古代都市編
第23話 愛の危機一髪
ある日、ノルドは思った。
「……あれ? 告白の頻度が下がってる……?」
思い返せばここ最近、帝国で魔人を倒し、ドワーフの里で魔竜を倒すなど告白する余裕がなかった。旅の道中も仲間との歓談とかもあって、告白する機会もない。
いやそれどころか。
「おーなんじゃなんじゃ? また告白かー?」
と煽られ、更には。
「好きです!」
「ごめんね」
「はい解散じゃー」
と蔑ろにされる始末。
特定人物のせいなのかもしれないが、こんな空気では告白しても成功する気がしない。それどころかお約束と認識され、今回も駄目だろうと思われている。
「勇者パーティーに入る前は毎日告白していたのに、今じゃあ三日に一度がざらだ……」
毎日だから行けなかったのだろうか。
いや、本気でサラの事が愛しているからこそ続けてこれたんだ。
毎日毎日空気や状況なども考えて、告白もしてきた。
そんな毎日やる事が日課などと、まるで芸人ではないか。
「いや、まぁ……いつもの事だし」
毎回この告白劇に居合わせた人達に驚かれ、その度にいつもの事だと説明してきた。
そう、ある意味日常になっていた。
「……いや、違うだろ」
自ら浮かんだ考えにノルドは頭を振って散らせる。
いつものとはなんだ。
日常とはなんだ。
まるで告白して玉砕するのが、当たり前だというのか。
「俺は……真面目で、本気なんだ……!」
本気でサラと付き合いたい。
サラに一目惚れして、サラの笑顔を見るのが好きだった。
カラクの話す恋愛物語の中に『告白して、幸せに暮らした』という物語の最後を聞いてサラに告白すれば、ずっと笑顔でいられるのではないかと考えた。
二度と、あの日のような涙を浮かばせないように。
「俺は歪んだ……!! 何が日常だ、何が日課だ……! 手段と目的が逆転しているぞノルド……!! 日課のために告白してきたんじゃない……俺は、サラと付き合うために諦めてこなかったんだ……っ!!」
そう考えればこれまでの告白はただの惰性による告白だ。
惰性なら、玉砕するのも仕方がない。
「初志貫徹だノルド! 今から歪んだ俺は死んだんだ!!」
ならば次はどうする。
勇者パーティーとして行動する以上、魔人や魔獣によって明日をも知れぬ我が身。しかしそれで焦って告白をすればそれはただの生き急ぎ野郎だ。
そんな野郎は果てしなくダサ過ぎる。
「考えろ……どうする……俺はどうすればいい……!?」
考えて、考えて。
それでふと、昔の記憶が蘇った。
◇
『なぁ爺ちゃん……告白が上手くいかないよ……』
『えぇ……それわしに言う? 恋人がいない歴と年齢が等しいジジィなんじゃが?』
『なんだろう……俺爺ちゃんから聞いた恋愛物語のような告白してるんだけど、遊びだと思われてるみたいで……』
『わしの糞雑魚恋愛経験を無視するの止めるのじゃ。明らかに役立たずじゃろうわし』
『なぁ爺ちゃん教えてくれよ!!』
『あぁうん……多分その場の空気とか場所とか悪かったんじゃないかの……わし知らんけど』
◇
「これだぁ!!」
思い返してみれば、これまでの告白は草原や森の中でどこにも告白に適した場所ではなかった。明らかに時間が空いたから取り敢えず告白をしとこ、ぐらいの空気だったのかも知れない。
ならば当然、告白が上手く行く筈もない。
「場所と、空気! この旅で告白に適した状況を見つけられるのか……!?」
だが探すしかない。
告白一辺倒の性格ではない事を証明するために、そして告白を成功するためにノルドはこれまでの自分を反省し、より決意を新たにする。
「うおおおおおお!!! 頑張るんだ俺ええええええ!!!」
そんな遠くでノルドが雄叫びを上げるのを見たノンナが呆れ声で言った。
「……あの馬鹿は何をやっておるんじゃ?」
「まぁ、いつもの事じゃない?」
「それじゃあ次の目的地を決めようか」
「はーい!」
ノルドを他所に焚き火を囲んでいるノエル達は、今後の話をする。
ドワーフの里から出発して数日、ノエル達勇者パーティーは様々な村や街に寄り道をして魔獣や盗賊を倒してきた。
