第7話 国境越え

俺達は山を登り、見張りのいない所を目指す。

「はあはあ、すいません。少し休ませて下さい。」

マリアは山登りが初めてのようで、すぐにへばってしまう。

「まあ。仕方ないさ、ゆっくりでもいいから先に進もう。」

俺達は休み休み、山越えを目指す。


山を登り始めて三日目、国境が近付いて来た時・・・

「静かに!」

兵士の見回りに遭遇する。

俺達は木の影に隠れる。


見回りの兵は五人、何かを探すように丁寧に周りを見ている。

普通ならこんな山の中まで探したりはしない筈・・・

もしかして、姫さんの存在がバレたか?

俺は不安に思いつつも気配を消すようにしていた。


「くしゅん!」

マリアの可愛いくしゃみが静寂の山に響く。


「誰かいるぞ!こっちの方だ!」

兵士がこちらに集まってきた。


マリアは顔を青くさせ、頭を下げるが時既に遅し、奴等は俺達に近付いて来ている。


俺は身をかがめ、先頭に来ている兵士を有無も言わさず斬る、そして、二人、三人と斬り伏せ、最終的には五人全員を斬り殺した。


「マリア、さっさと逃げるぞ。」

俺はマリアを抱き抱え、走り出す。


「タツマ、ごめんなさい。私がくしゃみしたせいで・・・」

「なに、遅かれ早かれバレただろう、それよりさっさと国境を越えるぞ、此処からは時間との戦いだ。」

俺が国境を越える頃、斬り伏せた、兵士が発見される。

そして、帝国に伝わってしまった。


それは伝令により帝国第二皇子ニコラの元にも・・・

「五人を斬り伏せる奴が国境越えをしてるだと?

・・・もしや、マリア姫の護衛か?

急ぎ山狩りを致せ。兵士の数に糸目をつけるな!」


ニコラの命令により三千の兵を使った、大規模な山狩りが始まる。

ただ、バルス帝国が兵を集めた為にルーマ国も国境に兵を向ける。


その頃、国境を少し越え、俺達は休憩をとっていた。

マリアを抱き抱え、山を走るのは流石に無理があった、かなりの疲労を抱えてしまった。


「私の為に・・・」

マリアは息をきらす俺を心配そうに見てくる。

「なに、少し休めば回復するさ。

それに国境は越えたんだ、帝国も来たりは・・・甘かったか。」


帝国は国境を越え、追って来たようだ。

その数十、マリアを木陰に隠し、俺は追ってを斬る。

しかし、疲労した身体は上手く動かず、十人を斬る間に背中を斬られてしまう。

十人を斬り伏せた時にはそれなりの出血をしていた。


「タツマさん、酷いケガです・・・」

「なに、かすり傷だ、それより此処を離れよう。」

「だめです、キズを見せて下さい。」

マリアは俺の服を脱がせ、キズの手当てを始める。

とはいえ、山の中、出来ることは限られている。

キズを洗い、町で買った消毒液をキズにかけて包帯で縛る。

応急措置だけだった。


「さて、時間をとった、先に進もう。」

俺とマリアは先に進む、何時間かすると後ろから追って来る気配がする。

「マリア急ぐぞ、このままだと追い付かれる。」

俺達は足を早めるが前方にも兵士がいた。


「くっ、此処までか!」

前方の兵も俺達に向かい槍を構えている。

「タツマさん、あれはルーマ国の兵士です。旗が見えました。」

俺は国旗など知らなかったがマリアはルーマ国の国旗を知っていたようだ。

「ルーマ国の兵士さん、私はトリスタン王国、王女マリアです。

帝国に追われているのです。どうか庇護をお願いいたします。」

兵士は顔を見合わせていた。真実かどうかわからないからだ。


「マリア姫、顔を見せられよ。」

すると一人の老将がマリアに声をかける。

「あっ、ロレンス様、お久し振りにございます。

マリアにございます。ロレンス様が王宮にお越しになられた時、武勇伝をお聞かせいただいた事を今も覚えております。」

「間違いないな、この方はマリア姫である、我が名において庇護を約束する。」

「ありがとうございます。」

俺とマリアはルーマ国の兵士の中に入りやっと一息つける。

其処に帝国がやって来るが、ロレンスの敵ではなかった。


「マリア姫、一度我が屋敷にお越し下さい。其処で旅の疲れを癒していただけたらと。」

「ロレンス様、ありがとうございます。

御言葉に甘えさせてもらいます。」

マリアは頭を下げた。

「して、横の男は何者ですかな?」

「私の騎士でございます。

帝国兵に囲まれる戦場から此処まで私を守り抜いた、唯一無二の騎士様でございます。」

「なんと、見事な者だ。

そなたの忠誠、我が国の騎士にも見習わせたいな。」

ロレンスは楽しそうに笑い、俺達を屋敷に案内する。

こうして俺達は帝国から逃げ切る事に成功したのであった・・・


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