第2話 敗戦

翌朝、マリアは軍の視察に回っていた。

出来るだけ多くの人に姿を見せ声をかける事で士気を高めようとしていた。

その姿はタツマにも見えていた。


「へぇー綺麗な方だな、食べるものが違えは育ちも違うな。まあ俺に関係ないが。」

一目見ると興味を失い、持ち場に戻る。

マリアも次の軍に向かっていた。


昼前、強襲を受ける。

敵軍三万、全軍が本陣に突撃をしかける。

全軍に動揺が走る、前日から本陣に各軍の指揮官が集まっており。各軍は動くに動けなくなっていた。


その光景をタツマは木に登り眺めていた。

「おーすげぇ、これが戦争か!ここから見ると崩れていくのがよくわかるな。」

「タツマ!どうなってる?」

セシルも気になるのか、隣の木に登り見にきた。


「セシルか?見ての通り本陣が落ちるのは時間の問題だな。」


「何を悠長な事を言ってる!本陣が落ちれば俺達も危ないだろ!」


「じゃあ、どうする。持ち場を離れれば命令違反で死刑、戦っても負けて死亡、降伏したら良くて奴隷か?どれを選んでも嫌な人生になるな。」


「そ、そんな・・・」


「まあ、逃げる準備はしとけよ。携帯食と飲み水、それ以外はなるべく捨てていけ。」


「ああ、わかってる。」


「なら、取り巻きにも伝えてやれ。あとは運次第だ。」

セシルは木から降り、取り巻き達にも伝え、いつでも逃げれるようにしていた。


ほどなく本陣が陥落。

ここに来てやっと左軍指揮官代理セバートが軍を動かす。本陣の救援という意味のない行動の為に・・・


「行くぞ!陛下を救援するのだ。いそげ!」

セバートは激をとばす。しかし、セバートが指揮し動かせたのは左軍の一部、一万だけだった。


しかし、セバートには策があった。本陣強襲中の敵軍の側面をつけば敵は瓦解するであろうと。そして、その時自分は救国の英雄になるであろうと・・・その思いは夢に終わった。


セバートが本陣に着くと既に壊滅した本陣が・・・そして、首をとられ無惨な死体をさらしている上級貴族の遺体が転がされていた。

「なっ!」

セバートは言葉が出なかった。

そして、それは周りの兵士も同じ思いであった。そこに敵の一軍が現れる。


「なんだ、今頃来たのか?遅すぎるだろ、まあ、陛下から残党処理任された以上死んどけや!」

将と思われる者が突撃をしかけ簡単にセバートの首をあげる。


「なんだ、雑魚だな。まあ、敵将誰だっけ?まあ、討ち取ったりー全軍敗残兵を始末しろ!」

軍は既に崩壊し、逃げ出す者で溢れていた。


「セシル、さっさと逃げろ。ここにいたら殺されるだけだぞ。」

タツマ達はなるべく後ろにいたが軍の崩壊が早すぎて敵はすぐ近くまで来ていた。


「しかし、ユナが足を痛めてしまってる・・・」

ユナとはセシルの取り巻きの一人でセシルが想いを寄せる相手でもあった。


「セ、セシルさま早く逃げましょ。ユナに構っていたら死んでしまいます。」


「嫌だ!ユナを置いて行けない。みんな担ぐのを手伝ってくれ!」


「じ、冗談じゃない、周りが見えないのか!俺は死にたくない。」

取り巻きの一人が逃げ出す。

それに続き他の取り巻きも逃げて行く・・・


「そ、そんな・・・仲間じゃ友達じゃないのか?」

セシルは絶望にうちひしがれていた。


「いや、他の奴等が正しいよ、セシル、お前もユナを置いて逃げるべきだった。」


「タツマ、お前まで何を言ってる。」


「別に俺はお前達と友人でも何でもない、ただ好きな女を守りたい気持ちは伝わってきたが場面を考えるべきだな。セシルこのままだとお前は死ぬ、ユナはたぶん命は助かるかな?まあ、死んだ方がマシかもしれんが。」



「セシルさま、私を置いていってください。」

ユナは顔を青くしながらもセシルに逃げるように伝える。


「ユナまで何を言うんだ!僕に君を置いて行く事なんて出来ない。」


「セシルさま・・・」

二人は見つめ合い手を取り合っているが・・・


「感動の瞬間に悪いが時間切れだ!」

敵兵が一人また一人と現れ出した。


「おっ、女がいるな。」

「結構いい女じゃないか。」

「俺達と楽しい事しましょうね」

敵の言葉にユナは涙をうかべ。


「い、いや!来ないで。」


「ユナに近づくな!」

セシルは剣を握りしめ、戦う覚悟を決めた。


「男はいらねぇんだよ!」

セシルに斬りかかってくるが・・・


男の首が空を舞う。


「へっ?」

周囲は固まる。


「おいおい、俺は無視か?俺とも楽しもうぜ。」

俺はニヤリと笑い、敵に斬りかかる。

現れていた五人を斬り殺し、セシルに語りかける。


「セシル、鎧を脱いでユナを連れて向こうの山に逃げろ、あと其処に落ちてる斧を拾ってキコリのふりをしておけよ。あとは運が良ければ助かるかもな。」


「タツマ?」


「セシル命懸けで女を守ろうとするのはカッコ良かったぞ。同郷のよしみだ、多少の時間は稼いでやる、そのうちに逃げろよ。」

俺はセシルとユナを残して敵軍に向かう。


「どうした!帝国兵は雑魚しかいないのか!敗残兵以外には戦えないのか!」

途中、向かってきていた兵士を始末していく、わざと目立ちセシル達が逃げやすくなるように・・・


しかし、森を抜けた先には大軍が陣取っていた為に俺は身を隠した。


「・・・ここまでかな、俺も森に隠れて逃走に移るか。」

俺は気付かれないように離れていった。


逃走を開始して、しばらくすると古びた民家を見つける。

「や、やめなさい!離して!」

中から女の子の声が聞こえてくる。


バレないように様子をうかがうと敵兵が女を陵辱しようとしている現場だった。

俺はこっそり敵兵に近づき首をはねた。

「君、大丈夫か?」


死んだ兵士をどけ、女の子にたずねる。

血にまみれてる俺を見て女の子怯えて声が出ないようだった。


「じゃあ、俺はこれで。運が良ければお互い助かるかもな。」

俺の姿に怯えている姿を見て、さっきは助けはしたが絶対に助けたい訳でもない。

俺は再び逃走に移ろうとした。


「ま、まって・・・」

俺は呼び止められる。


「なに?」


「た、助けてください。」


「俺の事、怖いんだろ?それに助けられるかもわからない。」


「お、お願いします。私は生きて帰らないといけないのです。」


「いや、みんな生きて帰りたいだろ?」


女の子は一呼吸してつげる。

「違うのです。私はマリア・トリスタン、トリスタン王国の第二王女です。

バルス帝国に捕まると祖国にどんな要求がされるか・・・

どうか私を守ってくれませんか?」


「王女様、無茶を言わないでください。此処が何処かわかっていますか?

既にこの辺りは帝国兵の支配下です。

俺1人でも逃げれるかわからないのに貴女を連れて逃げれるとでも?」


「お願いします。どうか・・・どうか!」

俺にしがみつき懇願する王女を俺は振りほどけなかった・・・



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