第40話 想いを貫く白銀光

 相手は古代都市の亡霊数千人と魔人ザイアによって操られた生存者数百人。

 そんな彼らと対する勇者パーティーの構成は四人と一匹。


「回復するよノエル!」

「うん……お願いサラ……」


 その内勇者は己の願望を拒絶した負荷によって戦闘不能。仲間である聖女に回復を掛けて貰い、他の仲間は勇者達を守るために陣形を組む。


「操られた生存者の見分け方じゃが、生存者の方が亡霊よりモヤの濃度が薄いのう」

「戦闘中に濃度を見分けながら手加減しろって事ね……楽勝じゃない」

「ヒヒン!」

「ふふ……」


 ヴィエラ達の頼もしい言葉にノエルは思わず笑みが溢れる。

 当然だ、彼女達は魔王を討伐するという運命に導かれた歴戦の戦士達。この程度の難関、対処出来ないようではそれこそ彼女達自身の誇りを傷付ける事になる。


「……頼んだよ、みんな!」




 ◇




「夢と、愛と、希望……ねぇ」


 そんな物、ご都合主義的過ぎる概念だ。

 この世にそんな甘い理想なんてない。あるのは理不尽なほどの現実。聖女の言葉に例えれば、あるのは絶望と、苦悩と、理不尽だろう。


「まぁそれは現実の三原則だ。僕の場合は違う」


 あるのは自由と、解放と、娯楽だ。

 自由のためならなんでもする。

 退屈を脱却するためなら全てを解放する。

 そして全てを娯楽として楽しむ。


 それでふと、奴隷の頃の自分を思い出した。

 あの時は確か、退屈な日常から抜け出したくて初めて自分の感情が生まれた日だ。

 奴隷として生まれた人間に感情なんてものは存在しない。だからその感情は、彼が生まれて初めて抱いた感情だった。


 自由になりたい。

 退屈から抜け出したい。

 そして。


『奴隷から解放されたい』


 その時、その奴隷は生まれて初めて主人に乞い願った。


『貴様……今なんて言った?』


 だがその後にやってきたのは凄惨な折檻。どうやら奴隷風情が感情を発露させた事がよほどお気に召さなかったらしい。

 次はないぞと釘を刺され、傷だらけのまま放置された奴隷は、暗闇の中で様々な感情を抱いていく。最初にやってきたのは落胆。次に苛立ち。怒り、憎しみ、嫉妬、そして渇望。


『もう、どうでもいいや』

 

 次がない? 奴隷風情が主人に願うな? それがどうした。もう決めた。決めてしまった。自由のためならなんでもする。それこそ主人を殺してでも自由になりたい。倫理観なんてどうだっていい。奴隷にそのような常識なんて存在しない。


