第2話 対決! ウーワ大盗賊団
翌朝、森を抜けたノルド達は目の前で数人の人間に追われている豪華な馬車を発見した。
「ヒャッハー!! そこの馬車止まれーッ!!」
「俺らに略奪させろーッ!!」
追い掛けている側の人間がそう言っている事から、どちらかが悪人かは明白だろう。そうでなくともノルドは彼らの顔が昨日見知った顔である事から、判断に迷う事はなかったが。
「お前ら……」
「おっと更に新しい馬車がって、ウワーッ!」
「ウワーッ! 昨日の大男ーッ!!」
「昨日あれだけ酷い目に遭ったのにまだこんな事をしてんのか!」
そう、彼らは偶然とはいえ昨日の時点で酷い目に遭っていた。
村の略奪をしようとしたら彼らの頭目が馬車に轢かれ、森の中で治療しようとしたら頭目が空から降ってきた超重量のメイスに押し潰されたのだ。
遭遇した出来事は偶然なれど、因果応報や天罰と言っていい出来事だろう。
「うるせぇ! 頭目はあぁなってしまったが、それで俺達ウーワ大盗賊団の歩みが止まるなんて事はねぇんだよ!!」
「ウワーッ大盗賊団?」
「ウーワ大盗賊団だよバカヤロウ!!」
似たようものだから別にどっちでも良いだろう。
「へっ、昨日は動転したがそれは仲間が少なかったからだ!」
「そうだ! 仲間がいればてめぇみたいな大男、恐るるに足らずって奴だ!」
「すげぇなお前よくそんな難しい言葉知ってんな!」
「勉強してたからな!」
「なんだこいつら……」
妙な盗賊だなぁと思うノルド。
それはそれとして、急ぎの旅とはいえ、困っている人間がいたら助けずにはいられない性分のノルドは、前方の豪華な馬車に追い付くために自身の馬車の速度を上げた。
背後から盗賊達の罵声を受けながら、ノルドは追い掛けられている馬車と合流し、並走を始めたノルドは相手の御者に向かって叫ぶ。
「追い掛けられているようだが、助太刀に入っても大丈夫か!?」
「願ってもみないご提案ですがぁ貴方方はぁ!?」
侍女姿の御者にそう尋ねると、彼女はそう言って警戒を露わにする。
彼女の反応を見たノルドは、笑みを浮かべながら答えた。
「勇者パーティーの戦士だ!!」
馬車を反転。
追い掛けて来ている盗賊方面へと駆け出したノルドの馬車に、この場にいる誰もが面食らう。だが、盗賊側だけは御丁寧に向かってくる獲物に最初は驚愕しながらも、瞬時に笑みを浮かべて喜びを露わにした。
「ヘッヘッヘ!! こいつら気が動転して生贄になってきたぜぇ!!」
「お前らかなり痛い思いをするから気を付けろよ!!」
「へ?」
間抜け面を浮かべる盗賊連中を無視して、ノルドはキングに声を掛ける。
ノルドの意図をそれだけで理解したキングは「ヒヒン!」と嘶いた。
そしてある程度まで近付いたその時、ノルドは叫んだ。
「いっけぇキング!!」
「ブルルルゥァアアア!!!!」
大地を震わす嘶きと同時に、キングは前足に力を込めて急停止。
そしてそれと同時にキングは、体を捩った。その瞬間、キングの引いていた馬車はキングを中心に慣性の働きによって横を滑っていく。
『……は?』
盗賊からも、御者をしている侍女からも呆然とした声が漏れ出す。
突如の、180度Uターン。
一見意味不明な行動。だがその行動は、盗賊達の先頭を走っていた人間をこの急旋回に巻き込み、まるで抉るのように彼らを薙ぎ払ったのだ。
『ウワーッ!』
「最後までそう叫ぶのか……」
盗賊達に先制攻撃を仕掛け、更に無駄なく方向転換を成し遂げたノルドの馬車はそのまま侍女が御者する馬車の方へと駆け出した。
