第39話 ヴィエラの過去 後編
まえがき
申し訳ありません。
見返してみたら『古代都市編 第29話 その愛が欲しい』の内容と『ラルクエルド教国編 第35話 サラとノルド』の内容が盛大に矛盾していることに気付きました。
書いていた当時からかなりの期間が空いてしまっていたので自分でも忘れていました。誠に申し訳ありません。
一応最新の展開の方が作者的に合っているので、古い話の方を今の話に合うように該当の告白部分を一部変更し、削除します。また盛大に矛盾したことを反省して近況ノートの方でも、変更する前の話を載せますので興味がある方は見比べてください。
それではまた矛盾があればこうして前書きと近況ノートに報告していきますのでご了承ください。またこれから矛盾がないよう書いていきますので、今後もよろしくお願いします。
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「……姉御も、あの計画に参加していた?」
「えぇそうよ。私が九歳であの子が五歳の時だったかしら」
ヴィエラならともかくまだ五歳の子供を誰かに預けるというのは中々危険なことだ。それが例え世界的に信仰されている宗教だろうとも、自分の目が届かないところで子供を育てられるというのは子供を大切に思う親ほど不安に思うだろう。
「正妻は反対したわ。でも当主の命令に逆らえなかったから、結局私たちはあいつらがいる施設に入ったのよ……あの時、正妻は私にこれまでの行いを謝って、ヴィエナのことを頼まれた時は本当にびっくりしちゃったわね」
それぐらいヴィエナのことが大切だったのだろう。だからこそ正妻は例え相手が憎き妾の子であっても、ヴィエナに懐かれている彼女に託したのだ。
「まぁその願いも……果たせなかったけどね」
ヴィエラの案内にいつの間にかノルドは暗い通路の中を歩いていた。
どうやらこの通路の先が人工勇者計画に関わる施設に繋がっているのだろう。
「とある施設に入れられた先には、私たちの他に複数の子供がいたわ。そして神官共は私たちの胸に特殊な印を施した」
「印?」
「曰く、勇者になるために必要な印らしいわよ。今思えばあれも聖術陣の一つだったかも知れないわね」
聖術陣とは聖術語を組み合わせて詠唱することで発動する聖術の図形版だ。
聖術語に対応する図形を組み合わせ、聖術としての効力を発揮させる古代の技術だ。
詠唱聖術とは違い物体に付与させることで、長時間その物体に聖術の効果を発揮し続けることができる技術なのだ。
「姉御は今もその印を?」
「……いいえ。私にその印は定着しなかったわ」
「定着しなかった?」
「そうなのよ。あの印には勇者としての素質があれば定着し、なければ定着しない仕様があったらしくてね。まぁともかく、私は定着しなかった」
しかし、彼女の妹であるヴィエナは違った。
「あの子には神官の言う勇者の素質があったらしくね。その証拠に彼女の胸に施された印はちゃんと定着したわ」
「……」
「定着しなかった子は空気のように扱われた。一応神官としての戒律があるからか、必要最低限の生活は保証されてたけどね」
ただ印が定着し、勇者としての素質があった子供は違った。
「豪華な食事、豪華な寝床……側から見れば楽園のような生活環境だったけど、年を経る毎に徐々に子供の数が少なくなっていったのよ」
「それって……」
「ご存知の通り実験による影響ね。印を通して大量のマナを送り込む実験で、耐えれば印を強化させていき、耐えられなければ体は大量のマナの影響によってマナへと分解される……」
「なっ!?」
「当然、マナを大量に送り込む過程であまりの苦痛にショック死する子供はいたわ」
想像以上に過酷で、残酷な内容にノルドは絶句せざるを得ない。
「勇者の素質というのはね。マナに対する才能があるって事なのよ」