 だから、殺す。


『おい、いつまで寝ている!? さっさと働け!』


 多少回復した体で、主人と会う。

 ボロボロの肉体を見ても何とも思わない主人が、いつも通りに命令を下す。そしてそれが、主人の最期の言葉だった。


『やった! やったぞ!!』


 だが自由になれたという予想は裏切られた。

 主人を殺した奴隷として追われたからだ。

 おまけに殺した主人が裏世界で結構な有名人だった。


『僕は自由になりたい、解放されたい……楽しみたい、だけなんだ……ッ!』


 そう世の中を呪いながら、この過酷な閉ざされた大地で権力者を殺した奴隷として追われた。


 当然、世を知らない奴隷は、心が折れそうになった。

 恐怖に襲われながら、息を止めて、それで酸欠死しそうになった。それでも明日をも知れない奴隷の身で頑張れたのは一冊の本だ。


 勇者物語。


 逃げた際にどさくさに紛れて主人の書斎から盗み出した本だ。

 物語の中の勇者が苦悩に塗れる度、絶望に陥る度、それでも前に向かって突き進む内容にとても励まされた。

 勇者の中の苦悩と絶望がどこか今の自分の境遇に似て、共感出来たから頑張れたのだ。


 そして。


『あれは……なんだ?』


 遠目に、徐々に広がってくる禍々しい黒い霧が見えた。

 それがなんなのかは、今更言わなくても分かるだろう。


「あぁそうだ……それが僕の人生だった。僕の人生に夢とか愛とか希望とか、そんな物は無かった。第一そんな物があったとして……」


 果てしなく詰まらない。

 そんな物、必要ない。


「さぁ勇者様。この僕に勇者様の苦悩と絶望を見せてくれよ。それを乗り越える勇者様を見せてくれよ。永遠に、死ぬまで、ずっと、僕を楽しませてくれよ」


 勇者物語で嫌いな物が一つだけある。

 足掻きに足掻いて、そして最後に辿り着く絶対不変の結末。

 その幸せな結末ハッピーエンドという物が、嫌いだった。


 そこだけが、共感出来なかったのだから。




 ◇




「やぁ!!」

「がぁ!?」

「……よし、多少動けるようになった!」


 時間を稼いでくれたお陰で、ノエルはある程度反撃出来る体力まで回復した。

 あまり激しく動けないが、それでも操られている人々の猛攻を凌ぐぐらいは出来る。それにサラが空いた事で突破口が開いたのだ。


「『あなたに愛の慈悲を』!!」


 サラの唱える『奇跡』によって亡霊と洗脳された人々が解放される。

 考えてみれば当然だ。相手はザイアの発する瘴気によって操られた人々。それなら瘴気を吹き飛ばす『奇跡』を使えるサラの独壇場だろう。


 尤も、それで事態が好転したわけではない。


「僕の事を忘れて貰っちゃあ困るよ!!」

「ザイア!!」


 操られた人々の中に混じってザイアがちょっかいを掛けてくるのだ。


「くぅ……っ! この……!!」

「ははは! まだまだ万全じゃないねぇ!」


 体の動きが思考に追い付けていない。

 普段なら対処出来る攻撃も、今や防ぐだけで精一杯だ。


「ほらほらほら! まだまだ後がつっかえているよ!」

「……っ!」

「駄目っ! 『奇跡』が間に合わない!」


 亡霊の攻撃を防ぐと同時にサラの悲鳴が聞こえる。

 どうやら数が多すぎて、対処が間に合っていないらしい。

 その上、ここに来て魔人の性格の悪さが発揮してくる。


「おっとここに無防備な人間がいるねぇ! 危ないからお兄さん退けるよー?」

「やめろ!!」


 亡霊と違ってサラの『奇跡』を受けて解放された人はその場に倒れる。そんな彼らを魔人は蹴り出そうとしてきたのだ。

 魔人の蹴りを受ければ確実に死ぬ。

 だからこそノエルは魔人の攻撃から必死に人々を守る。


「おーおー! 残念防がれちゃいましたぁ!」

「ぐあっ……!! ぐ……キング、お願い!」

「ヒヒン!!」


 代わりに攻撃を受けたノエルは痛みを必死に耐え、キングに人々を任せる。それで任されたキングが安全なところに運んで、また運ぶの繰り返し。


「さぁていつまで続くかなぁ!」


 はっきり言ってじり貧だ。

 ちらりとサラの様子を伺えば、彼女は目に見えて疲労していた。

 ここまで仲間に対する決死の治療に、人々の解放。いくら『奇跡』があっても、それを使うサラの体はただの人間なのだ。疲労が出て当然だろう。


(長期戦は無理……その上短期戦も無理)


 今はもう、そのような体力は何も残っていない。

 だが何とかしなければ後はない。それなのにその妙案が思い浮かばない。


(ノルド……君だったらどうするのかな)


 ふと、ここにいない戦士の姿を思い浮かべるノエル。

 魔人の度重なる精神攻撃に弱気になってしまったのか、もしくはこの過酷な状況の中己の未練がましい恋心のせいで求めてしまったのか。


 そしてふと思い浮かんだその問いに、ノエルはすぐさま答えを出した。


(……どうするも何も、ノルドなら頑張るだけじゃないか)


 頑張って、事態をどうにかしてしまうのがノルドだ。

 そんなノルドを、ノエルは見続けてきたから分かる。不可能を可能にする男のその力というものを。きっとノルドならこんな状況でも全てを救ってしまうのだろうと、考えてしまう。


(でもここにノルドはいない。だから僕達で何とかするしかない)


 ノルドと同じ、不可能を可能にして全てを救う事をノエル達はしなくちゃいけないのだ。


(一体何をすればそんな事が出来る? 何を可能にすれば全てを救える?)