「こ、これがかのデスキャリッジレースでも使用する走行技術!! そしてそれにも耐え得る車体の耐久性と柔軟性!! 凄いですよこれ!! ヘビーとゴムトレントを使用したこの車体はあの盗賊達と激突しても傷一つ付いていない!!」
「お、おう……ってかすまんクウィーラ! 許可取らずにぶん回した!」
「中身グッチャグチャですけど、興奮してますので最高です!」
流石デスキャリッジレースの熱狂的な観戦者だ。
「く、くそ! 早く立て直せ!! 怪我した奴らは置いていけ!!」
『へ、へい!!』
「ッチ!! なんて速さだあの馬車は!! 急旋回した癖にもうあの先頭馬車に追い付いてやがる! おい早くしやがれお前ら!!」
キングの驚異的なパワーによって引かれた馬車はすぐさま侍女が御者する馬車と並走する。
彼女はすぐ追い付いて来たノルド達に二度見をして、驚きを露わにした。
「え、ちょ、こちらはバトルホース二頭引きですよぉ!? なんで早くこっちに追い付いて来れて……ってでかぁい!! な、なんなんですかぁそのお馬さんはぁ!!?」
「良いだろ、キングだぜ?」
「ヒヒン!!」
その言葉にますます混乱する侍女だが、それでも彼らのお陰で助かっている現状に文句は言えない為黙って彼らと一緒に逃亡するしかない。
そんなノルド達を後方で睨んでいた盗賊の頭目補佐は、部下に対して命令を下した。
「本隊に向けて狼煙を上げろォ!! 俺達が大盗賊団である事を見せてやる!!」
「了解!!」
部下の一人が先端が拳大に丸い弓矢を空に向かって放つ。すると弓矢の先端から色のついた煙が飛び散り、空に一筋の線を書くように飛んでいったのだ。
「……ん? なんだ? 盗賊の一人が空に向かって何かを飛ばした?」
「あれはぁ……まさか狼煙ぃ!?」
「はっはっはぁ!! 俺達は所謂誘導役って事だ!! お前達が逃げた先には俺達の本隊が待ち構えているのさ!!」
「百人を超える規模のウーワ大盗賊団を舐めるなよ!」
その瞬間、ノルド達の前方に無数の団体が現れる。
巨人族、獣人族といった無数の異種族混合の大盗賊団がノルド達を略奪しようと本気を出して来たのだ。
「どどどどうするんですかぁ!?」
流石に絶体絶命だと思った侍女は涙目でノルドの方へと向く。
だがノルドだけは、目の前の集団を目にしても絶望の眼差しを浮かべていなかった。
「進路と速度はそのまま!」
「な、何をするんですぅ!?」
「前方の集団は俺が片付ける! クウィーラ!!」
そう言って、ノルドは御者台と車体を通じる扉を開けてクウィーラを呼ぶと、彼女は訳の分からない様子で出て来た。
「は、はい何でしょう!」
「交代だ!」
「はい! ……えぇ!?」
彼女の混乱を気にせず、勝手にキングの手綱を渡したノルドは馬車の屋根へと飛び移り、背中に担いでいた白銀のメイスを後ろに構える。
その姿を、豪華な馬車の中にいる彼女が見ていた。
「鋼の如き肉体に、巨人族と見紛う体格……そして白銀のメイス」
「じょ、女王いえ、お嬢様ぁ!?」
「シャロン、貴女は彼を信じてそのまま馬車を進めなさい」
「え、えぇ!?」
突如として聞こえた自分の主人の言葉にシャロンと呼ばれた侍女が涙を浮かべる。だが主人の命令には逆らえず、そしてノルドの行動以外の対抗策もないため、このまま馬車を進めた。
「本来の戦士枠である女騎士を破り、異例の勇者パーティー入りした一般人……その力、見せて貰いますわ」
「行くぞぉ!!」
その言葉と共に、白銀のメイスから強烈な爆発が発生する。
そして。
『……な!?』