その報酬で、勇者パーティーの備蓄は貯まっていったが、今回は先程の村からかなりの日にちが経っており、少々備蓄していた食糧が心許なくなっていたのだ。
「それでちょっとだけケーン大陸への道程から外れて、その先にある都市に行こうと思う」
「その場所というと……『古代都市』ね」
「古代、都市……?」
「数千年にも及ぶ魔王との戦いで、一時期人類の歴史が空白となった時期があるのじゃ」
魔王の力が勇者や女神すらも超えていた時代があった。
それまで勇者の活躍によって魔王の脅威が脅威でなくなった時代。人々は繁栄し、文明や文化がこれまで以上にない栄華を誇っていた時代の話だ。
復活した魔王の力は女神の加護の力を超え、当時数百あった巨大な国々が僅か一週間で片手で数えるぐらいの数にまで減ったという。
誕生した勇者や聖女ですらも魔王、いや魔人や魔獣によって度重なる敗北を喫し、ケーン大陸にすら近付けないほど。
「幸いなのはこれまでの繁栄で、当時の人類は勇者無しでも戦える力を持っていた事じゃ。それによって全人類による決死の行動によって何とか勇者達を魔王に送り届ける事が出来た」
だがその過程でとんでもない数の人が死に、聖女は魔王と刺し違える形で亡くなった。
そして勇者もまた、その時の戦いで僅か数日で死んだという。
「……」
ノンナの語る歴史にサラが息を飲む。
そう、これが魔王。
決して生易しい相手ではなく、死の危険が伴う相手。
「……まぁ話を元に戻すが、これから行く『古代都市』とは先程の話に出た国の上に出来た都市なのじゃよ」
「上に……出来た?」
「えぇそうよ。遥か地下の奥深くにかつての国の残骸があり、その残骸を自分達の利益のために探索する人々が集まって出来た都市が、古代都市と呼ばれる街よ」
「そこでは日夜探索者と呼ばれる人達が一攫千金の夢を見ながら地下に潜っているんだよ」
空白の時代の国には今の世界を超えた知識や道具が溢れている。だからこそ、そこで何か見つかれば莫大な財産と共に一生を終える夢が、そこにあるのだ。
「……凄い面白そう!」
サラが目を輝かせてノエルに詰め寄る。
ノエルはそんなサラに微笑ましい表情で落ち着かせる。
「夢があるのは確かだけど、僕達の目的は地下世界への探索じゃなく補給目的で行くんだよ?」
「……探索しないの?」
「うん」
「しないのかー……」
落ち込むサラにノエル達は苦笑する。
そして次の目的地が古代都市になった事で、一行は眠る事にした。
「うおおおおお!!!」
……ノルドを残して。
◇
更に数日が過ぎ、一行はついに古代都市へと辿り着いた。
古代都市はこれまでの街や国とは違い、都市の周囲を壁や柵で囲んでいるのではなく、ただ大小様々な建物が乱雑に建てられているような風景だ。
「何か……国って感じでもないな」
「うん。ここは正確には国じゃないんだ」
「国じゃない?」
ノエルの言葉にノルドが首を傾げる。
今まで寄り道してきた場所は何かしらどこかの国に所属しているか、もしくはその国そのものだった。だからこそノエルから国じゃないと言われたノルドは、理解出来ていないというような表情を浮かべた。
「それぞれの目的を持った人々が集まって出来た巨大集落……だから周囲から国として認められていないし、都市の名前もない」
だから古代都市としか呼ばれていないのだ。
「全ての責任は自分にある。そして信頼出来るのは人じゃなく、金という価値あるものだけ」
「な、何というか厳しそうなところだな……」
「どこも、そう簡単に夢を叶えられる場所なんてないって事だよ」
そう、どこか寂しそうに言うノエル。
すると、そんな彼らに二人組の男女がやってきた。
「おや? もしや勇者パーティーの皆様でしょうか?」
「え、と……貴方達はもしやラルクエルド教の……?」
「はい! 私達はここの古代都市で布教している神官です!」
二人の姿はこれまで見てきたラルクエルド教の神官と同じ、法衣を着ていた。男はまるで糸のような細めで胡散臭い笑みを浮かべ、少女の方は真面目そうな印象を受ける。
「おぉ自己紹介が遅れました……私、カイル・マグバージェスと申します」