 考える。考える。

 こちらの思考を読んでニヤニヤと笑う魔人を無視する。


(今ある戦力を纏めるんだ……)


 サラは瘴気に対する特攻を持つ『奇跡』の担い手。

 ヴィエラは全てを防ぐ『鉄壁』の戦士。

 ノンナはあらゆる状況に対応出来る『万能』の聖術士。

 キングはどこへでも駆けて行ける『剛脚』の戦馬。


 そして、勇者は?


(僕は、何が出来る?)


 魔人を斬り伏せる聖剣。

 全てを切り裂く技。

 騎士団長として鍛え抜かれた技術と経験。


 その他は? その他に何がある?


 思い当たるのは女神の加護。

 女神への信仰を力にする勇者の証。


 それで、何が出来る?


「――」

「へぇ……そう来たか」


 魔人の興味深げな眼差しがノエルを見つめる。必殺技である『斬魔激玲』と同じ過程で、ノエルは聖剣にマナを込めているのだ。


「これみよがしに力を込めちゃってまぁ……僕に解放させてくれよって言ってるようなもんでしょこれは」

「……やれるなら、やって見てよ」

「……」


 ノエルの挑発にザイアは答えない。

 ザイアは分かっているのだ。思考を読めるザイアは、今ノエルが何をやろうとしているのか理解している。理解した上で、


「マナは想いの力だ。『斬魔激玲』は全てを切り裂く想いで聖剣にマナを込めていたから、あの技を使う事が出来た」


 攻撃的なマナの力だからこそ、それを解放された瞬間ノエルにもダメージが行った。

 ならばその逆の事を考えるのだ。

 今、ノエルが聖剣に込めた想いの力は『瘴気の浄化』。それ以外の想いは込めておらず、だからこそ魔人によって解放されても使い手にダメージはない。


 それどころか。


「もし君が僕の力を解放させた瞬間、マナの塊は君だけに牙を剝く」

「……果たして狙い通りに行けるかな?」

「僕は行けると思ってる。そして僕が思ってるからこそ、君は動けない」


 思考を読んだ上で最善の行動を取ったと思っても、逆にその思考のせいで自分に不利になってしまう事もある。結局、思考を読んでも判断するのは自分の責任なのだ。


 だからザイアは迷う。

 ノエルの企みが成功するのかどうか。自分が介入してもいいのかどうか。

 古代都市の住民をけしかけようにも、見事にノエルの仲間達が牽制してくれている。仲間もノエルの行動に何か意味があると思っているからノエルの好きにさせているのだ。


「……だからこういう思考をする奴は嫌なんだ」

「来ないの? 来ないなら……こっちから行くよ!」

「チィ!!」


 ノエルの聖剣の剣先が、魔人へと向けられる。その瞬間、ザイアは全能力を駆使してその場から離れようとする。


「逃さない……!」


 マナが聖剣の剣先に圧縮されていく。

 これがノエルの編み出した新しい勇者の技。

 どんなに遠い相手でも射抜く白銀光。


 その名も――。


「『魔断桜炎まだんおうえん』ッ!!」


 聖剣の先から、巨大な白銀の光が放たれる。


「うおおおおおっ!?」


 逃げる、逃げる。

 聖女の『奇跡』よりも遥かに凶悪なマナの力から逃げ続ける。

 だがそんな事、ノエルが許す筈もなかった。


「うぅ……はああああああ!!!」


 未だに白銀光を放ち続けている聖剣の方向を強引に変える。それと連動して、聖剣から放たれている白銀光も移動した剣先に沿って移動し始めた。


「何だよそりゃあ!?」

「あぁ――」

「がぁ――」


 途中、射線上に存在する亡霊と古代都市の住民をも巻き込んで、魔人ザイアへと迫り来る。見ればノエルの技を喰らった亡霊はその場で消滅し、住民の方は瘴気から解放されその場に倒れている。まさに瘴気だけを浄化する奇跡の技だ。