巨人族と見紛う程の巨体が、大空を飛ぶ。
その姿に誰もが目を見開く。
「……はっ!? ほ、惚けてるんじゃない! 早く打ち落とせ!!」
『りょ、了解!!』
本隊のまとめ役が瞬時に我に返り、部下に空を飛んでいるノルドを射抜くように命じる。
だが、盗賊程度の練度それも空を自由自在に飛ぶノルドに当たる訳がなく、ノルドは徐々に本隊に近付いていく。
「くそ! だが一人でやって来てどうするつもりだ!?」
「こうするんだよぉ!!」
その言葉と同時に、ノルドの持つ白銀のメイスに光が集まる。
それは爆発によってメイスの振る速度を上げる技だ。
ノルドはそれを使い、地面に激突する瞬間に爆発によって加速したメイスを地面に叩き込むと同時に、爆発をもう一つ起動する。
「食いやがれぇえええ!!」
その瞬間、叩き付けたと同時に起爆した威力によって周囲にいる盗賊全員が一斉に吹き飛んでいった。
『ウワーッ!』
加速した力と爆発の力。更にノルドの怪力とメイス自体の超重量によって放たれる威力は、盗賊達がいた地面に深い傷を残す程の威力を誇っていた。
その一連の行動を一つにした必殺技、その名も。
「ふぃー……」
「ば、化け物か……」
――
穿壊魔竜を倒した際に取った一連の行動に師匠が命名したのだ。なお、ノルドはこの名前を忘れているため今後一切ノルドがこの技名を叫ぶ事はないので悪しからず。
「さて、残るはお前らだが……どうする?」
キングが引いていた馬車と豪華な馬車がすれ違うように走っていく中、ノルドはメイスを肩に乗せてこれからやって来る盗賊達を待ち構えた。
本隊を一瞬でやられた彼らは戦意を失い、徐々に速度を落としてノルドの前に止まる。
「くそ……何なんだ……俺達が一体何をしてこんな事に……」
「強いて言えば馬車を襲ったぐらいなのに……」
「まさに因果応報だろうが」
そう言えば昨日も同じやり取りをしたなと思い返すノルド。
「くそ、こんな化け物と一緒にいられるか! 俺達は撤退させて貰う!」
「いや判断早いな!?」
だがまぁ、と。
逃す気はないノルドは笑みを浮かべて、メイスに光を込める。
「ウワーッ大盗賊団解散祝いだ、受け取れ!!」
『ウワーッ!』
メイスを地面に突き刺し、爆発を使いながらてこの原理で地面をひっくり返す。
自分達のいる地面をひっくり返された盗賊達は、絶望のあまり目の前が暗くなった。
◇
「ふぅ……ようやく終わったぜ」
「ノルド様ー!! ご無事ですか……って何ですかこの惨状は!?」
「よぉクウィーラ! キングもお疲れさん!」
「ヒヒン」
事態を解決したのを確認したクウィーラ達が迎えにやって来る。
その隣には、盗賊から助けた豪華な馬車の姿もあった。
「こ、これがぁ……勇者パーティーの戦士……」
「よぉ! アンタも無事か?」
「は、はいぃ……これも貴方方が助けてくださったお陰で無事ですぅ……」
侍女の言葉に安堵するノルド。
すると、豪華な馬車の中からパチパチと鳴らす音が聞こえた。
「じょ……お嬢様ぁ?」
「もう助かったのだし、私が降りても問題ないでしょう」
透き通った綺麗な声だ。
そう思った瞬間、豪華な馬車の扉が開き、中からその豪華な馬車とは似合わない旅衣装を着た女性が降りて来た。
「お初にお目に掛かりますわ勇猛な戦士様」
美しい所作で自己紹介をするその女性の顔立ちは、どこか知り合いに似ていた。
「私の名前はヨルア……今後ともよろしくお願い致しますわ」
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