第5話 帝国皇子ニコラ・バルス

バルス帝国第二皇子、ニコラ・バルスは上機嫌であった。

3万の軍勢で10万の敵軍トリスタン王国を打ち破ったのだ、この結果は歴史に刻まれるであろう。


そして、今まさに敵の王、マルスの首と対面する。

「くくく、哀れなものだな、皆の者、この戦、我等の勝利である。残敵を掃討したら首都に凱旋するぞ!」

「はっ!」

「この首は首都にいる父上に届けよ。長年争われていたのだからな、お喜びになるであろう。」

「かしこまりました。急ぎ陛下にお届け致します。」

部下の一人が首を持ち下がる。


その後、祝宴を開いていると、サルド子爵がニコラに話かけてきた。

「この度は殿下のお力で勝利致しました、臣下としては帝国の未来が明るいことに喜びの念がたえません。」

「あまりおだてるでない、俺も浮かれてしまうからな。」

「して、殿下、敵の兵の調べによりますとマリア姫が戦場にいたようにございます。」

「なに!!俺のマリアが戦場にいたのか!」


ニコラは一年前に使者としてトリスタン王国に赴いた時に見たマリアに一目惚れしていた。

婚姻を申し入れるもアッサリ断られていたが・・・


「はい、どうやら慰安の為に本陣を離れていた事までは確認出来ているのですが。」

「待て!まさか兵の慰み者になっておらぬだろうな!」

「それはまだわかりませぬ。」

「至急捜査致せ!無事マリア姫を連れて来た者には莫大な恩賞を約束致そう。」

翌日、全兵に通達が出された。

そして、戦場をくまなく探した結果、マリアの乗っていた馬車が見つかる。


「馬車が見つかったのか?して、マリア姫は何処に!」

ニコラが焦っていると、サルド子爵が報告に来る。


「殿下、姫の服が見つかったとの報告が・・・」

「服だけか!まさか!」

「いえ、それが我が軍の兵の死体も近くに合った事から、何者かが助けたのではないかと・・・」

サルド子爵は陵辱の有無はハッキリさせなかった。

だが、陵辱を認めたくないニコラは考える事を避けていた。


「敵兵にも中々の者がいるようだな、して、何故服だけが・・・そうか、我が軍の兵に扮しているのだな!」


「御明察にございます、死んだ兵の中で二名は裸で見つかりました。

この事からマリア姫を助けたのは一人、そして、二人で逃走をしていると考えられます。」


「二人組の兵士を捜索しろ!いや、全兵に点呼を命じる、隊を離れているものはすぐに戻るように指示を出せ。

いないものは重い罪に問う、良いな!」


「殿下、それはあまりにも厳しくはないですか。」


「いい機会だ、命令なく隊を離れる事は元々禁じておる。

ここで規律を見直せば、更に精強になるであろう。

あと、トリスタン王国に向かう者を捜せ、たとえ我が軍の兵士であれ、命令無く国境に向かう事は許さん!」


この日からトリスタン王国との国境に警戒網が引かれる、この時のニコラにとって第三国を目指す事は頭に無かった・・・

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