マナを扱える。マナに耐える。マナに干渉するなどなど。それらの力を引っくるめて神官たちの言う勇者の素質らしい。
そんな生きていれば聖術士として大成していたかも知れない子供たちを、あの実験で次々に消費させていったのだ。
「私はあの子しか守れなかった。年齢の理由や体調の理由とかあの手この手でヴィエナに対する実験を拒否し続けてきた。あの施設で私のことをお姉ちゃんと呼ぶ妹分や弟分だっていたのに……!」
「姉御……」
そうして、五年も月日が経った。
「五年も、その施設にいたのか……」
「……私はその間、体を鍛えに鍛えまくったわ。それもその年まで生き残った印持ちの子供を圧倒出来るぐらいには」
印持ちの子供たちは神官によって聖術士として訓練されていた。
そんな子供たちを印持ちじゃないヴィエラが圧倒したのだ。
「神官たちはそれはもう頭を抱えたわよ。勇者となるべき人材がただの人間に負けるその事実に、彼らは私をまるで化け物を見るような目で見てきたわ」
その時を思い出したのか、彼女はおかしそうに笑う。
「私の発言は彼らにとって無視できない域に達していたわ。そこで私は人工勇者計画に関わる重要な秘密を知ったのよ」
「重要な秘密というのは?」
「神託のことよ」
曰く『かつて魔王を討伐せし偉大な聖女が再びやってくる。その者、勇者と結ばれ世界に平和を齎すであろう』と言うのが、神官たちの間に伝わっている神託だ。
「それか……」
「そこで私はこう思ったのよ。多分あいつらは旅の道中に勇者が死んでしまえば、神託を遂行できなくなることを恐れているんだって」
だから勇者の保険として人工勇者を作っているのだと、この時のヴィエラは思った。
「だから彼らにこう直談判したのよ」
「直談判?」
「そう。騎士になって今代の勇者を必ず守る勇者パーティーの戦士になるってあいつらに言ったの。そうすれば神託に必要な勇者を守れて、この実験の必要性もなくなるって」
この時のヴィエラは幼いながらも既に戦士として十分に成熟した状態だった。過酷な鍛錬によって得たマナライン接続術を習得してからは、印持ちの子供はおろか、どんな屈強な神官と対峙しても誰も彼女を傷付ける事が出来なかった程だ。
そんな実力に達していた彼女の言葉には説得力があり、彼女の言葉に同調する神官も一定数存在していた。
「そして私は監視付きとはいえ、ようやく外に出れて騎士になるための試験を受けたの」
騎士採用試験で彼女はトップの成績で合格した。それどころか現役の騎士、それも当時の騎士団長と戦っても勝つほどの強さを見せつけたのだ。
「……これで実験は中止。ヴィエナも残りの子供たちも助かる。そう思った私は大急ぎで実験施設へと走って行ったわ」
と、そこでノルドたちはようやく実験施設らしき場所に辿り着く。
「ここで実験が行われてたのね」
「……あれは」
ノルドは遠目で机に置かれている紙の束を見つける。気になってその紙束の一部を手に取って読んでいくとそこには被験者らしき名前が書かれていた。
「……人工勇者計画第二百四十八号、サトナ村のライ」
以下、実験体に対する経緯とその実験内容を記す。
援助に向かったサトナ村の先で有望そうな子供を見つけた。
実験のために子供を引き取ろうとしたがその家族が抵抗。
やむなく彼らを処分し、子供を教国へと連れ帰った。
改良した勇者の印を施す。
マナに対する素質はこれまでの実験体より優秀だった。
マナの注入実験を開始。
体中至るところから血が吹き出すも、マナが体を回復させていた。
これは以前の成功体と同様の効果を見せており、今回の実験体も成功体の可能性が高い。
今後も実験を続けていく――。
「……」
そして最後には、そのライという子供の似顔絵が書かれていた。
ノルドは、その子供の顔を知っていた。
昨日も、そして今日も一緒に遊んだ顔だ。
「……あの、少年だったのか」
ぐしゃりと紙を握り締める。