「くそ……! この技は消耗するから使いたくなかったが……!!」


 その瞬間、白銀の光がザイアの体を包み込む。悲鳴も何も出させないまま、白銀の光はザイアの体を包み込んだまま数分の間流れ続けていく。


「くっ、はぁ! はぁ……!」


 息を吐き出すと同時に白銀の光が消滅する。

 流石に初めて使った技は慣れていなく、女神の加護という無限に等しいマナを扱える勇者であっても消耗が激しいようで、ノエルは聖剣を杖にして荒く息を吸っていた。


「やった……ノエルやったよ!」

「あれだけの亡霊を八割ぐらい消し飛ばすとはのう……!」


 仲間がノエルの行動に喜びの声を上げる。

 確かに未だに亡霊や洗脳された住民はいるものの、懸念となっていた数はノエルが減らしてくれたお陰で、十分対処出来る数になっていた。


 それに誰の目から見てもザイアは瘴気を浄化するあの白銀光に飲み込まれたのだ。

 この戦い、勇者パーティーの勝利であると、誰もが一息をつく。


 だが。


「危ねぇ危ねぇ……危うく死ぬところだったぜ……」

『!?』


 響き渡るその不快な声に、誰もが絶句する。


「……どうだい? これが僕の『魔術・回生理力異界再演かいせいりりょくいかいさいえん』だ」


 そこには、白銀の光によって溶けているものの無数に絡まりながらザイアを守る肉の壁があった。そしてヴィエラは、その肉の壁を見て瞬時にその正体に辿り着く。


「あれは、まさか穿壊魔竜ドラゴンズワーム……!?」


 そう、ザイアを守った肉の壁とは複数の穿壊魔竜が絡まって出来た物。

 だからこそどうしてこの場に都合良く穿壊魔竜がいるのか理解出来ない。

 困惑するノエル達に、ザイアは答える。


「これは穿。記憶を読み取り、読み込んだ記憶の中にある存在を実体化させる解放する僕の切り札」


 その説明に、誰もが息を飲む。

 もしそれが事実ならば、勇者パーティーはこれ以上ないほどの危機に陥るからだ。一体どれほど強大な敵と遭遇したのか、一体どのような相手と戦ったのか。それらの記憶がそのまま魔人ザイアの戦力として上乗せされる。


「尤も、これを使うのにかなりの瘴気を使わなくちゃいけない。だから実体化させる相手を慎重に決めなければいけないけど……」


 ニタリ、とこの戦いで何度も見た不快な笑みを浮かべる。


「僕には仲間がいる。僕より強くて厄介な魔人がね。その子の助けを借りようか」

「させないよ! 『魔断桜炎』!!」


 聖剣の剣先からまた白銀の光が放たれる。

 だがその光はザイアに当たる前に、再生を済ませた穿壊魔竜の肉の壁に阻まれる。


「まだまだ他にもいるぜ!」


 数体の穿壊魔竜が己の体を犠牲にして光を阻んでいる間、その両脇から二体の穿壊魔竜が飛び出してきた。


「直線の攻撃じゃあこいつらは防げないだろう!」

「それは、どうかな!!」


 今放っている光を止めて、聖剣を腰に構える。

 そしてそのままノエルは聖剣を水平に振った。


「『魔断桜炎』!!」


 全てを切り裂く近距離用の『斬魔激玲』とは違い、『魔断桜炎』とは聖剣に込めたマナを飛ばす遠距離用の必殺技。直線の光線だけではなく、聖剣の刃から無数の光の塊を弾丸として飛ばす事も可能なのだ。


