


「タツマさん良かったのですか?」

「いつまで居るかはわからないけど、小さな子供の頼みを断るのも何だからね。」

「いえ、あそこの二人に何って伝えるのですか?」

其処にはタツマの指導をかけて戦うロレンスとロランの姿があった。

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