ラルクエルド教国編
第25話 雷鳴の勇者
探求の悪魔との戦いから数日。
遠目ではあるが、勇者パーティーの目には国が見えた。
山の上に築かれたラルクエルド教の総本山。
あれこそがある意味決戦の地、ラルクエルド教国である。
「はー! 長かったー!!」
その国に辿り着くまではあと数時間は掛かるかもしれないが、それでも目に見える形で目的地が近付けば、気持ち的に随分と楽になる物だ。事実、サラはようやく目的地へ近付いたという実感に馬車から乗り出しながら喜んでいた。
「本当に……長かったわね……」
喜んでいるサラとは対照的にヴィエラは疲れが多いのかあまりテンションが上がっていない。寧ろやっとか……という苦痛から解放されたような感じだ。
冒頭にも示した通り、探求の悪魔との戦いから数日経っていた。
魔獣を呼び寄せる腕輪も壊し、その事件のきっかけとなったカイル神官はあの悪魔に何かをされて随分と衰弱していた。ノンナや勇者一行と共に同行している治癒師曰く、カイル神官の体内マナが抜かれていて、自然治癒もままならない状態との事だ。
まぁ命が助かって、それで養生していれば治るという話なので誰もカイル神官の事を心配していないのだが。
「はぁ……」
ノエルがため息を吐く。
これまで自分たちは魔王討伐を目的とした急ぐ旅をしていた。だというのにラルクエルド教国側の都合に巻き込まれて寄り道しなければならなくなったのだ。確実に面倒な事態に遭う。その事を確信しているため、気分が憂鬱だった。
「彼奴らの言い分では魔王の瘴気は未だケーン大陸から出ていないらしい。故にこんな無駄な寄り道をしても問題ないと言っておるが……本当かのぅ」
些か、いやかなり楽観的ではないかとノンナは改めて思う。
そもそもどうしてノエルたち勇者パーティーが寄り道をしてまでラルクエルド教国に向かわなければならないのかというと、単にノルドの処遇を関わる物だからだ。
これまでの冒険でノエルたちはノルドの有用性を認め、また一人の仲間としていなくてはならない存在と思えるまで絆を深めて来た。なのにラルクエルド教国の神官たちがそれに何癖をつけたのだ。
別に戦闘力に関しては特に言われなかった。
いやそこにも何癖をつけかったが、ノルドの戦闘方面における功績が大きかったため何癖をつけられなかっただけだ。
最大の問題はただ一つ。
――ノルドが聖女に対して馴れ馴れしかったからだ。
幼馴染であるのは別にいい。
共に戦うのもまぁいい。
しかしただの戦士が聖女に近付こうとしているのが駄目だ。
聖女から愛を乞うのも果てしなくギルティ。
何故なら聖女は勇者と結ばれなくてはいけない。
女神の神託もそう言っているし、そうしなくてはならない。
たったそれだけだ。それだけの理由だ。
現にノルドの存在によって勇者と聖女は結ばれていないのも相まって、ノルドという存在に嫌悪感を出していた。ノルドがいなければ勇者と聖女はとっくに結ばれているという根拠のない理由を出して、ノルドを排斥しようとしたのだ。
「ラルクエルド教国にもう一人の勇者か……」
サラは先程の喜びから一転、憂いた顔でそう呟く。
ノルドの脱退を拒否するなら聖剣を返還させ、ノエルを勇者の任から解くとまで言われる始末だ。そうすれば魔王は誰が討伐するのかと問えば、上記のサラのセリフである。
話の真偽は分からないが、カイル神官の自信満々な表情を見れば何か備えてあるというのは想像に容易い。
そしてそれ以上にもしも聖剣を手放し、勇者の責任をも手放したとして――。
『……』
――大事な仲間をどこの馬の骨かも分からない相手に託し、魔王討伐という使命を託せる訳が無い。
これは勇者パーティーの総意だ。
