第14話 一方! 悩むヒロインズ
一方その頃。ノルド組より先行していた勇者組は、平原の地にて遭遇した問題に足止めを食らっていた。
「おかしい……なんで頻繁に魔獣の襲撃が?」
「もうワシ疲れたんじゃが……」
杖を支えにして、ノンナが疲労困憊の様子で周囲を見渡す。
あるのは先ほど交戦して死体となっている魔獣の群れだ。
それも十や二十ではない、百を超える数の死体だ。
「ジャイアントボアにレッドキャップ、グラトニーバード、トキシックベア……襲い掛かってきた魔獣に統一性がないわね」
「二日間の間に三回も襲撃が来てるよね……?」
ヴィエラの分析に怪我人を治療し終えたサラが思い返す。
そう、最初の襲撃から二日続けて計三回の襲撃を受けていた。
どれも様々な種類の魔獣が数百体も群れを成して襲い掛かってきているのだ。
「教国に着くまでずっとこれが続くなら体が保たないよ」
「なら原因を探すしかないわね……」
「原因のう……魔獣の群れがワシたちを積極的に狙う原因……」
「うーん、あっ! 例えば荷物に魔獣の好物があるとか!」
サラは何気ない思い付きで言ったつもりだが、意外と周囲から否定の言葉が出て来なかったことに目を丸くさせた。
「まぁ……そうわね」
「あ、あれ? もしかして……合ってる?」
それにしては言葉を濁らせている点が気になるが。
「……魔獣は食べたマナを瘴気に変換することで栄養を取っているんだよ。それで一番マナを宿しているものと言えば……」
「まぁ人間じゃな」
「……うわぁ」
説明された魔獣の生態にサラがドン引きする。
「もっとも今回の件に関してはあまり関係ないと思うけどね」
「どう言うこと?」
「魔獣は魔王が生み出した生物だけど、あくまで動物の延長線上にある存在よ。人間を嫌っていることや瘴気を扱うという点を除けば、普通の動物と同じようにテリトリー外のことは無関心で、自分より強い生物から逃げ出す本能もあるの」
そうでなければ多くの人間が住む国や隊商などは常に魔獣の群れに襲われることになる。
だがそのようなケースがそう多くないのは、如何に人間のことを嫌っていようと自分たちの身を守るのが優先されているだからだ。
「群れに襲われることは確かにある……でもそれは自分たちが生き残るために餌である人間を襲うからじゃ。そして襲い掛かって来る群れのほとんどは大抵同じ種類の魔獣に限定される」
「だけど今回の襲撃は違う。種類はバラバラで餌を求めるような様子はなかった」
「暴走しているような様子もなかったわね」
「へぇ……そうなんだ……」
どちらかと言うと、集まってきた先に人間がいたから襲い掛かってきたような様子だったとノエルたちは考える。
「うーんだとすると原因は他にあるのかな……」
「ノンナ、貴女賢者なんだから何か心当たりないの?」
「ヴィエラお主、無茶振りしよるな……」
賢者と言っても聖術士が勇者パーティーに所属するとそう呼ばれる役職名なだけで、深淵なる叡智を宿す賢き者とは意味合いが違うのだ。
「まぁワシは実力的にも知識的にも立派な賢者なわけじゃが」
「いいから早く原因を究明しなさい」
「だから無茶振りぃ……しかもハードルが上がってるぅ……」
あまりの圧に思わず作ってきた口調も性格も崩れて涙目になるノンナ。
因みにだが彼女はあの古代都市の一件以来、
「うーん原因かのう……」
まぁそれはそれとして、この中で一番知識がある自分が考えなければ時間が無為に流れていってしまうのも事実。うーんうーんと考えた結果、一つの情報が頭に浮かんだ。
「……例えば魔獣共を引き寄せる何かが荷物の中にあるという可能性はどうじゃ?」
ノンナの推測にヴィエラが怪訝そうな表情で尋ねる。
「そんな物があるの?」
「古代都市でそのような本を読んだのじゃ」
曰く、手当たり次第に周囲の魔獣を呼び込む聖術道具があるという。
「どういう原理なのよそれ」
「女神の加護のような機能を目指して作られたらしく、周囲のマナを集め実質的に無限のマナを扱えるようにする聖術道具らしいの」
「昔の人たちは凄いね!」
「まぁ集めすぎて魔獣も引き寄せる欠陥道具じゃったらしいがの」
「ダメじゃないの」
強いマナの力は魔の存在から目の敵にされているため襲われやすい。
それはドワーフの里でレイヤという女神の加護を持った少女が魔竜に狙われるようになった原因でもあった。
「なるほどね……」
「そう言えば女神の加護を持っている私やノエルは大丈夫なの?」
「うーん……恐らくじゃが、サラとノエルは聖杖と聖剣を持っておるから大丈夫の筈じゃ」
恐らくそれがサラとノエル、そしてレイヤの違いだろう。
そうでなければ同じ女神の加護を持っている二人も常に魔獣の脅威に晒されている筈だ。
「聖剣と聖杖が女神の加護を制御して、魔獣を引き寄せないようにしていたんだ……」
「ノエルの言う通りその可能性は高いのう」
「それでその欠陥道具はどうなったの? 欠陥だから廃棄されてる筈でしょ」
ヴィエラの疑問にノンナは本の内容を思い返しながら答えた。