「はい! そして私がクウィーラ・サドリカと申します!」
「あぁご丁寧に……僕が――」
「――あぁいえ、勇者様方の事は把握しております」
二人の紹介に勇者一行も自分の名前を告げようとする。
しかしノエルの紹介をカイルと名乗った神官が遮った。
「聖剣ラヴディアに選ばれた勇者ノエル・アークラヴィンス次期公爵!」
「……はい、確かに」
次期公爵、そう言われたノエルの眼差しはどこか冷めているような気がした。
「それで貴女はこの度聖女に選ばれたサラ・ラルクエルド様ですね!」
「は、はい……!」
「あぁ実にお美しい! 貴女が先代聖女様の転生体と言われても納得が行くと言うものです!」
そう言って、次はヴィエラの方へと視線を向くカイル。
ヴィエラはそんなカイルに嫌そうな表情を隠そうともせず引いた。
「おぉ貴女こそはラックマーク王国一の近衛騎士と謳われる『あの』ヴィエラ・パッツェ様ですね!」
あの、という点を強調するカイル。
その言葉の意味を勇者パーティーは理解出来なかったが、ただ一人だけ。ヴィエラだけがその言葉の意味を察して、顔を険しくさせた。
それでもなお、カイルはまるでヴィエラの様子を無視するかのように言葉を続け、そしてその時がきた。
「稀代の天才騎士! 史上最強にして最硬の盾! いやぁまさかまさかですよ!」
どこか、ニィッと誇るような笑みを浮かべて。
「まさか……ここでラルクエルド教のさい――」
何かを口走ろうとしたその瞬間。
「――今すぐその口を閉じなさい」
『……!?』
突如としてヴィエラが底冷えするような声でカイルの話そうとした言葉を遮る。それどころか辺り一面に強烈な圧を放ち、いつでも剣を抜けるように柄を掴んでいた。
そんなヴィエラの殺気を受けたカイルはと言うと。
「……えぇ申し訳ございません! 何分の生の近衛騎士の隊長を見るのが初めてで」
「……」
臆していなかった。
ノエルでさえも内心肝を冷やしたヴィエラの殺気を受けてもなお、カイルは冷や汗もかかずにいつも通り胡散臭い笑みを浮かべて謝罪した。
「さて、お次はノンナ・ノーン・ノイナ様! 帝国の宮廷聖術士にお会い出来た事、実に光栄です! 貴女様の勇者パーティー内でのご活躍、古代都市にいる私達にも届いておりますよ!」
「えぇ……何じゃお主……肝が太すぎじゃろ……?」
カイルの調子にノンナが引きながら、まるで関わりたくないかのようにサラの後ろに隠れた。
続いて彼はキングでさえも、その存在に驚嘆し、褒め称えた頃、最後は恐らくノルドだろうと誰もが考えたその時。
「さて! 自己紹介も済んだところですし、この都市を案内しましょう!」
『――』
彼はチラッとノルドを一瞥しただけで、無視をしたのだ。
まるでノルドだけ最初からいなかったかのように。
まるで路傍の石を一瞥しただけの彼に、ノエル達は顔を険しくさせた。
「……え? ……え?」
ただノルドだけはどうして自分が無視されたのか分からない様子だが。
「それではクウィーラさん? 行きますよ!」
「え? あ、あの……は、はい……!」
クウィーラもまた、カイルの失礼な行為に困惑するも、カイルの方が立場が上なのか困惑しながら先を歩くカイルの後を追った。
そしてカイルはふと、その場で佇んでいる勇者パーティーに気付き、笑顔で手を招いた。
「どうしましたか? 勇者様方! ささ、こちらにいらしてください! 私達がちゃんとこの都市の良いところを案内してあげますよ!」
まるで自分の行動が間違っていないと思っているような言動。
そんなカイルの姿を見て、ノンナはノエルに話しかける。
「……なぁノエルや。彼奴はもしや」
「……」
ノンナの言葉にノエルは反応しない。
だがその表情が、ノンナの言葉を肯定しているような物だった。
カイル・マグバージェス。
恐らく彼は、今の勇者パーティーの編成に不満を持っている者達の一員。
即ち――。
「さぁさぁ! こちらですよー!」
――ノルドを排除したいと考える者達だ。
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