今いる仲間以外の仲間にはならないし、誰にもこの使命を託せない。
当然、共に戦うべき仲間の一人にノルドという存在は必要不可欠だ。
だからラルクエルド教国の挑発に乗ったのだ。
こんな大事な時に下らない理由で勇者が交代するなど、到底人類の心を一つに出来る訳がない。一つに出来なければ祈りは女神に届かず、聖剣の力が減少するのだ。そうすれば魔王討伐など夢のまた夢。だから乗った。
ノルドを信じているからこそ、乗ったのだ。
「ノルドと教国にいる勇者が戦士の枠を賭けて戦う……ノルドが勝てばいつも通り」
「もし負ければ戦士の枠はその勇者が座る……」
「ノルドのいない魔王討伐なぞ、ゾッとせんわ」
サラ、ノエル、ノンナがそう呟く。
その時である。
「……っ、貴女たち武器を構えなさい!」
何かに気付いたヴィエラがそう叫ぶ。
それと同時に。
前方から
「ここに来てミミズ
強敵である筈の相手にノンナが笑う。
穿壊魔竜はドワーフの里で初めて遭遇した魔竜で、古代都市ではザイアの召喚により計二回も戦って来た相手だ。そしてそのどれもが苦戦を強いられて来た相手。
それでも勇者たちの間に重苦しい空気はない。
これまでの戦いを乗り越え、その全てに勝って来た。
力も、精神も、あの頃より何もかも成長しているのだ。
「行くよみんな!!」
ノエルの声に全員それぞれの武器を取り出す。
そして――。
――紫電が穿壊魔竜を貫いた。
『!?』
そしてすぐさま雷鳴が轟く。
穿壊魔竜の胴体は消し飛ばされており、既に死んでいる。いやそれよりも先程の紫電だ。勘違いじゃなければラルクエルド教国からやって来た『何か』。
そして紫電はそのままノエルたちの馬車の周りを何回も周り、速度を徐々に落としていく。
「……これは」
速度が落ちていけばその紫電の輪郭が徐々に明らかになっていく。
それは地面を滑りながら動きを止めると、ほっと息を吐いてノエルたちの元へやってくる。そう、人間だ。穿壊魔竜を貫いた紫電の正体は人間だった。
それも、約十歳の子供だ。
「……おまえたちが勇者パーティーか?」
「君はまさか」
「おれの名前は……ライ」
体から紫色の放電を僅かに発しながらその子供が言う。
「……ラルクエルド教国の……勇者だ」
◇
「どうでしょう? 我が国の勇者の力は?」
ライに案内された勇者パーティーは、そこで豪華な身なりをした女性神官から歓迎された。しかしノエルたちの誰もがその歓迎を喜んでいなかった。
その中で特にヴィエラが神官の登場に一番怒りを露わにする。
「……アンタ、この子供にいったい何をしたのよ?」
「あらあら……一先ずこの手を離してくださいませんか? まだ私の事を皆さんに紹介していませんが」
「アンタの事よりもこの子についてよ!」
周囲の神官の狼狽えている様子から、ヴィエラに掴まれている目の前の神官は相当な高位神官だろう。しかし通常なら失禁するほどのヴィエラの強烈な殺気を受けてもその女性神官は表情を崩さない。
「ライくん」
「っ! ……その手を離せ」
女性神官が側に控えていたライと名乗る子供に話しかける。
するとライは手から紫色の雷をバチバチッと発しながらヴィエラの顔へ向ける。まるでその手を離さなければ攻撃するというような姿だ。
「……」
ヴィエラはそんなライの姿を見ると、一瞬顔を顰めた後に女性神官から乱暴に手を離す。女性神官は掴まれた箇所を丁寧に整えると、笑みを浮かべながらノエルたちへお辞儀した。
「それでは改めまして皆さん」
その女性こそこのラルクエルド教国の女教皇。
「サラシエル・ラルクエルドでございます」
勇者パーティーの敵である。
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