「いやそれがの。目当ての機能は出来なかったが、魔獣を引き寄せる機能はそれはそれで使い道があるらしく複数個生産されてたらしい」
『えぇ……』
当時を考えてみれば当然のことだった。
魔王との戦いが激化し、凶暴になっていく魔獣の群れを分散するためには絶好な道具らしく、結構重宝されていたという。
「まぁその道具は起動したら外部が壊すまでずっと魔獣を引き寄せる消耗品でな。複数個作られていても今の時代残っているかどうかじゃが……」
「現に魔獣の襲撃に遭っているんだから誰かが持っている可能性は高いでしょ」
「その聖術道具ってどういう形状しているの?」
サラの質問にノンナは空を見上げて正確な形状を思い出そうとする。
「あぁそれはじゃな……腕輪の形をしていて色は……なんじゃったかな」
「子供の癖に記憶力が怪しいわね」
「……ちょっと黙ってもらえんかの?」
その時、クソッタレ神官であるカイル・マグバージェスが手を振りながらノエルたちの元へと駆け寄ってきた。
「おぉ〜!! 流石勇者様方ですぞ〜!!」
「あぁ思い出した! 色はちょうどあのクソ神官が身に付けている腕輪のような金色で……って、それじゃああああああああ!!」
「え?」
「はい確保ぉ!!」
「え、ちょ、ぎゃあああああああ!!!!」
◇
数分後。
そこには簀巻きにされ、顔面が凹むぐらいにボコボコにされた汚職神官がいた。
「あの……確保するなら分かりますがどうして暴行を……?」
『やってないけど』
「勇者パーティーの結束力……ッ!」
確保する際、鬱憤を晴らすように暴行を加えていた事実は勇者パーティーの名誉に関わるためここに秘す。
「のうお主……その腕輪はどこで手に入れたんじゃ?」
「ん? これですか? これはあの古代都市で手に入れた物でして、いやぁ〜実に見事な彫金技術で私一目惚れですよ!」
「ワンアウトね」
ヴィエラが遠い目で呟く。
「古代都市から出発した時はそのような腕輪を付けていなかったと記憶しておるが……?」
「実は厳重な箱に封じられていまして……それをつい一昨日開封することに成功したのです!」
「ツーアウト……かな」
ノエルが感情のない目で呟く。
「実は魔獣の襲撃が三回立て続けに起きておるが……それの原因がその腕輪にあると言ったら素直に渡してくれるかの?」
「は? 嫌に決まっています。第一、原因が腕輪にあるかどうかも怪しい。賢者だと言っても所詮は子供。大人を揶揄うのはやめてほしいですな」
「ふんっ!!」
「金っ!?」
ノンナの腰の入った蹴りがカイルのカイルへと叩き込まれた。
「すりーあうと、ばったーちぇんじ! ……でいいんだよね?」
「いいわよ」
サラがヴィエラの言う通りに右手こぶしを上げて宣言した。
これで原因が特定されたわけだが、悶絶するカイルは未だに腕輪を外そうとしない。流石にそのあまりの強情さにノエルたちはイラついていく。
「ええい早く手放せそんな物! 命よりも物を取るのかお主は!?」
「やめろ、私の物に触れるな! これは私が得た物だ! 見ろこの芸術品を! 紛れもなく純金製で古代の代物だ! これがあれば教国で誰もが私を羨むに違いない!」
腕輪を頑なに手放さない理由があまりにも俗物的過ぎる。
こいつは本当に神官か? と思いながらも周囲に及ぶ影響を考えればここで頑張らなくてはならないのだ。まぁ全く時間の無駄ではあるが。
「このままだと魔獣の群れがまたやって来るんだよ!?」
「もしこれに勇者様の言う効力があるとして、勇者様方はこのか弱い高等市民を教国まで守り切ればいいのです!!」
「こやつマジか!?」
「もう……やっちゃっていいかぁ……」
「ノエルの目が暗く澱んでるよ……!」
拘束されている癖に全身のバネを器用に使って逃げ回るカイルに、痺れを切らしたノエルが無言で聖剣を抜こうとする。しかし幸か不幸か他の神官が困惑しながら報告しにやってきた。
「あ、あの……怪我人を全員馬車に乗せましたが……これはいったい?」
その時である。
「好機!!
「飛んで逃げたわよアイツ!?」
「マジかあやつ腐っても神官じゃな!?」
簀巻きにされた状態でありながらも、勇者パーティーの隙を突いて聖術で逃げ出すカイルには最早呆れを通り越して尊敬を覚えるほどだった。嘘だが。
「……これ、元凶が逃げたけど放ってもいいよね?」
ノエルが勇者らしからぬ本音を吐き出す。
しかしそんなノエルに先程やってきた神官が申し訳なさげに言う。
「あの勇者様……カイル様がいないと教国に着いても命令を遂行する意思なしと見做されて聖剣を没収される恐れが……」
「……あぁ、そう」
「ノエルの顔が無の境地に……」
「あのクソ神官、そんな重要人物じゃったのか……」
ノエルたちの中でそんなに優先順位が高くなかったため直ぐに追わなかったが、どうやら間違った判断だったらしい。気付いた時にはもう既に森の中へと消え、行方を眩ませていた。
「……あれ?」
「どうしたのサラ」
「ここに、森ってあったっけ……?」
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