この場所が異様に悍しく感じた。今すぐ怒りで暴れ出したい気分だった。
「どうやら、ヴィエナからの情報を元に今回の人工勇者を完成させていたようね」
「姉御……」
「……えぇそうよ。私の妹、ヴィエナは勇者にさせられていた」
騎士として妹や妹分、弟分を守れる。
そう無邪気に喜んで施設に入った瞬間、あの光景があった。
「どうしてと思ったわ。騎士になったのにどうしてって」
ヴィエラは思い違いをしていたのだ。
騎士になって勇者を守れば実験はなくなる。それが間違っていたのだ。
神官たちは例え勇者が生きてようと死んでようと関係なかった。ただ聖女と勇者という存在が結ばれることこそ重要だったのだ。
人工勇者を作り、聖女と結ばれる確率を上げるのが彼らの目的だったのだ。
「それに無印の私が鍛錬でこんなに強くなったのだから、血の繋がった妹もきっと勇者として優秀な才能を持っているのだろうと考えたのでしょうね。そんな理由もあったせいで、神官は私に無断で妹を実験した」
そしてヴィエナは神官が望んだ人工勇者計画の成功体になったのだ。マナを扱う才能によって聖術士としても戦士としてもこれまでの子供たちより別格の強さを誇るようになった。
「どうして他の子供より強いって分かったって?」
「……」
わざとおどけるように言う彼女にノルドは何も言えない。
「……戦わせたのよ。勇者の印に強制的に命令を与える効果があったのか、あの子は他の子供を殺し続けた。無印の子供も、印持ちだった子供も……全て」
ヴィエラが辿り着いた時にはもう、妹を中心に子供たちの死体が無数に転がっていた。
そしてその時に神官が言い放った言葉が、彼女の脳から離れられなかった。
――やった! 完成だ! 最高傑作が完成したんだ!!
「……次は、これまで負け無しだった私と強制的に戦わせられた。命令によって苦しみながら従う妹をなんとか止めようとした……でも」
――お願い……殺して、殺して、お姉ちゃん……。
「自分の不甲斐なさに……妹の苦しみに……私は」
妹の胸に、剣を突き刺した。
勇者の印諸共、ヴィエラは妹を殺したのだ。
「最高傑作だった筈の妹が殺された事実に神官共は頭を抱えたわ」
――そんな馬鹿な……最高傑作の筈だ!! 何故どうして貴様はそれを殺せる!?
「それを私はただ聞いているだけだった。妹の亡骸を抱えて、私は呆然と彼らの狂うように頭を抱える光景を見ていた」
そしてその時である。
一人の神官がまるで天啓を得たようにこう言ってきたのだ。
『そ、そうだ! 彼女だ! 彼女こそが我らの最高傑作だった! 無印ではあるが最高傑作を殺した彼女こそ、私たちが作り上げた最高傑作なのだ!』
そう言って、彼が指差すのは唖然としているヴィエラだった。
「よりにもよってあんたらが失敗作だと断じた私を最高傑作扱いしたのよ。これまでの実験を経て、妹すら実験したあいつらが……!」
じゃあなんのためにこの五年間実験して子供たちを死なせたのか。
なんのために妹は実験されたのか。
その言葉はこれまでの実験を無駄であると認めていたようなものだったのだ。
「妹たちを無駄にしたあいつらを許せなかった……だから私は」
怒りのままに。
殺意のままに。
目に付く神官共を殺し回った。
「……そこで逃げ延びた一部の神官から通報が来たのでしょうね。あの実験施設に無数の騎士がやってきて、私は捕らえられた」
しかし実験の内容が明らかにされる度に、ヴィエラに対する同情が集まる。
「実験が国王に知られ、国王は激怒した。ラックマーク王国にある全てのラルクエルド教会の浄化を行い、私を近衛騎士として任命した……」
それがヴィエラの過去。
ヴィエラの全て。
「これが……私の『憤怒』よ」
そしてあの悪魔ザイアがヴィエラに向けて放った言葉の意味である。
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