『――!!!?』


 白銀光の弾幕を受けた穿壊魔竜は、再生も追いつけない程体を抉られながら、その数を減らしていく。だがその光景を見てもなお、ザイアは笑みを崩さない。


「やるねぇ勇者様……念には念を入れて数だけ増やして良かったよ。これで時間稼ぎぐらい何とかなるね」


 状況はザイアの方が劣勢だ。

 ノエルも慣れない必殺技で意識が朦朧としているものの、ここが勝負所と感じているせいか気力を振り絞ってザイアを倒す事だけに専念していた。


 今のザイアにノエルの技を突破する術はなく、まさに絶体絶命。

 ザイア一人であれば、敗北は確実。それが今の状況なのだ。


「尤も僕一人であれば、な! さぁ繋がってくれよパイセン!!」


 瘴気を集めて、遥か地下にいる筈の仲間に連絡しようとするザイア。

 だがここで、彼は思いも寄らない事態に遭遇する。


 仲間から感じる異常な状態に、ザイアは呆然とした。


「……は? 何だこれ……カイネちゃんの瘴気が薄まってる……?」


 頼みの綱であるもう一人の魔人カイネと繋がったザイアは、今の彼女の状況を知って呆然とする。何故ならカイネの中の瘴気が薄れていき、更には魔王との繋がり自体も切られようとしていたのだ。


「存在自体が消えたわけじゃない……でも瘴気だけが、魔王様との繋がりが途絶えようとしている……? 魔人から……?」


 あり得ない。あり得るはずがない。

 一体どのような状況に陥れば、そのような事になる?

 困惑、それと同時にザイアの中に過去の記憶が蘇る。


「そんな……そんな簡単に? 自由になるのか? 解放されるのか? あんな、あんなに求めてやまなかった自由が……僕以外に?」


 許さない。許されない。

 同じ魔王の眷属主人の奴隷の癖に自分より解放されるのは許される事じゃない。


「は、はは……」


 どの道瘴気が薄れている状態じゃあ戦力にはならない。

 なら役目だけは全うさせようじゃないか。


 ザイアの顔に、これまで浮かべてきた笑みとは別の寒気がする程の笑みが浮かぶ。


「ねぇカイネちゃん……ダメだよ? そんな事をしちゃあ……」


 彼女の瘴気を、魔術を解放する。

 許容量を超える程の瘴気は、カイネの体を確実に壊すがそこはどうでもいい。重要なのはカイネの持つ魔術の仕様。全ての所有権を手にする魔術を、限界を超えて解放させるのだ。


「『僕より先に『解放』されるのはダメだよー?』」


 最後に言い残して、ザイアはカイネとの繋がりを断った。

 あとは、カイネの魔術が役目を果たすのを待つまでである。


「さぁ勇者様。準備は滞りなく終わったよ?」

「はぁはぁ……ザイ、ア……!!」

「息が荒いねぇ? まさかもう体力がなくなった? 残念、本番はここからだって言うのに」


 その言葉と同時に地面が揺れる。

 立っていられないほどの揺れに、ノエル達はどうすればいいのか迷う。


「一体、何が……!?」


 どれぐらい長く続いたか分からない。

 数分のような気もするし、数十分経ったような気もする。

 そしてふと、地面の揺れが徐々に強くなっていくのが分かる。


「一体何をしたのザイア!!」

「『勇者ブレイバー』さ! 魔王様の対抗するための巨大無人動鎧ゴーレム!! 僕の仲間がそれを起動させたんだ!!」


 更に揺れが大きくなる。


「いや……揺れが近付いてくる……?」

「……対魔王用兵器は地下にある……という事は……マズい!! 地下から出てくるぞ!」


 ノンナの叫びにノエルは目を見開く。

 そして同時に、地面を割り中から巨大な何かが飛び出してきた。


「はははは!! もう遅い!! 僕達の目的は既に達成された! これが人類の編み出した兵器! 魔王様を倒す筈だった兵器!! それが今や僕達の手に渡ったんだ!!」


 その大きさは穿壊魔竜よりも遥かに大きい。

 そのような大質量の存在が自分達の敵に回ると言う事実に、誰もが絶望する。


 ――筈だった。


「……え?」


 誰かが困惑の声を出す。

 何故ならそこには影があった。


 勇者ブレイバーの腹に拳を叩き込みながら、空へと打ち上げるもう一体の巨大無人動鎧ゴーレムが、そこにいたのだ。


「うおおおおお!! ようやく地上に出たぞおおおお!!」


 見知った声。見知った姿。

 ここにはいない筈の戦士が、もう一体の無人動鎧ゴーレムの肩に立っていた。





「……ノルド?」


 ノエルが、呆然と彼の名前を呟く。

 そして無意識に、笑みを浮かべた。

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