第3話 逃走劇
俺は情に絆され、王女を連れて行くことにした。
「わかりました。ただし、生きて帰れたら報酬はたっぷりください。」
「勿論です!私が持つもの全てを差し上げても構いません。」
「わかりました。全力を尽くしましょう。
あと、逃げきれるまで俺の指示に従ってくれませんか?」
「ええ、勿論貴方の指示に従います。私がどんなに考えても此処から逃げれないのはわかってますから・・・」
「じゃあ、まずは髪を肩ぐらいまで切ってもらえますか?」
「えっ?」
「それから其処の帝国兵の服を着てもらいます。」
「私に帝国兵になれと?」
「そうですね、此処まで帝国が来ている以上、王国軍の格好をしているとすぐに見つかりますよ。
それならいっそ帝国兵のふりをして、別の方向から逃げ出しましょう。」
「まさか、帝国領を通り抜けるつもりですか?」
「そうだよ、そうでもしないと此処からは逃げれない。さあ、どうしますか?」
マリアはそのまま落ちていた剣を拾い、腰まであった長い髪を切った。
「わかりました。貴方に従うと言ったんです。どんな事でも言ってください。」
「いい覚悟です、あと話し方を少し変えてもいいですか?
これからは同郷の兵士という設定で行きたいと思いますので。」
「ええ、構いません。
そうだ、お名前をうかがっても宜しいですか?」
「俺はタツマだ。」
「そうですか、タツマさんこれから宜しくお願いします。」
俺はマリアを連れて帝国領を抜けるつもりだが、まずはこの戦場から離れなくてはいけない。
幸いといっていいのかわからないが現在帝国兵は敗残兵に追撃をかけている部隊、戦利品を回収しているはぐれ兵に分かれてきていた。
俺はマリアの身の回り品で高そうな物を戦利品として拾い集め、持ち逃げしている風を装う。
「あの荷物になるのにそのような物を持っていくのですか?」
「まあ、これには使い道があるんだ、それより言葉に気をつけてくれ、もっと乱暴に話さないとバレるぞ。」
「わかりました、いえ、わかった。」
既に戦場は遺体あさりの連中が来ており、鎧や剣、財布など金目の物を奪っていっていた。
同国の兵士を襲う者までは出ていなかったのが幸いだった。
どうやら今回の戦は討ち取った貴族の数から溢れる程の財宝が落ちており、兵士同士で取り合うより、探した方が儲かるようで、血眼になり探していた。
俺達は森を抜け、人の少ない所を進む。
「あんたも抜け出し組か?」
ふと俺達は声をかけられた。
「あんたもかい?良いもの拾えたか?」
俺は答える。
「おうよ、大量だ!」
男は俺達に荷物を見せる、貴族の身の回り品と思われる物が沢山入ってある。
「おっ、すげぇなぁ、これバレると没収されるレベルじゃねぇか?」
「見せればな。だから、逃げてんじゃねぇか。
そういうお前達も同じだろ?」
男は笑いながら喋っている。
「違いないな。」
俺も荷物を見せる。
「あんたもいい稼ぎだな。」
「勝ち戦様々だよ、まあ、これからは味方が敵だがな。」
俺達は笑い合う。
「じゃあな、縁が合ったらまた会おうぜ。俺は帝都で古物商の息子のダントンだ、ワケアリヒンの買い取りもしてるからな。」
「商売上手だな、タツだ、ほとぼりがさめたぐらいに売りにいくさ。高く買ってくれよ。」
「多少は色をつけて買ってやるよ。」
「その時は頼むよ。」
別れる前に俺はついでとばかりに逃走経路も聞いてみた。
勿論王国に帰る道ではなく、帝都と第三国のシグルド公国との国境近くの町アルパまで道のりだ。
ダントンは聞いてもいないのに裏道を教えてくれる。
商売用の道だと言って、見張りの少ない道を教えてくれた。
「ありがとう。」
「何、困った時はお互いさまだろ?それに逃走兵同士助け合わないとな。」
「じゃあ、ダントンも気をつけてな。」
俺はダントンと別れた。
「さて、マリアさん、ルーマ国に向かいましょう。」
俺はシグルド公国とは反対のルーマ国に進路を決める。
「あの?シグルド公国に向かうのでは?」
「ダントンを信じると?商売用の裏道を報酬も無しに教えるなどありえない。
どうせ、俺達の情報を何処かで流して囮にする気でしょう。」
「そんな・・・あんなにいい人なのに・・・」
「いい人は戦場で持ち逃げしません。
さあ、向かいますよ。」
俺達は近くの村で服を買い、鎧を外して旅人に扮してルーマ国を目指す。
一応設定は若夫婦にし、ルーマ国のマリアの父に結婚報告に向かっている事にした。
戦場から離れていってる事もあり、緊張感は薄れていく。
「タツマは国に帰ったら何をするの?」
「うーん、傭兵にでもなるかな?剣には自信が、あるからな。」
「それなら騎士になりませんか?私の護衛に推薦してあげますよ。」
「騎士か?礼節を知らないから無理だな。」
「えー、そんなことないですよ。きっといい騎士になれます。
それに、信用も出来るし・・・」
「まあ、考えてみるよ。まだ道中も長いしな。」
「そうよね、ゆっくり考えて。私は待ってるからね。」
軽口を叩きながら国境近くまでやってくる。
本当の戦いはこれからだった・・・
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